ゲームショップの出会い
隣町の大きな道路から一本奥に入った道に、決して大きいとは言えない個人経営のゲームショップがあった。
汗だくで駐輪場に自転車を置くと、大金の入った財布を片手に駆け足でガラス戸を開けた。
手前にはゲームのハードがガラスケースに並び、少し奥にソフトが並んでいる。その更に奥にはトレーデングカードが所せましと並んでいて、その場でプレイできるようにか、机が一つ置いてある。
ゲームの知識はない、ソフトがどんな順番に陳列しているかわからないので、少し勇気がいるがレジで直接店員に聞くことにした。
レジには人の良さそうな笑顔を浮かべる初老の店員と、女性が一人会計を済ませているところだった。
息を整えながら、汗をぬぐい、順番を待つ。
女性の会計が終わったところで、身を乗り出し気味に店員に話掛けた。
「あ、あの、ペルグランデ・オンラインと、あと、フルダイブシステム搭載のヘッドギア、一番安いやつが欲しいんですが!」
「あ~、ペルグランデ・オンラインはもちろんあるんだけどね、ヘッドギアは申し訳ないんだが、今最後の一個が売れちゃってね、入荷に一週間かかるよ」
「え、あ………そう、ですか」
「うちみたいな小さなゲームショップはもともと在庫を持ってなくてね、フルダイブシステムだったら、家電量販店の方が品揃えも豊富だし、在庫切れってこともないだろう、そっちへ行ってみたらどうだい?」
「そう……ですね、そうします。ペルグランデ・オンラインだけいただけますか?」
迂闊だった。確かにフルダイブシステムはゲームに限った用途ではないから、家電量販店の方があるはずだ。また走らなければならないが、仕方がない。
「おーじさんっ」
先ほど会計を済ませた女性が店員に声を掛けた。
「ごめん、今買ったコレ、返品してもらえる?」
それは最後の一個であっただろうヘッドギア型のフルダイブシステムだった。
「え、あの、いいんですか?」
「うん、いいのいいの! 私は急いでないしね」
よく見ればものすごく綺麗な人だ。汗だくの私を見て急いでいると察したのだろう。感謝の気持ちとともに恥ずかしくなって顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。
「ありがとうごうざいます!」
深々と頭を下げた。
「その制服、仙秀高校だよね?」
「え? あ、はい」
自分の高校の名前だ。そういわれて自分が制服のまま来てしまっていたことに今気が付いた。
「よかったね~、お嬢ちゃん」
「はい、ほんとにありがとうございます」
女性はあとは何も言わず、笑顔で軽く手を振り店を後にした。
(綺麗な人だったなぁ……)
全財産をはたいて譲ってもらったヘッドギアを買い、来た道を急いで戻った。
日頃の運動不足を呪った。