第2話 とりあえず現状確認②
どうも皆さん。妹がやってた乙女ゲームの攻略対象に憑依転生すると言うありえない自体に巻き込まれた何処にでも居る普通の高校生、尾崎 龍平だ。で、俺が成り代わってしまった攻略対象はこのエルドルード王国の第2王子、クリスティアーノ・ブァルク・フォン・ド・ティアーノ・ロード・エルドルードである。色々驚いたが、とりあえずクリスとしての1日がスタートしたわけである。
「此処が王宮書庫か?」
で、朝食を終えた俺がまずやって来たのは、王城内にある書庫。通称王宮書庫だ。今日は此処で色々と調べ物をしようと思う。
え?クリスの記憶を覗けるのになんでそんな事する必要があるのかって?その理由は簡単で、クリスの記憶にある情報が少なかったのだ。
「まさか、近隣の国家や魔法のことだけじゃなく、エルドルード国内のこともほとんど知らないとは!」
確かにゲームの中のクリスもイケメンだったが、周囲からは出来損ない王子と陰口を叩かれていた。その理由が今判明したわけだ。
「とりあえず、地理と隣国の関係、国内のこと、後魔法を調べないと」
でないと拙いことになる。「純潔のフランチェスカ」は乙女ゲームだったが、触れ込みは男女問わず楽しめる乙女ゲームで、戦闘パートまで有った。舞台も中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界だったのだ。
で、どのルートでも等しく国家間の小競り合いや戦争が起こっている。その戦争で、ヒロインが活躍する度に、地位が上がって、行ける所が増え、色々なイベントが発生するという仕組みだった。その中で一際大きな戦争が、隣国アルテラがエルドルードに攻め込む、コボル平原の大戦だ。
確か、バッドエンドの1つで、ヒロインとクリスがひょんな事から喧嘩した後、この戦争が起こる。クリスは帰ってきたら仲直りしようと考えながら、第2王子として1隊を率いて戦場に行き、帰らぬ人となる。
とりあえず、ヒロインとキャッキャウフフをする予定が無い以上、このエンドを回避するには討ち死にしないほど強くなっておく必要があるわけで、魔法の習得は必要だ。
「まあ。それだって確実じゃないし、本当はコボル平原の大戦が起こらないのが1番だよな」
とりあえず毒殺の危険もあるが、「純潔のフランチェスカ」ではクリスが毒殺されるような描写は無かったはずだ。……プレーしたわけじゃないから正確には言えないけど。
とにかく出来ることから始めるべきだ。
「え〜ナニナニ。エルドルード王国があるのは大陸西域の中央部南側にある。中央部南側は比較的小さな国や都市国家も多く、中央部南側の地域にある国の中ではエルドルード王国が1番大きい」
ココらへんの細かい設定は知らなかったけど、良い情報だ。1番デカイのなら、近隣諸国と敵対しても平気だろう。
「あれ?でもアルテラは?」
後ろ盾のない第2王子とは言え、王族の端くれであるクリスが行かなくてはならず、しかも、討ち死にしたとなると、コボル平原の大戦はよっぽどの出来事だ。格下の相手との戦争で起こる事とは思えない。
「え〜と。アルテラ、アルテラ」
各国の情報が乗ってる本をめくって、探し続ける。
「アルテラ!あった。コレだ」
一瞬読み飛ばしそうになってアルテラの文字が目に入る。コレだ。
「え〜とナニナニ?うげっ!!そういうことか!」
其処に書かれていた内容を読んで、俺は顔を顰めた。
アルテラ王国。大陸西域中央部北側にある国々の中で、3大国の1つに数えられている国だ。同じ西域中央部とは言え、北側と南側で、別の地域にある国なのだが、両国とも領土が広いため、エルドルードの北の端とアルテラの南の端は接している。
「で、両国の国境からちょっと南下すれば大穀倉地帯コボル平原」
しかも、アルテラのお国事情だが、面積はエルドルードの1.5倍もある。しかし、人口は260万人で、エルドルードの350万人よりも少ない。
どうしてこういうことになっているのかと言うと、アルテラの国土の殆どが山や丘で、農耕に適した土地が少ないからだ。その代わり、鉱山は沢山あり、金や銀、鉄等の生産量は西域中央部にある国家の中で1番だ。その分鉱夫も多く、平民の男の2人に1人は鉱夫と言われている程らしい。
「鉄も安く手に入るんなら、戦争の時は、徴兵した筋骨隆々の鉱夫にフルプレートの鎧を着せる事が出来るもんな」
実際この予想は外れていないだろう。本には戦争な際に活躍する戦斧や戦槌、メイスで装備した重装歩兵や、重装騎兵は、近隣では「鉄の軍団」と呼ばれ、恐れられているそうだ。
「エルドルードは大国だけど、兵士は其処まで強兵って訳では無いみたいだもんな」
弱いという描写は無いが、特に強いわけでも無さそうだ。少なくとも近隣で恐れられる異名なんて無い。
「それに、アルテラ以外にも警戒が必要だよなこれ」
調べていて思ったが、中央部南側は北側に比べて国の数が多いが、小さい国が多い。
具体的に言うと、北側は12カ国で、一番小さい国でも人口は50万人。3大国の内、最大の国の人口はエルドルードと対して違わない330万人で、アルテラともう1国も人口は200万を超えている。他にも人口100万を超える国、この大陸の常識で地域大国と呼ばれる規模の国が3カ国もある。
一方、南側は領域国家だけで27カ国。都市国家も入れると、国の数は100カ国を超える。しかし、南側でエルドルードの次に大きいクメイシュ王国で人口は100万であり、面積は北側で10番目の国と対して変わらない。南側で3番めに大きな国が王妃の実家であるルード王国で人口は50万。
その他にも、人口20〜30万の小国が24カ国もあり、人口10万に満たない都市国家や人口4〜5万の小規模都市国家が無数に乱立している。
どうしてこんな事になっているのかと言うと、南側は大きな国に纏まりたくても、纏まれなかったのだ。
南側の国々は農耕に適した土地が多いし、気候が安定しているので、畑の収穫量も良い。しかも大半の国が南の内海に面してい居たり、南の内海へと続く、広い川が有ったりするので、港が多く、海上貿易が盛んである。どの国も結構金持ちなのだ。金に物を言わせて傭兵を雇うので、人口比率からしたらありえない兵数の軍勢を用意できる。そんなわけで、何処かが纏めて支配すると言う訳には行かないし、小国でも舐めていたら思わぬ痛手を被ることになるのだ。
「で、エルドルードの国内は?ナニナニ?」
近隣の事はある程度分かったので、次にエルドルード国内について調べてみたが、これまたゲンナリする情報が多い。まずエルドルードは領土が接している国々とはしょっちゅう小競り合いをしている。しかし、エルドルードから仕掛けての事ではない。仕掛けられるのだ。エルドルードは南の内海にベッタリ面しており、発展した港町が3つもある。しかも国内には大穀倉地帯と呼ばれる場所がコボル平原を含めて5つもあり、その上領内には南側では珍しい鉱山まで幾つかある。
此処まで好条件が整っているので、近隣諸国は、「少しでもエルドルードの足を引っ張ろう」「あわよくば、領土を削り取ろう」としょっちゅう喧嘩を売ってくると言うわけだ。
え?豊かで良いじゃないか。ゲンナリする情報は何処かって?
それはこれからだ。
実はエルドルード王国は全体としては人口350万人だが、ティアーノ王家の領地である直轄領の人口は50万程、面積も王国全体の6分の1である。確かに国内で1番大きいのだが、貴族相手に我を通せる程ではない。しかも、直轄領の中にも幾つも荘園があり、荘園領主の豪族が居る。他にも、法衣貴族や余所に領地を持っている貴族の荘園もある。もちろん王家の荘園もあるし、王家だって他の貴族の領地に荘園を持っているが、それでも、現状を見るに、王家の権威は其処まで高くは無さそうだ。
「この状況で変なことしたら内乱になるだろ?」
頭の中がお花畑である、本来のクリスくんは気づいてなかったみたいだが、ゲームみたいな事をしようとしたら大変な事になる。
「まあ、落ち込んでも仕方ない。次はいよいよ魔法だ!」
次に調べるのはお待ちかねの魔法だ。先程も言ったが、この世界は剣と魔法の世界。当然魔法はある。しかも嬉しいことに、この世界では誰でも魔法が使えるのだ!!
そう。「才能のある人だけ」とかじゃないんだよ。まあ、誰でも使えるってことはそこら辺の市民も使えるって事だから、怖いっちゃ怖いけど。
「え〜と。やっぱり属性はゲーム通りか」
魔法の属性は6属性。ありがちな「炎」「水」「風」「土」「光」「闇」だ。人間なら誰しも自分の魂に適性があるどれか1種類を使えることが出来る。極稀に2種類の適正を持っている物も居るそうだが、本当に稀らしい。確かゲームの設定通りならクリスの適性は風だったが?
「此処で練習する訳には行かないしな」
とりあえず、練習はまた今度にして、今は調べ物をしよう。他は何かあるかな?
「ん?」
本棚を見ていると、外から書庫の扉が「コンッコンッ」とノックされる。
「第2王子殿下。いらっしゃいますか?」
外から今朝の美少女の声が聞こえてくる。
「ああ。居るぞ。どうした?」
「急いで来て下さい!国王陛下が及びです」
「何!?」
俺に関心の無かった陛下が呼び出し?何か厄介事が起こりそうな予感に不安を覚えつつ俺は急いで書庫を後にした。