ホール・ケーキ
WEBカメラを仕掛けた。
ベッド脇のケースにお菓子をしまい、部屋や私生活が映らない様にと角度を考え……
だって最近、お菓子の減りが異常過ぎる。
学校生活に必至のお菓子。
特に部活をしている訳でもないのに減るお腹。
そのくせ腹周りには肉が付く。
成長期なのに下ばかり……
上、腹より少し上に付け!
願い空しく見上げる空に願いを込めて。
希望の光が沈むように陽が落ちて、寄り道帰りに家路に着くと、部屋の窓に影。
……影?
ドロボー?
てか、自転車あるから母さん帰ってんじゃん。
でも、何か動いてる。
お菓子が減ってる理由って……
そうだ! WEBカメラ仕掛けたんだった。
スマホスマホ……
え、
嘘でしょ?
ケースが無い!
お菓子どころじゃないわ。
え?
ええ?
ちょっと待って。
ケースどころか、棚も無いじゃん!
あ、お母さんが掃除したとか?
……棚、結構な重さだけど。
栗「ん?」
今、何か画面横切った?
何か見覚えが……
てか、カーテンめっちゃ揺らいでんだけど。
窓……は、閉まってる。
掃除機……の、音もしない。
エアコン何て今必要ないからリモコンも触ってないし……
何か付けっぱなしにしたっけ?
あ、これ、WEBカメラの……
うぅん、ラズパイに付けたエアフロー如きじゃ此処まで揺れないか。
栗「お母さーん、私の部屋に入ったあ?」
母「はあ? 栗子、あんたまだ制服着たまま? とっとと着替えて夕飯作り手伝ってよ!」
栗「いや、今帰って来たばっかだし」
母「え?」
栗「ん?」
母「だって、あんたの部屋ずっと何か音してたけど?」
栗「はあ? 意味分かんないし……え待って。」
母「何を?」
栗「お母さんさあ、私の部屋には入ってないんだよね?」
母「栗子の部屋なんか入ったら全部片付けたくなるから入らないわよ!」
んん、まあ其処はいいとして……
栗「音って、何時からどんな音がしてたの?」
母「帰って来た時からだから、四時半位? 音は……うぅぅん、物音って感じ。」
栗「物音……じゃあ、もう二時間近く鳴ってるのね?」
母「え、何? ドロボー? え、やだ嘘でしょ?」
栗「お母さん、これ観て! 私の部屋なんだけど」
母「何?」
栗「これ、WEBカメラなんだけど、棚もケースも失くなってんの」
母「……あんたこれ、NETに流してんの?」
栗「あ、……それは、後で説明するから! とりあえず良く見てよ」
母「ごめん、本当に入ってないから栗子の部屋の元がどんなか知らないから判んない」
……うん、有り難いのに厄介な事になってしまいましたわ。
母「これ、向き変えられないの?」
栗「安物だもん」
母「使えねえぇぇ、銭失い。そしたらもう見に行くしかないじゃん」
栗「えええ、警察呼んでからにしようよ」
母「人が居るかも判らないのに呼べないでしょ。居た所で呼んでも意味無い位だし。警察が盗み働く事件結構多いんだから」
栗「とりあえず……私、包丁持ってく。」
母「駄目。栗子じゃ取られて相手に武器渡す様なもんだわ」
栗「えええ、何か武器ないと怖いじゃん!」
母「……ああ、じゃあそのケーキ」
栗「何でよっ!」
母「ほら、あの銀行とかで犯人に投げつけるアレ……アレの代わり!」
栗「インクボール?」
母「それ!」
栗「勿体無いじゃんっ!」
母「栗子、あんた自分の命とケーキどっちが大事なの?」
栗「え? あぁぁ、でも……」
母「食い意地張って、誰に似たんだか……」
栗「お母さん。」
母「よし、誰も居なくても栗子にケーキはあーげない!」
栗「えええ! てかこれ何ケーキ? あ、チョコシフォンじゃん!」
母「あーげない」
――BAKOOONN!!――
母「え?」
栗「やっぱ誰か居るって!」
母「じゃあ二階行くしかないじゃない!」
栗「解った。いや待って、どのタイミングで投げればいい?」
――BAKOOONN!!――
母「知らない、任せる!」
栗「……わかった。」
――BAKOOONN!!――
――BAKOOONN!!――
母「ふぅー、覚悟はいい?」
――BAKOOONN!!――
栗「いいも何も、こんだけ暴れてると……」
母「行くよ・3・2・1」
――BATANN――
母「この…………、ええ?」
栗「は? 空間に……穴?」
――HOLE!!――
母「何これ? 栗子、あんた部屋に何したの?」
栗「いや、何も……」
母「何もじゃない、何も無いじゃない! ベッドは? パソコンとかデスクは何処やったの?」
栗「……あ! あの時横切ったのって、英語の教科書!?」
母「で、何なのこの……とぐろ巻いた蛇みたいな……栗子、そのケーキそこに放ってみて!」
栗「え、あぁ、うん」
――CHIFFON!!――
栗「……次元の穴?」
母「あれ? 栗子!」
ケーキを吸い込んだ途端、何かを丸飲みにした蛇の口みたいにゆっくり波打ちながら塞がってく……
これって、ケーキを待ってた?
いや、食べ物欲しさに?
栗「これ、何処に繋がってるのかなぁ……」
母「追わないでよ栗子、あんたケーキの為に……」
栗「……私、其処まで食いしん坊じゃない。」
その後、二十分位で穴は塞がったけど、不安に色々と物を投げたりして何も起こらなくなった事を何度も何度も確認したものの、何か怖くてソファーに客用布団で寝たら朝、首を寝違えてました。
それと、よくよく考えてみれば……
私はあの時ケーキを持って行った訳だけど、何故犯人が逃げる前提だったのかと疑問を呈した処、母は……
「パイ投げみたいなものよ!」
と、脈絡の無い答えが帰って来ました。
私は今、アレが人では無かった事に安堵しています。
ただ……
ベッドは兎も角、思い出の物やお気に入りの物や服や下着やが入った棚とパソコンを取り返しに穴に向かって飛び込むべき、だったのかもしれない。
もし、あの穴が他の誰かの家に繋がったりして、棚の中の物やパソコンの中身を開けられてしまったら!
て、考えると、それはもう本当に恐くて怖くて……
なので、あの穴の先こそが〜 A Whole New World 〜であれと願うばかりです。




