トラヰブの狂宴3
朝。
普通、朝といったら明るいものだが、オレが起こされたのはまだ空が微塵も明るく無い時間帯だった。
「おはようございます」
目が覚めたら豚の化け物が眼前でコレですよ。
「おヒッ!?」
とか言っちゃたもん、オレ。
日常会話で言ったことある?まあアンタらにあったとしても、だから何って感じだけど。
それでまあ、なーんだオーク魔くんじゃーんとか行って済ませようかと思ったけど、コイツ共喰い疑惑あるじゃん。
たしかオレ、昨日の日中に「君は良い豚でオレは悪い豚だ」みたいな事を言ったよね。
アレがこのクソやば共喰いモンスターの中で同種として一名追加されてたとしたら、まあまあヤバくないですかね。
「おはようオーク魔くん。どうしたかね?ここはトイレではないし、オレは便器では無いよね?」
あら墓穴掘ったかしら?
コイツが特殊な趣味で夜這いとかする気だったら、オレの発言から何らかのインスピレーションを得る可能性がある。
肉便器ザンペイ爆誕。掘ったのは墓穴でもありオケツでもあった。
なんだって?オケツじゃなくて汚ケツ?
いまそんな細かい事にこだわってる状況じゃないよね。
「ザンペイさん、寝ぼけてます?」
「いやいや、ギンギンだよ。全然眠くない」
あれま、また墓穴かしら。
なんで夜中に豚の化け物見てギンギンとか言っちゃってんの?またコイツのインスピレーションを刺激ひちゃうぅ。
「……寝ぼけてますね。しっかりして下さい。猫さんが帰ってきました」
「猫しゃん?」
は?ネコとタチ?どっちが?え?
「猫さんですよ、猫台風さん。先程ここへ戻られて、ザンペイさんを起こしてこいと……」
「ネコタ……あ、ああ、そういうことか。すまん正気を失ってたわ」
「でしょうね。もう大丈夫ですか?起きれますか?」
なにげにコイツ酷くない?
発言に配慮とかがない。13歳だからか?
とりあえず服はそのままだし、ベッドから起き上がりリビングにいる猫ちゃんの元へ行く。
「ザンペイ、起きれたんだニャ。偉いニャ」
「うす。撫でていいスか」
「駄目ニャ」
猫ちゃんはリビングのテーブルの上で半身を横たえながら話を続ける。
「予定変更だニャ。明日はこのまま縄張りを出て真北へ向かう予定だったんニャけど、北東へ進路を変更するニャ」
これに対し、オーク魔が聞く。
「猫さん、目的地はほぼ真北の方角でしたよね。」
「そうニャ。シヴァの反応への最短距離はこのまま真北ニャ。」
「じゃあどうしてわざわざ遠回りを……」
「北の縄張りのすぐそばまで面倒くさいのが来てるニャ」
「面倒くさい……ですか」
「今の面子じゃ手に余る相手ニャ。よしんば撃退出来てもザンペイは死ぬと思うから探索は打ち切りになるニャ。回避しかニャい」
「オレ死ぬん?」
「私の縄張りは北へ行けばすぐ途切れるけど、北東へはまだしばらく続いてるニャ。迂回にはなるけど目的地までの安全地帯は多くなるし、少なくとも明日1日は縄張りから出ないから大丈夫ニャ」
「なるほどなるほど。オレ死なない、と。」
「そうニャ。ザンペイ死なないニャ」
「よっしゃ」
「死にたかったら北へ向かうニャ」
「あ、結構ス」
死にたくねえ。
「あ、でも猫ちゃん」
「どうしたニャ」
「ルート変更の話のために、このド早朝に起こしたってこと?」
時計を見ると午前2時。ド早朝どころかド深夜じゃねえか。
「違うニャ。北の連中は昼のが活発だから、そこと一番接近するポイントを朝までに抜けておきたいんニャ」
「ああ、つまりそれは」
「その通りニャ」
「今から出発、ですね。」
オーク魔は返事とともに出発準備に取り掛かる。
オレも負けじと大便の出発準備に取り掛かるためトイレへと向かう。
各自が準備し終えるまで猫ちゃんは仮眠した。
準備を整えて外へ出ると、玄関前には野良猫が一匹立っていた。
猫ちゃんはその野良猫に近づいて、鳴き声で何かコミュニケーションをとっている。
「オーク魔くん、猫ちゃんが猫と話してるぞ」
「猫さんは猫ですから、話せるんじゃないかと」
うん、まあそうだな。
そうこうしてると猫ちゃんが戻ってきた。
「今のところ、北の方は静かで問題ないらしいニャ。ただし犬っころに遭ったらゲームオーバーだと思った方がいいニャ。」
「猫ちゃん、今の猫は知り合い?」
「手下ニャね」
猫社会!
「とりあえず安全なルートに手下を待機させてるから、もしはぐれたら猫のいる方にいけばいいニャ。」
「猫ちゃん凄い!」
こうして路地のあちこちにいる猫を眺めながらの夜廻りが始まった。
月が明るいおかげか、視界は良い。
猫ちゃんは時々、すれ違う手下に小声で挨拶をしている。
しばらく歩き、公園があったので休憩する。
「ここは猫集会にも使われる公園ニャ。犬っころとの最接近区間はさっき抜けたからひとまず安心ニャ」
そういうと猫ちゃんはリラックスした姿勢をとった。
オーク魔も担いでいた荷物を下ろして座り込む。
オレとチンポコリンもひと息ついた。
……いやチンポコリンって誰だよ。
いつのまにか横にいた男は、夜明け前の静寂に包まれた公園で名乗りを上げた。
「オレの名前はチンポコリン!来たぞ!」
いや誰だよ。




