エリヰトの繁栄17
「ザンペイ君、同盟の話が上手く行き、シヴァ闘士の捜索が可能になったとして、捜索先でイノウエ タカシの名前を聞いたら離れて下さい。噂と反対方向へ、なるべく早く、遠くへ」
ホラーみたいな導入やめろや。
夜のトイレが辛くなるじゃないか。
「イノウエ タカシ。なんかめちゃくちゃ普通の名前だけど、そんなヤバい人なの?」
「オレはここへ辿り着くまでに、イノウエ タカシの痕跡を見ましたが……あれはこの世の光景ではありませんでした。シヴァ闘士の破壊が神話の話なら、イノウエ タカシの痕跡はまるで悪夢でした。」
「組突君、全然わからんのだけど、もうちょい具体的にならんか?」
「オレが見たのは身長3メートルはある、6本足で頭の溶けかかった緑色の赤ん坊でした。そいつが赤黒い乳房の成る木にしゃぶりついてたんです。乳房の木の上には母親らしき真っ赤な顔が付いていて、赤ん坊に吸われる度に呻いてました」
ホラーやん。
「なんとかそこを抜けると、次は妊婦達が笑いながら畑を耕していました。鍬や鋤で耕していたのは、おそらく彼女らの家族でしょうか。田畑の上で身内の死体を延々と掻き混ぜてましたね。全員空の方を向いて笑いながら耕していましたが、眼球が虹色に輝き続けていて不気味だったのを覚えています。足元からは小さな木の芽が出てきていましたが、乳房の木に似ていました」
ホラーやん。
「そこってその後はどうなったん?」
「さあ……しかし別の場所では、イノウエ タカシの通過後は悪夢のような景色だったが、やがて真っ黒な空間となるのを見たと言う人もいました」
ホラーやん。
「なんというか、うん……とりあえず気をつけるわ」
九雷子から助言が入る。
「得体の知れない所に迷い込んだら夢だろうが現実だろうがイノウエ タカシだと警戒した方が良いだろう。遭遇エリアとしては大破壊道路よりこちら側だし、キョウヘイ一派の支配地域とは逆方向になるからまずは問題ないだろう。まあこの辺りでも目撃情報は聞かないし、そこまで心配することはない」
「おうおう。んじゃまあ行きましょうかね。多分下で拳突が都市将君の指示を待ってるだろうし、オレも最早ここへ留まりたい気持ちがあるわけでもないし」
席を立ち、教室を出て校庭へと向かった。
校庭では頭の悪そうな男と、その同級生の偽物がいた。九雷子が事情を説明し、人質交換の旨を伝えると、偽物の方も承諾した。
「おい、気をつけろよ」
学校から出る時、拳突がそんな事を言っていたが、振り向くのも面倒なので片手を上げて返事をした。
偽空騒通達と共にしばらく歩き、大破壊道路を越える。
最初の曲がり角を曲がって、学校から見えなくなった辺りで、はじめて偽空騒通達と会話した。
「狭間残兵くん。朝はスマンかったね。これからは一緒に過ごすかもしれんし挨拶しとくわ。カメイ マコトです」
その姿は今ほどとは変わっていて、吊り目の男になっていた。
「カメイ マコト。ほー、タニン バケルとかじゃないんだな。」
「そんな名前ヤバすぎるでしょ。仮の名前に真実の真、仮名真ですわ。」
「なんか思ったよりも皆あっさり真名を教えてくれるのね。オレがもうちょっと捻った名前だったら躊躇すると思うんだが」
「九雷子さんやサンダースの面々はとっくに周りに名前が知られてるからね。ボクの場合は知られても特にデメリットないんで、あんま気にしてないわ。仮名として別の人間に成り変わるって分かってても防げるものと違うし」
「まあ確かに。名前を逆手にとって混乱も引き起こせるかもしれないしデメリットはないかも」
「そういうこと。さて、着きましたよっと」
駅に辿り着いた。
気分的には目覚めて学校で一泊しただけなのでつい最近のはずだが、実際には2年経過しているためか、少しさびれて見える。
こうしてみると、小型ではあるが併設された駅ビルなんかは拠点としてはかなり良さそうだ。




