強さとは
「カコン……」なんて鹿威しの音が聞こえて来そうな和風の庭園、壁にかけられた立派そうな水墨画。敷地は広大で、この部屋に向かう途中に道場らしき建屋もあった。
三人は並んで畳の上に置かれた座布団に正座し、座卓を挟んでセージと先ほど玄関で出迎えてくれたセージの祖母らしき、小さく可愛らしい着物を着たお婆さんが座っていた。
お婆さん「ささ、遠慮せんと飲んでおくれ」
ミサ「いただきます」
お茶と羊羮が振る舞われ、三人は背筋を伸ばしてお茶をすすった。
お婆さん「すまないねぇ、うちの盛治が迷惑かけて。まったくこんな可愛らしいお嬢さんたちに喧嘩売るなんざ、ほんとにバカだねぇあんたは」
セージ「喧嘩じゃねぇよー」
お婆さんに背中をバシバシと叩かれながら口を尖らせてセージは言う。
ギコ「あのぅ、それでお姉さんは……」
セージ「お姉さん?」
ギコ「さっき戦ったキヨさん、寝たきりだとおっしゃっていましたけど」
お婆さん「キヨは私だよ。出浦清子って言うんだ。よろしくねぇ」
ミサ「えぇ!キヨさん!?」
三人は揃って目を見開いた。
セージ「ああ、俺に姉はいないよ」
ギコ「だってあの動きは……。えぇ!?」
キヨ「セージ!寝たきりってどういうことだい!ただのぎっくり腰じゃないかい大袈裟な、それにもう治っとるよ!いつの話をしてるんだい」
セージ「ご、ごめんよ、婆ちゃん」
今度は頭を叩かれながら気まずそうに謝る。
ミサ「でもゲーム内でのあの動き、失礼ですけどとても御高齢な方に出きるものでは……」
セージ「婆ちゃんは昔、合気道と空手の達人だったんだよ」
キヨ「昔じゃなくてバリバリの現役だよ!って言いたいとこだけど、体はいい加減いうこときかなくてね。ゲームの中のが動く動く、快適極まりないよ」
ミサ「イメージだけでスキルを使わず、現実を遥かに越える動きをするなんて……。本当にすごいことです!」
キヨ「あんた、特効服の子だね?あんたも見事な動きだったよ。それと、ギコちゃんはあんただね」
少し真剣な目付きに変わりキヨがギコに向き直る。
キヨ「最後なにをしていたのかわからないが、あと10秒あったら私たちの負けだっただろうね」
ナギ「セージ君も空手、すごかったよねー!」
セージはその体躯に似つかわしくないにへら顔を浮かべ、くねくねと気持ち悪い動きをしている。
そんなセージを見て肩でため息をつき、お茶を一口すすってからキヨが語り始める。
キヨ「この子はねぇ、優しすぎるんだよ。こんな婆さん一人で育てたからかねぇ。毎日虐められてボロボロになって帰ってくる」
セージ「虐めじゃねぇ!あれは喧嘩だ!」
キヨ「ほんとは誰より強いのに…。空手をやらせてみてもそんなんだから、試合でも一度も手をだしゃしない…」
ギコ「ゲームの中では大丈夫なんですね」
キヨ「そうそう、だから空手の指導はゲームの中でやってんのさ、私も相手してあげれるしねぇ」
ナギ「なるほどー」
キヨ「でもね…、私はそれでいいと思ってるんだよ。殴り合うだけが喧嘩じゃない、相手を打ちのめすだけが強さじゃない。誰より優しくあろうとする心の強さを持ってくれて、私はうれしいのさ」
セージの頭をポンと撫でると、セージは気恥ずかしそうに俯いた。
キヨ「だからかねぇ、ギコちゃん。電車であんたの優しさを見て、闘争心燃やしちゃったのさこのバカは」
ギコ「そ、そういうことですか…。(ボッチスキル『定型文シュミレーション反芻』がこんな火種になろうとは!)」
キヨ「なんにせよ、セージが初めて友達を家に連れてきたんだ。仲良くしてやっておくれよ」
ナギ「あ、じゃあじゃあ。アンアンに入ったらいんじゃないかな!」
セージ「え、アンアンってギルドか?い、いいのか!?」
ギコ「ええ、もちろんですよ。メンバーまだこの3人だけですが」
キヨ「よかったねぇ、セージ。私は町内会のジジババのギルドがあるから、セージをよろしく頼むよ」
ミサ「フフフフフ、じゃあメンバー増えたとこで、次の計画発表しちゃいまーす!」
ミサが立ち上がり、得意げにスマホの画面を見せる。
ギコ(あ~、何か企んでる目だ……)
セージ「…??」
ナギ「さんせー!」
ミサ「まだ何も言ってなーい!」
はしゃぐ子供たちをみて、キヨの顔は優しくほころんでいた。




