第1話 とりあえず現状確認①
とりあえず。外に居る人に返事をしなくてはいけない。でもどうしよう?どうやって言えば良いの?
「殿下〜。まだお目覚めではありませんか?」
どうしよう?どうしよう?
「失礼いたしますね〜」
うえぇぇ!!まだ対応考えてる所なのに入ってきた!!
「あら!?お目覚めだったのですか殿下?」
部屋に入ってきたのは丈の長い紺のエプロンドレスを身に着けた水色の髪の美少女。歳は15〜16才くらいだろうか?日本の高校に居たら、間違いなく美少女だと学校中の噂になっているレベルの可愛さである。
「お許しもなく入室してしまい申し訳ありません。お返事が無かったので、いつもの様にまだご就寝中かと」
うん。さりげにこの人、俺のこと、て言うか、クリスの事ディスってない?いつも寝起きが悪いって言ってんだろ?
それはともかく此処で返事をしないのは不自然だ。なるべく王子っぽく。
「うむ。起きているぞ。今日は速くに目が覚めてな」
こ、こんな感じで、良いんだろうか?
内心ドキドキしながら美少女を見ると、彼女はクスクスと笑う。
「殿下。どうされたんですか?いきなり陛下の様な口調をなさって」
え!?違うの?じゃあ普段の喋り方ってどんなだよ?
「いつも『俺は所詮王位は継げないから』と仰って、もっと砕けた話し方をされているじゃありませんか?」
そうなの!?まあ確かに、第2王子って事は上に第1王子が居るわけで、普通に行けば王位は継げないよな。
てことは?普段通りの話し方で良いのか?
「偶には王族らしい話し方をしてみようと思ってな」
「まあ!そうでしたか。殿下が漸く王族の自覚に目覚めたようで嬉しく思います」
うん。またさり気なくディスったよね?今まで王族の自覚無かったって事?
まあ、そこら辺は今はあまり考えないでおこう。それよりも、せっかく普通に喋っていい状況ならそのままの方が良い。
「しかし、こういう喋り方はやっぱり窮屈だな。元通りの喋り方にするよ」
「はぁ〜。まあ、殿下はそういうお方ですよね」
ため息をついた後、笑顔でそんな事を言ってくる。結構毒舌だよね君。
「では、それはそれとしてお召し物を変えさせていただきますね」
言うなり、彼女は俺の服を脱がせてくる!!
「うおわぁ!!」
「きゃ!!」
驚きのあまり、思わず彼女の手を振り払って、後ずさると、彼女を俺の声に驚いたのか、かすかな悲鳴を漏らす。
「ど!?どうされたんですか!いきなり。お召し物を変えては何か都合が悪いことでも?」
「いやその、いきなりで驚いただけだ」
だってねぇ。普通いきなり服脱がされそうになったら、誰でも驚くよね?
「何言ってるんですか?いつものことでしょ?やっぱり何かやましいことでも?」
ジト目で睨んでくる美少女。て言うか何!?着替えさせて貰うのが王族の普通なの?
驚きの新常識だが、とにかく誤魔化すしか無い。
「寝ぼけていたんだ。スマン」
「はあ?まあ分かりました。では改めて、お召し物を変えますね」
美少女は再び俺の側に来て、服を脱がせ始める。
「朝食は此方で召し上がられますか?それとも銅の間に行きますか?」
「銅の間?」
美少女は俺の服を脱がせながら訊いてくるが、ぶっちゃけ銅の間がなんなのかも分からない。思わず声に出してしまう。
「態々そんな、『お前何言ってるの?』みたいな目で見なくても。殿下が銅の間に行くのがお嫌なのは知ってますけど、訊かないわけにはいかないんですよ。ちゃんと朝食は此方に運ばせます」
俺は意味が分からなかったから言ってしまっただけなんだが、美少女が勝手に納得してくれた。うん。コレは乗っかろう。
「ああ。いつも通り頼む。所で、今日の予定はなんだったかな?」
コレ訊かないとな。なるべく自然に訊けただろうか?
「今日は何もありませんよ殿下。と言うか、殿下が今日は休養日にすると仰って、何も予定を入れなかったんじゃないですか」
え!?そうなの?マジか!でもありがたいな。
「そうだったな。解った」
話している間も美少女は俺の服を脱がし、新しい服を着せる。
「では、朝食をお持ちしますね」
「ああ」
出ていったか?
「さてと」
美少女が出ていったので、改めて考える。これからどうすれば良いのか?
「まず、情報を集めなきゃだよな」
どうしようと考えていると、頭の中に記憶が蘇るように、浮かび上がってくる。
「あれ!?何だこれ?」
ひょっとして、クリスが今までの経験したことや知識って俺が思い出せるの?
「え〜と。ナニナニ。クリスは側室の子どもで、母親は領地のない法衣子爵家の出身。第1王子は側室の子だけど、母親は公爵家の出身で元正妻。第3王子は正妻の子どもで、今の王の正妻、つまり王妃は隣国の王族の出。第4王子は側室の子で、母親は国内で3番目の広さの領地を持つ、辺境伯家の出。第5王子は側室の子で母親は第1王子と同じ。第1王女は側室の子で母親は宰相職に付いてる侯爵家の出、第2王女は王妃の子ども。第3王女は側室の子で母親は第4王子と同じ。第4王女は側室の子で、母親は領地持ちの伯爵家の出。第5王女は王妃の子ども。第6王女は側室の子どもで母親は第1王女と同じ。第7王女は側室の子どもで母親は第4王女と同じ。更に現国王には妾腹の子どもが十数人居るが、妾腹なので王子、王女と名乗れない」
うん。ややこしいな。分かりやすく纏めるか。
王妃 第3王子 第2王女 第5王女
側室(公爵家出身) 第1王子 第5王子
側室(侯爵家出身) 第1王女 第6王女
側室(辺境伯家出身) 第4王子 第3王女
側室(伯爵家出身) 第4王女 第7王女
側室(子爵家出身) 第2王子
妾腹 十数名
うん。王様お盛んすぎじゃねぇ?側室5人も居るのにまだ妾まで居るし。因みの妾は正式には結婚してないけど、実質奥さんみたいな感じの人達。結婚出来ない理由は簡単で、貴族じゃ無いから。
まあそんなどうでも良い話は置いておいて。クリス、と言うか俺、ヤバくねぇ?母親の実家の地位が一番低いし、しかも、領地がない法衣子爵家だから、権力も無いよ。なのに第2王子なんてポジションに居る。しかも俺だけ同腹の兄弟姉妹が居ない。つまり、王様、あんまり俺の母親のこと好きじゃ無さそう。実際クリスにも無関心だったて、記憶に有る。
え!?マジでヤバくねぇ?だって後ろ盾も無いし、王様の関心も無いんだよね?しかもこの国の法律的に、長子相続(男のみ)が基本だから、何事も無ければ次の王位は第1王子。で、縁起でもないことだけど、第1王子に何か有れば、お鉢が回って来るのは俺だ。しかも何の嫌がらせか、隣国の王族出身である王妃の子どもが第3王子に居る。つまり、王妃からすれば、自分の子どもを王位に付けるには第1王子と俺がポックリ逝けば良いわけだ。
毒殺される可能性大だよねこれ!!
「ヤバイ!マジでヤバイ!何とかしないと!」
殺されるのはゴメンだ。何とかしなくてはいけない。でもどうやって?
「とりあえず。あんまり目立たない方が良いよな」
下手に目立つと出る杭は打たれるの諺通り、毒を盛られてしまう。
「なるべく目立たず、でも後ろ盾は欲しい」
でも後ろ盾って具体的のどうすれば手に入るの?他の王子達は、生まれつき母親の実家が後ろ盾だよね?それ以外で後ろ盾を手に入れる方法って言うと?
「ん〜」
少し頭をひねってみる。いいアイデアは出ないか。
「殿下。朝食をお持ちしましたよ」
俺が現状打破の為の案を考えていると、先程の美少女が台車を押して、部屋に入ってくる。
「ああ、ありがとう」
朝食はスープにサラダ、パンに厚切りベーコンにスクランブルエッグ、そして紅茶とカットした桃に小さなケーキ。取り立てて特別高そうな物って訳でもないが、結構しっかりしている。と言うか、デザートが多い。
何でだろう?こういうお国柄?
「用意が出来ましたよ殿下」
美少女は部屋のテーブルの上にそれらを綺麗に並べる。
「ああ」
食べようと席について、はたと思う。これ、毒入って無いよな?
一度思い浮かぶと中々手が付けられない。
「どうしました?殿下?」
美少女は不思議そうに俺を見ている。
ええぃ。仕方ない。どうせ飯を喰わないわけにはいかないんだ。
意を決して朝食を食べ始める。うん。普通に美味い。
「そう言えば、そろそろ殿下も婚約者が決まりそうですね」
「ぶっ!!」
「うわっ!!どうしたんですか!?」
「ゲホッ!婚約者?」
どうしたじゃない。喰ってる時にいきなりとんでもない事を言わないで欲しい。
「ええ。年齢的にそろそろじゃありませんか?むしろ遅い方です」
婚約者ねぇ。ん?婚約者!その手が有った。嫁さんの実家が後ろ盾になってくれれば良い。
あ!でも、真っ先に政争で負けそうな王子の婚約者の実家がそんなに大きな所のはずないか。
「噂ですけど。殿下の婚約者はリーンベール辺境伯のご令嬢になろそうですよ」
「そんな噂が有るのかよ。て言うか、誰だリーンベール辺境伯?」
咄嗟に口から出た疑問の声に美少女は目を丸くする。
「何で知らないんですか!?国内で王家に次ぐ広さの領地を持つリーンベール辺境伯ですよ。知ってて当然でしょう!!」
そうなのか?でも何でそんな大きな家のご令嬢がこの今にも毒殺されそうな王子の婚約者に?
待てよ?リーンベール?確か「清純のフランチェスカ」で出てくる。悪役令嬢がリリアーナ・ルチア・フォン・ド・リーンベールとか、そんな名前じゃなかったか?うん。よく、我が家の姫にして暴君。絶対権力者たる妹様が「リリアーナマジウザい」とか言っていた。確か王子ルートで出てくる悪役令嬢で、最後はクリスに婚約破棄されて、ヒロインをイジメていた罪で社交界から追放すると言われてしまう令嬢だ。クリスはその後、真実の愛に気づいたと言って、法衣男爵の令嬢であるヒロインのフランチェスカに求婚し、目出度く2人は結ばれる。確かそういうエンディングだった。
いや!全然目出度くない。王家の次に大きな領地持ってる辺境伯家の令嬢に対して一方的に婚約破棄して、しかも社交界を追放する。その時点で辺境伯を敵に回してる。しかも、それで選んだのが自分の母親の実家よりも地位が低くて権力がない法衣男爵家の令嬢。
アホだろ!!殺してくれって言ってるようなもんだろ?マジでゲームのクリス頭お花畑すぎるだろ!!
とりあえず。俺はそんなアホな選択はしないと心に誓った。