トラヰブの狂宴7
「猫台風……」
犬使猟大狼が名を呟く。
「猫台風!!」
犬使猟大狼が名を叫ぶ。
背後に風が起こり、砂埃が舞う。
「なんニャ。馴れ馴れしく呼ぶニャ犬使猟大狼!」
猫ちゃんの黒目は大きく縦長になり、尻尾が膨張して天を衝く。
周りの犬達、猫達も唸ったり吠えたりしている。
オーク魔が足を上げ、地面へ踵を叩きつける。地響きが起きたかのような轟音。
「やれるのかニャ、オーク魔」
「やりますよ」
怒気を身にまとい、オーク魔が応える。
珍矛林がわなわなと震える。
「やろうやろう!珍・矛・林!」
喜色満面の珍矛林が両腕を振り上げると、そこら中から矛林が噴出した。
犬達が再び吹き飛ぶが、犬使猟大狼を含めた強者達は矛林の攻撃を防ぐ。
これと同時に矛林がオレを格子状に囲み、簡易的なバリケードとなる。珍矛林がドヤ顔でピースを向けてきたが、喜びしかない。
「カァ、うっぜェな!」
白銀の人狼は矛林を或いは避け、或いは破壊しながら前へ進もうとしていたが、足元を猫が引っ掻いたり噛み付いたりするため、思うように身動きがとれていない。
その隙を突いて、怒髪のオーク魔が両腕を振りかぶり犬使(イヌ追加カ)猟大狼の頭上へと叩き下ろす。
直撃。
犬使猟大狼は地面に頭を叩きつけるられる形になったが、そのまま四足歩行へと切り替えバックステップする。
バックステップ先へ向かって頭上から矛林が襲い掛かる。
「チンポコリン……知らねえナ」
四足となった犬使猟大狼が電光石火のタックルを繰り出す。
矛林の間を縦横無尽に駆け抜けて、珍矛林へと牙を剥く。
しかしその牙は矛林により阻止され、珍矛林には届かない。
犬使猟大狼が矛林を噛み砕く隙に、珍矛林は後ろへ下がりながら、下がるたびに矛林のバリケードを形成する。
「ハッ!面倒くせェやつ!」
犬使猟大狼は台詞とは裏腹に楽しそうに叫ぶ。
「野郎ども!」
犬使猟大狼の呼びかけに反応し、半数の犬達が珍矛林へと向かう。
前後左右、矛林に当てられないように交差して素早く向かってくる。
「うげ!」
珍矛林は足元から矛林を伸ばして空中へと逃げる。
しかし犬達もその足場を使って追いかける。
「うげげ!」
珍矛林、危機一髪。
そう思った矢先、オーク魔が足場となっている竹を殴り壊した。
正確には足場近くにいた犬使猟大狼を殴ろうとしたが避けられ、足場を破壊した形だが。
「うげげげ!」
珍矛林も落下する。下には犬。上からも犬が降り注いでくる。
矛林だけでは対処できそうもない。
今度こそピンチだと思った瞬間、地面から空中へかけて、猫の集団が旋風のように円を描いた。
猫でできた旋風に煽られ、再び犬達は飛散していく。
まるで猫の台風である。
「大丈夫かニャ」
猫台風。
その名の通り、とんでもない能力だ。
旋風は爪も使ったらしく、突き飛ばされた犬、そして犬使猟大狼の身体に無数の裂傷を与えていた。
しばし、場は膠着状態となる。
犬使猟大狼がこちらの名前を呼び上げる。
「猫台風」
再び犬使猟大狼の背後で砂埃が舞う。
「オーク魔ヤバ豚」
砂埃は厚みを増していく。
「珍矛林!」
砂埃が大量に舞い、犬使猟大狼が前傾姿勢をとった。
「まったくお前らァ、面白れェな!」
再び電光石火の突進を繰り出す犬使猟大狼。
まあ、ここでオレの名前が挙がらなかったことは死ぬまで覚えておくことにするが。
熾烈な戦いとだった。
各々の隙を各々が突き合う攻防。隙とはいってもオレみたいな一般人ではそれと気がつかないレベルだが、あとになってみれば「さっきのアレが起点か」とわかる程度の隙だった。
犬使猟大狼率いるチームプレイの犬達と、猫ちゃん率いる完全に支配された猫達との戦いは、意外にも拮抗していた。
犬族の方はチームの弱点を犬使猟大狼が埋める事で、恐ろしく弱点がないのだ。
一方、猫ちゃんの方は超ワンマンプレイではあるが、普通に考えて猫を弾丸の如く飛ばしたりさせるのは異常な能力である。ただし集団を動かしているのはあくまで猫ちゃんなので、動きに穴があってもカバーは出来ない。
また、犬使猟大狼の牙は猫ちゃんにとって脅威となるが、猫ちゃんの方は外見だけ見ても普通のネコなので、個体として考えた時、人狼相手では分が悪いと思う。
ただしその猫ちゃんには弱点を補って余りある人材としてオーク魔と珍矛林がいる。
さらにはそこにオレという存在がひとつまみのスパイスとなり、足を引っ張ることでバランスは保たれていた。
いや保ちたくもねえよオレだって。
30分近く隙ひとつない攻防は続き、一進一退の状況から変化は無かった。
二度、オレを守る竹格子が破壊されかけたが、そのたびに猫ちゃんが撃退し、珍矛林が竹格子を再構築した。破壊されかけたうちの一度は、オーク魔がよろめいてぶつかった所為だ。
いや、文句は言わんよ。オレ役に立ってないし。
しかしそんなこんなで、一向に状況は進展しないまま、争いは続いていった。




