ナニコレ怖い
「ガィィン!」
屠るものの一撃が大盾を叩き、HPを削る。
屠るものの背中にアンデッド達が群がる。
どれくらいの時間が経っただろうか。
視界は正面に屠るものをとらえ、周りはアンデッドに埋め尽くされている。
「くぅ…………」
ゲルニールで買い込んだ回復薬も残りが少なくなってきた。
「まだ、倒れてくれないの!?」
巨大な包丁を大盾で弾き、丸太のような巨大な腕を弾き、HPが減ると少しばかり距離を取り回復薬を飲み干す。時には自分に襲い掛かるアンデッドを振り払う。
屠るものの方が圧倒的にヘイトが高いとしても、こっちを襲ってくるアンデッドがいないわけではない。
そして屠るものの行動に変化があった。
巨大な包丁を投げてきたのだ。
「ほわぁぁっ!」
不意の遠距離攻撃に驚き、変な声を上げてしまったものの、これはチャンスだ!
「投げちゃったら拾わなきゃいけないよね!」
短剣を前に距離を詰めたその時。
「ぁ……っ!」
持っていないはずの包丁が私の左肩を切りつけた!
「な、なんで!?」
振り返ると、投げて地面に刺さっていたはずの包丁はなく、屠るものの右手に戻っている。
「そんな!」
初めてクリーンヒットをもらい、左肩からダメージエフェクトが飛び散る。
アンデッド達が群がるも、屠るものは意に介さず私を凝視して息を荒げている。
「立て直しだ、もう少し!……な気がする!」
回復薬を飲みながら距離を詰める。
間に割って入ってきたスケルトンを大盾で払いのけ、そのまま屠るものの『シークレットJOB ネクロマンサーを獲得しました』懐に滑り込む、包丁を大盾で受けて短剣を脇腹に突き刺す! え?いまなんて!?
屠るものは左手で私の頭を押さえ込み、これでもかと言わんばかりに包丁を何度も狙いもせず叩きつけた!
「オオオオオオオォォォォ!」
「ぐぅ、ぅ、ぅ、ぅっ!」
HPが削れる、削れる、削れ……
「オォ………」
何撃目かわからないが、包丁を打ち付けた瞬間、屠るものの動きがピタリと止まり。
黒い霧となって舞っていく。
左腕から解放され、もう余力が残っていない私は四つん這いのまま、残りのアンデッドに襲われないように一本だけインベントリに残っていた聖水を撒いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、…………、倒した。」
どうやら最後は装備エンチャント【怨嗟】による反射ダメージがとどめとなったようだ。
マラソンを走った後のような精神的な疲れを呆然と膝をついたまま癒していると、目の前にドロップアイテムが落ちていることに気づき、拾い上げた。
レアドロップ 短剣:血塗られた包丁
戦闘中、受けたダメージの1%をスタックし、自身のSTRに変換する。
5分間非戦闘状態が続く、もしくは装備が解除されるとスタックは0に戻る。
ドロップ 見た目装備:屠るものの覆面
特殊効果なし
「え、ナニコレ怖い……」
早速装備して、投げてみる……
気が付くと手元に戻っている。
「え、ナニコレ怖い……」
捨てても捨てても勝手に部屋に戻っている呪いの人形の如く手元に戻っている。
そして覆面。
「ナニコレ怖い……」
四つの目の穴が開いた巨大な覆面を、そっとアイテムインベントリの一番下にしまった。