骨と勇者
「コラァー!おまえたち、何をやってんだ!」
学年主任の石志重吾先生が入ってきたことで騒ぎは収まった。
そろいもそろってびしょ濡れで、ジャージに着替えた私たちは生徒指導室へ呼び出され、事情を聴かれたが、虐められてましたなどと外木さん達も居る前で話せるはずもなく、喧嘩両成敗ということで話は終わった。なんでも佐藤太郎が先生を呼んでくれたらしい。
授業に戻るも、私は驚きを隠せず、頭がいっぱいで全く集中できなかった。
昼休み、いつも通り自分の席でお弁当を広げると、原田さんが購買に行っていない佐藤太郎の椅子を後ろに向けて座り、私の机でお弁当を広げる……。
「ギコちゃん、一緒に食べよ」
…………涙が出てきた。
「う、うん」
「でも原田さん…なんで」
「凪でいいよ!ペルグランデ・オンラインじゃ呼んでくれたでしょ?」
「な、凪さん……」
「な・ぎ!(怒)」
「な、凪ちゃん」
「よし!」
「凪ちゃんはなんでギコが私って……」
「私ね、知ってたよ。机の落書き、毎朝消してくれてたよね……」
「!!!」
「あとね、私金曜日のペルグラでのオン会、行くかどうか迷ってたの……。柊さんに誘われてペルグラ始めて見たけど、もしかしたらこれをきっかけにクラスの皆の中に入れるんじゃないかって、ちょっとだけ思ったりもしたけど」
柊さん、外木さんの後をいつもくっついているが、取り巻きの中で一番大人しくてオドオドしている子だ。
「でもやっぱりそう都合よくは行かないだろうって、でもね、金曜日の帰りにたまたま佐藤くんと帰りが一緒になって、そのことについて話てたら佐藤君言ってたの、「行ったらいいよ、大丈夫、儀間っちが守ってくれる」って」
「え!?佐藤た……佐藤君が?」
「なんのことかわからなかったけど、落書きの件もあったし、勇気を出して行ってみたの。そしたらペルグラで外木さんに押し倒されて、みんななんか怖い雰囲気で……」
「それでね、そのとき現れたのが骨とギコちゃん!かっこよかったよ~っ! 私にとって勇者だよ! ギコちゃんは! 骨もかわいいし!」
「あ、いや……(骨……)」
私は嬉しさで目の奥が熱くなるのを感じながら、必死に抑えて凪ちゃんの話を聞いた。凪ちゃんはとてもよく喋った。友達とお昼ご飯を食べるって楽しい、そう思った。
だが外木さんの嫌がらせが終わるとは思っていない、エスカレートすることだってありうる。でも、今は一人じゃない。今なら立ち向かえる気さえする。一人じゃないことの心強さを、私は初めて知った。
ドヨドヨと教室の外が騒がしい……。
そしてその騒がしさがどんどん大きく近くなってくる。
男子たちがソワソワと、女子がアイドルでも見つけたかのように騒ぎ出す。
そしてそれは私たちの教室の戸を開けた。
「お、おい、あれ美咲さんじゃないか?」
「え? 三年の!?」
「マジかよ。あのモデルやってるとかいう……なんで一年の教室に!?」
クラス全体が騒ぎ出す。
なんですかね、学園のアイドル的さむしんぐですかね、本当にそんな存在がいるもんだなと教室の戸へ目を向ける。
そこにいるのは長身でモデルのようなスタイルが、同じはずの制服を別のものへと変えている。教室を見回す小さな顔と共に長くゆったりとウェーブのかかった髪が揺れて光の粒を落としているような、そんな錯覚さえ覚える。
つかつかと彼女は外木さんの方へ歩きだし、外木さんが慌てて立ち上がり、挨拶をした。
「あ、あの、私、と、外木……」
あれ?外木さんを見向きもせず通りすぎ……て……。
「見つけた! 一年生だと思ったんだ。一年生の教室全部回っちゃった。あたしとペルグランデ・オンラインやらない?」
上品な、それでいて屈託のない笑みと共に投げかけられた言葉は、なんと私に向けられていた。
「ほえ? あ……ふぁい(はい)……」
お弁当のウィンナーをくわえたまま、美咲と呼ばれた綺麗な女性を見つめ、無意識に答えてしまった。
教室が沈黙に包まれ………。
(ぬあっ!!!!! 思い出した!! ゲームショップでヘッドギアを譲ってくれた人だ!!!!)
私の目はこれでもかと丸く見開かれ(ウィンナーをくわえたまま)、外木さんは顔を真っ赤に染めていた。
第一章完結です。
読んでいただき光栄の極です。
本当にありがとうございます。
引き続き第二章、楽しんでいただければ幸いです。