第23話 異世界での恐怖
「ちょっと~!そんなんじゃだめだよ!もっとこうズバッとバシッと!」
「そう言ってもズバッとかバシッとかじゃわからないし!」
俺はエミリアの特訓を受けることになった、エミリアは・・・バシッとかズバッとか言うだけで具体的な訓練は特にしていない。主に剣の素振りからという事で…俺は朝からナナにもらった・・・押し付けられた無銘の剣を振るっていた。その横で焚火で朝食を作っているミアが『がんばれー』とか言いながら、おいしそうなスープを作っている。ちきしょう!なんでこうなった!本来ならチートキャラとかバグキャラとかなって魔王とか簡単に殺しちゃって…うん、やめよう。そういう考えはやめよう。現実的に俺には頑張るしかないんだろう。
「ほらほら~!休んでる暇なんてないんだからねケンゴ!エミリアちゃんがびっしばっし鍛えるんだから!」
無限体力のエミリアめ・・・化け物か!はっ!そうか!そうだったのか!
俺の頭の中に仮想の魔王城が作られその後ろに巨大化した魔王エミリアが高笑いしながら『よく来た勇者よ!』とか言っている映像が再生される。周りにはデフォルメされたドラゴンやモンスターがわんさかいる。
僧侶のミアと勇者ケンゴはボロボロになりながらも魔王エミリアを目の前に勇敢にも戦いを挑むのだった・・・。とうとう俺もぶっ壊れたな。
そんな妄想とは裏腹に現実ではエミリアに素振りの指導が入る、相変わらずビシッとかズバッとか擬音ばかりの駄目な授業だが、エミリア曰く基本の形が一番大事だと言ってる。俺もそれはわかる、大事なのは基本、それはどんなことにでも共通する事である、勿論バイクやキャンプにだってそれは通じるものがある。だが!しかし!剣の基本は『ズバッとしてバシッとしてズギャン!とすることだ!』って誰がわかるんだ!
「あのさ、エミリア、ズバッとかバシッとかメギャンッとかじゃ、何がどうなのかわからないんだけど。」
「なにを言ってるの?わかるでしょ?こうだよこうするの。」
そう言ってエミリアは横薙ぎに剣を走らせる、勿論俺には何が何だかわからない。
「どれが基本なんだ?」
「え?そんなこともわからないの?剣を握って標的に対して振りぬくのが基本だよ?」
「はぁ?基本の型とかあるだろ?それが基本だろ?」
「なに言ってるの?モンスターと対峙した時点で、基本の型とか取ってる余裕なんてないよ?向うはいつどこから襲ってくるのかわからないんだから。モンスターに対して『すみません、今戦う準備しますからちょっと待ってください。』なんて通用しないでしょ?」
「た、たしかに・・・」
「気配察知である程度モンスターの距離はわかるけど、すぐに戦闘になるからね。だから自分の剣の特性を体にしみこませて、どんな体制や角度でも最高の一撃を当てれることが基本なんだよ。それともケンゴは対人戦がしたいの?対人戦なら対人戦用の基本の型とかはあるよ?」
そう言いながらエミリアはヨッ!ハッ!と飛んだ体制から剣を振ったり着地の瞬間に剣を振ったりしている。確かに…エミリアの言ってることは間違っていない。
俺はエミリアのやっていることを見よう見まねでまねをするがうまくいかない。そりゃそうだ、経験値の差が全然違うんだから。それでもこれが何かの役に立つ可能性もあるからエミリアの動きを頭の中でトレースしていく。
「ねぇケンゴ、そろそろ模擬戦してみない?」
「は?いきなり何言ってんの?お前馬鹿なの?俺さっき剣を振り始めたばなりなんだけど。」
「だってーつまんないじゃん素振りだけとか。それに実践のほうが経験になるよ。」
うーん・・・確かにそうだけど・・・やってみるかな?
「よしわかった!お手柔らかに頼むよ。」
こうして俺はエミリアと模擬戦という形で戦うことになった。
エミリアと対峙してわかることがある、本当によくわかる、死と隣り合わせの感覚・・・今にも逃げ出したくなる感覚・・・恐怖がすぐそこまで迫ってきている。木刀でもなく竹刀でもない、真剣という恐怖。切られたら間違いなく俺は死ぬ・・・こんな時に小説や漫画なら何かしらのスキルや耐性を会得して切り抜けていくんだろうが、そんな甘いことは起こらない。一歩ずつ一歩ずつ歩けば歩くほど先が細くなっている橋わたっているようだ・・・
「ねぇエミリア?ケンゴさんにはまだ早いんじゃないかしら?」
「う~ん・・・そうだねー、ケンゴ、今日はここまでにしよ。」
ハッとした顔でエミリアの顔を見るといつもの明るい笑顔のエミリアがいた。俺はというと全身から滝のような汗を流し、握っていた剣もブルブルと震えていた。
「はは・・・ごめん、ちょっと水浴びしてくる・・・」
「ケンゴさん・・・」
「ケンゴ・・・」
二人を置いて俺は川にきた・・・砂利をよけて平らな部分を作りその場所に薪をおいて火をつける、パチパチと火が燃え移り薪を燃やしていく焚火の横にその辺にあった木を使って物干しざおを作り、川で洗濯した洋服をかけていく。
裸になった俺は川に入り頭まで川につかる・・・俺は弱い・・・異世界に来てバイクに乗って調子に乗っていたクソ野郎だ・・・。
日本にいた時にケンカはやった、高校生の時に授業で柔道もやった・・・それだけだ。本物の死合いなんて・・・やったこともない。
オレハトクベツナニンゲンナンカジャナイ・・・
浅瀬にいた俺は川に大の字で寝そべった、上流から下流に流れる水を頭から受け止めて足に流す。晴れた空を雲がゆっくりと川の流れに逆らい流されていく、目を閉じて耳を澄ます。川のせせらぎと鳥の鳴き声が聞こえ、俺は涙を流していた・・・無力なんて言葉では言い表せない、俺な中の何かが崩れていく感覚におちる。
「ケンゴさん!ケンゴさん!」
太陽の光を遮る影が俺の顔の前に現れて俺の名前を呼んでいた・・・ミアだ。
「ケンゴさん!大丈夫ですか?!」
少し寝てたのか、俺はミアの顔を見てぼーっとしていた。
「なかなか帰ってこないから心配して探しに来たんですよ、そしたらこんなところで気持ちよさそうに寝てるから!」
「え、あ、ごめん。」
「もう!ほんとに心配したんですからね!」
「うん・・・ごめん・・」
「もー!ごめんじゃないです!ねぇケンゴさん?自信無くしちゃいました?」
「え?なんで・・・」
ミアは俺の心を見透かしたかのように俺の頭をなでながら目の横に着いた痕を何も言わずに拭い去ってくれた。おれもそれ以上言わずにミアの撫でる手を感じながらミアに話すことにした。
「そうでしたか、まぁ仕方ないですよね。エミリアのバカは私がさっき思いっきり叱っておきましたので、脳筋なので許してあげてください。」
「許すも何も・・・」
「メッ!ですよ、ケンゴさんは最初からどんなこともなんだってできると思っているんじゃないですか?」
「そんなことは・・・・」
「そう思ってたんですよ、だからあの脳筋のエミリアといきなり真剣での模擬戦やろうとしたんです。」
「だって、何事も経験かな?と」
「それで怪我でもして大変なことになったらどうするんですか?私とエミリアを悲しませるんですか?」
「それは・・・ごめん。」
ミアはそっと俺を抱きしめて優しく俺を包みこむ、俺は流れに身をまかせミアを抱き寄せる。ミアやエミリアを悲しませないため、守るために強くなろうとしたのにこれじゃ反対じゃないか・・・
「ケンゴさん、はいこれ。」
「え?木の棒?何これ?」
「立ってください、今から私と練習です。」
「いやいや、ミア?」
「言っておきますが、エミリアほどではないですが私もある程度戦うことはできますからね、今のケンゴさんの攻撃なんて全部簡単によけれますよ?」
ミアは立ち上がると濡れたすスカートを股の横で水を絞りそのままお団子にして括る。そして俺に木の棒を向けて、さぁこい!みたいな恰好で構えをとる。
真剣でもなく死の恐怖もなく、ただの練習。女の子にここまでしてもらっているのにこれで立たなきゃかっこ悪すぎる、俺は覚悟を決めて木の棒を構えミアに・・・
「すみませんケンゴさん、気合入っているところ申し訳ないんですが・・・パンツははきませんか?その、二刀流でもいいんですが・・・」
「・・・直ぐ履きます!」
俺は焚火に干してた洋服を確認すると、すっかり乾いていたので服を着た。そしてミアとの練習が始まった。
俺の攻撃をずべてひらりとかわすミアは踊っているかのような綺麗な動きで木の棒をかわしていく、ところどころ『こうした方がいい』、『この時はこうしてください』などの的確なアドバイスももらえる。さっき崩れかけた何かがミアによって修復されていくのもわかった・・・そう、それは自信だった。
「今日はこんな感じですね。これからは私がケンゴさんと練習をしていきますね。」
「ありがとうミア。」
俺はミアに抱き着き心の底から感謝をした。
「ちょ、ケンゴさん、汗臭いですよ私。」
「すごくいい匂いだよ・・・って俺は変態か。」
「いつものケンゴさんに戻りましたね、それにしても・・・どうしましょうかこの汗だらけの状態。」
「そうだな、エミリアには内緒でもうすこしここで・・・」
「うふふ・・・エミリアにばれたら怒られちゃいますね。」
二人で服を脱ぎ川で洋服を洗って焚火で服を乾かしている最中、エミリアには内緒でもう一戦することになった。まだまだ弱い俺だけど、もしもの時に二人を守れるくらいには強くならないと、とミアと体を重ねながら再度二人に誓うことにした。そのためにはあれも克服していかなければならないと覚悟も決めた。
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