ベテルの塔
私は学校が終わるとジャージのまま帰路についた。凪ちゃんが一緒に帰ろうと言ってくれたが家が全く逆方向だったのは残念だった……。 ん?何か違和感が……まぁいいや。
お母さんからヘッドギアを取り戻さなければ! ペルグランデ・オンラインをもうやることは無いと思い、お母さんにあげてしまった。美咲さんなる女性に誘われ、そして凪ちゃんからも帰ってからペルグラで会おうと無邪気な笑顔で言われ(かわいいなコンチクショウ!)、三人で遊ぶこととなったのだ。
………。時は流れ、数時間後。
私ギコとナギちゃんは二人、プレイヤー名「ミサ」こと美咲さんがお腹を抱えて笑い転げているさまを正座して見つめていた………。どんなステ振り、スキルなのかを見たいと、三人で軽くモンスターを狩った後であった。
「プーーーっ! ククククっ!」
「………アーハハハッハハハハ!」
その笑い方は教室で見た上品な笑顔はどこへやら、ゲラゲラとひどく楽しそうだ。
ミサさんのキャラクターもリアルの本人そっくりでとても綺麗だ。ただリアルと違うのは髪が金髪なこと、それから装備が露出の高い白と水色の軽鎧……だけなら普通なのだが、その上から羽織っているのが、どう見ても丈の長い、地面まで届きそうな、世に言う特効服というものだ。色は真っ白で背中に文字が「甘即食」と書いてある。「悪即斬」とかなら聞いたことがあるが……「甘即食」て、ただの食いしん坊じゃ……。
「ギコの、その、、目、見た目、クククっ!」
「それにネクロマンサーって……っ。聞いたことないし、HP極振りって、、、クク、その包丁っ!」
「そ、そうなんですかね……。あまりゲームをしないもので……」
「それにナギもっ……クククっ! それ!」
「そうなんでしょうか、あまりゲームをしないもので……」
「………。っふーーーー! あー笑った」
「兎も角だ、私の鼻に狂いはなかった!あんた達最高に面白いわ」
「まてよ……。そうすると………。うん……」
ミサさんは一転して何か考え込む、
「よし、三人でベテルの塔を攻略しよう!」
「ベテル?」
「知らない? 有名ギルドが躍起になって攻略しようとしてる塔なんだけど、まだ三階までしか攻略できていない、階層ごとにダンジョンになっていてユニークモンスターがボスとして出るとこよ、天辺には神様が住んでいるとかいないとか。ペルグランデ・オンラインは横だけでなく、縦にも広いのさ」
「ユニークモンスター、それは面白そうなモンスターですね……」
「クククっ、ユニークモンスターっていうのはね、再戦不可能、一匹しかいない唯一無二のモンスターのことよ」
「え!?そんなモンスター私達三人だけで勝てるんですか?」
「うーん、まぁ勝てなくっても別にいいけど、行けると思うんだよね~」
「確かにミサさんはお強いですが……」
そう、ミサさんは私達と比べ物にならないほど強い。レベルは76、大規模ギルドに所属し、幾多のボスモンスターやレアモンスターの討伐を経験している。ベテルの塔第2階層のユニークモンスターもその所属ギルドで攻略しており、ミサさんも前衛として参加したらしい。
「大丈夫! 楽しまなくちゃ!」
「期日は今週末、土曜日の7時半よ。それまでにできる限りのレベリングと、それからギコ。あなたはギルドを作って、私もそれに入るわ」
「え、私ですか? ミサさんが作るのではなくて?」
「ナギも加入で問題無いわよね?」
「私は~、ギコちゃんがいるなら、はい!」
「よーし、ふふふふふっ!」
ギルドというのはパーティーのような一時的な集まりとは異なり、仲間同士で長期的に活動する集まりだ。設立にはいくらかのゲーム内通貨を街にあるギルド統括に寄付し、簡単な手続きをすればよい。設立した人当人がギルドに名前をつけ、そのギルドのマスターとなる。
しかしギルドマスターなんてものは学級委員長のようなものであり、人望の厚い人がやるものだ。なぜミサさんではないのだろう。
「でもミサさん、今所属しているギルドは抜けちゃっていいんですか? すごく強いギルドなんですよね?」
「あー、いいのいいの。もう辞めるって話はしてあるし」
そう言ってミサさんはその場でメニュー画面からギルド脱退をしてしまった。
「さて、善は急げよ!早速レベル上げに行きましょう」
討伐日程までやけに具体的だったので何か意図があるのだろう。
その日から私とナギちゃんの鬼のような修行が始まった。