もうひとつのペルグランデ・オンライン
(クラスのみんなから無視され始めてもう1週間以上になる。無視だけじゃない、上靴にゴミが入れられていたこともあった。私はなにも悪いことをしていない、だからこの状況はやっぱりおかしいと思うし、嫌がらせをする主犯も、無視を決め込むクラスメートもおかしい!)
そう思い芯は曲がらずとも、ただやはり1日誰とも話さず、感じる孤独は原田凪の心を衰弱させるのに十分だった。今日もまた、一人でお昼ご飯を食べ、休み時間はスマホをいじり、飽きれば机に伏せている。
そんな中、クラスメートの一人からペルグランデ・オンラインをやらないかと誘われた。
おかしな話だ。誘ってきたのは自分を無視するよう先導している外木さんの友達。裏がないわけがない。
だが衰弱した心は疑いの心を持ちながらも何かにすがらずにはいられなかった。
幸いフルダイブシステムは高校の入学祝いにと、お婆ちゃんからもらった自分専用のヘッドギアを持っている。
ペルグランデ・オンラインはゲームをやらない自分にもその噂は聞こえてくる。何でもモンスターをテイムし、飼うこともできるとか。家がマンションでペットを飼えないので少し興味があったのもあり、購入することには迷いはなかった。
「ウィィィィ」 微かな機械音が耳の奥に届く。
(うわぁ、綺麗……)
木漏れ日が網膜を照らし、微かな風が肌を撫でる。そこは小鳥の囀ずりが、木葉の擦れる音が、心地よく響く森林の中だ。
しばらく現実でもそう見ることの出来ない景色に見とれていたが、早速やりたいことがある。メニュー画面を開き「魔法」の説明を見る。
ファイア・ボルト:初心者向けの基礎魔法、敵一体に向けて火属性の矢を放つ
「ふふふふふっ! 魔法、使ってみたかったんだよねぇ~♪」
辺りを見回すと、何やら毛むくじゃらの兎のような生き物がずりずりと地面を這うように動いている。
「いた! 見た目可愛いけど、動きかたが可愛くない!…………よし!」
「ファイヤァァァ・ボルト!」
周囲に誰もいない事を確認し、日頃の鬱憤を晴らすかのように思いっきり声を上げて魔法名を叫ぶ!
50㎝ほどの火の矢が、突き出した両手の真ん中から飛び出し、毛むくじゃら(モンスター名:ケト)に命中した。
「おおおおお、気持ちいい! そして火も綺麗!」
「ファイア・ボルト! ファ~イア~・ボ~ルト! ホイヤー・フルト!…………あれ?」
ナギはファイア・ボルトを色んな唱え方を試すよう連発しながら始まりの街ベインへと向かった。