トラヰブの狂宴8
膠着状態に疲れたのか、犬使猟大狼が呟く。
「あー、こいつァ、キリがねェ」
「だったら大人しく帰るが良いニャ」
猫ちゃんが毒づく。
「あー、まァいつもならそうするんだがなァ」
少し歯切れの悪い物言いをする犬使猟大狼がオレの方を指差す。
「猫台風、アイツはなんだァ?」
いつのまにか犬、猫、豚の争いは止んでいる。全員が犬使猟大狼と猫ちゃんのやり取りを見守る。
「オレは猫台風と遊ぶのが好きだ。今日はオーク魔ヤバ豚と……そこのなんだ、チンコリンかァ?そんな奴らまで来てお祭り騒ぎだ。面白くない訳がねェ」
「待て!オレはチンポコリンだぞ!」
「オウ、チンポコリンか。お陰で楽しめてるぜェ」
犬使猟大狼の背後で砂埃が上がる。
さっきから何で砂埃を上げるんだかわからなかったが、これ尻尾の風圧か。
尻尾ブンブンして突進って、まさかコイツ……はちゃめちゃ楽しんでたのか。
「猫台風がオレ達の所に来れば、毎日遊べるってェのによ、何が嫌なんだかなァ」
「オマエら暑苦しいんだニャ。オマエらといたら一人の時間もないし追いかけ回されて楽しくないニャ。」
「一番楽しいだろォ、ソレ」
「私達はゴロゴロ過ごしたいニャ」
あー。
これ単純に犬と猫の性格の違いですわ。
じゃれつきたい犬と、面倒くさがる猫。
つまり犬使猟大狼は猫台風が大好きなワケか。
「ンー、まァそれでもこうしてたまに遊べるんならイイんだがナ」
犬使猟大狼がこちらを一瞥する。
「ただなぁ、残兵を連れてこいって命令でなァ」
オレェ!?
「どういうことニャ?」
「主が出来たんだよ。おい、コダマァ!」
犬使猟大狼が声を上げると邸宅裏の森から人影が近づいてくる。犬使猟大狼とほぼ同じ体躯だが、やや肉付きは良い。
顔は虎のそれで、体は縞模様の毛に覆われているが筋骨隆々。人狼の次は虎男ときた。
牙いかつい。おっかねえ。
「犬使、残兵というのはアイツか?」
虎男は見た目とは裏腹に上品な雰囲気で犬使猟大狼へ話しかける。
「モンスターがザンペイさんっつってんのを聞いたぜ。他の奴らの名前も違うし、ソイツでまず間違いねェ」
「連れて行く」
虎男はそう言うと、真っ直ぐこちらへ向かってくる。
「待つニャ!」
猫ちゃんが声をかけるも、虎男は気に留めた様子もなく歩いてくる。
「猫台風か。そんな消耗した状態で私達とやり合っても無駄だ。」
「何者だニャ」
「虎魂。虎の魂に大きな牙と書いて虎魂大牙だ。オマエ、猫が虎に勝てると思うか?」
「…………!」
猫ちゃんも珍矛林も反論出来ない。
「おい虎魂ァ。猫台風達に手を出すんじゃねェぞ。オレの遊び仲間だ。」
犬使猟大狼の意見に対し、虎魂大牙はため息で返す。
そしてオレを守る竹格子を切り裂くと、呆然とするオレの肩を掴み、振り向いてこう言った。
「皆さん。私達は今回、この男を回収に来ただけです。他に誰も傷つけるつもりもありません。ただし邪魔をするつもりならば私と犬使が全力でお相手します。よろしいですね」
恐ろしく強い言動。オレでなきゃ漏らしちゃうね。
「ザンペイを、どこに連れて行くつもりニャ」
これに対し、犬使猟大狼が答える。
「オレ達の主の所だ。猫台風、オマエも来るかァ?」
虎魂大牙が呆れ顔で言う。
「犬使、オマエが猫好きなのは分かるが……」
「行くニャ」
マジで?
「でもオーク魔は返してやって欲しいニャ。アイツは13歳、豚としては年寄りでも、本来はただの若いミニブタニャ」
「猫さん、違いますよ。ミニブタは小型の豚の総称であって、子供の豚という意味ではありません。そもそも豚にはミニブタという種類はな」
「オーク魔うるさいニャ」
猫ちゃんによって黙らせられるオーク魔。
「強兵さんによろしく言っといて欲しいニャ。ザンペイは連れてかれちゃったけど、私も一緒だし直ぐに脱出して逃げますってニャ」
「猫台風、オレ達の前で言うかァ?それ」
犬使猟大狼が楽しそうに言う。
虎魂大牙は興味なさそうに答える。
「構いませんよ。私達の受けた命令は残兵を連れて来いという事だけです。本来、富国強兵一派と事を構えるつもりもありませんでしたし」
「んでもって強いヤツが大好きだしなァ、主。猫台風を連れて帰ったら喜ぶだろ」
竹格子から出されたオレは虎魂大牙に担ぎ上げられる。
オレ今日はこんなんばっかりだな。まさにお荷物の体現のようだ。
猫ちゃんが珍矛林に声をかける。
「珍矛林はどうするニャ?そもそも強兵さんとも面識はないし、他の奴らと一緒に野良として過ごしてても良いニャ」
珍矛林は上を向いて何かを考えているような素振りを見せたが、直ぐに答えを弾き出した。
「珍矛林!行くぞ!」
「だよなァ」
犬使猟大狼が満足そうに相槌をうつ。
珍矛林は犬っぽい。犬使猟大狼とも性格が合うんじゃないだろうか。
虎魂大牙が振り返って言う。
「仲間の猫達は連れてきても来なくてもどちらでも良い。猫台風の戦闘能力に必要な者達なら、連れて行った方が主は喜ばれると思う。」
猫ちゃんが鼻を鳴らす。
「フン。何が起こるか分からニャい所に手下を連れて行けないニャ。私が戻るまでコイツらは自由に過ごすニャ」
猫ちゃんが大きく鳴くと、猫達は少し戸惑った動きを見せたが、それぞれ森や住宅街へと姿を消した。
「さて、案内するニャ。犬使猟大狼を従えた主様の所に」
立ち尽くすオーク魔。
供物として連行されるオレ。
まだ朝だというのに、晴れているというのに、暗雲立ち込める展開しか想像できないまま一行は移動を開始した。
ちなみに全然喋らせてもらえないけど、オレって人権をどこかで紛失したんだろうか。
少し疑問に思ったが、同行するのは虎男に人狼、猫、犬達だ。豚は抜けたが、相変わらず人外しかいない。
これはもう、人権など存在するはずもないわけだ。ワハハ。




