表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

不遺書

作者: 不二、

「あいつ、喪服で来やがった・・・!」激しく焦りが沸き立つ。

両腕に飴色の数珠を携え、なぜか右裾だけ短く、下駄。

ふと目をやると、

相手方の親族は完全に引いていた。

「何あの人・・・」「・・・どういうつもり?」「非常識だわ」ヒソヒソ声で。

うちの親族はというと、ボケーッとして気づいていないやつもいれば、気づいて、笑いを必死に堪えているやつもいた。これはまずいな。

数時間前。

これまで色々と苦労、迷惑をかけた。

そしてなんとか、結婚式を挙げることができる。豪華ではないが。

ただ、一つ気がかりがある。それは、この結婚式に、長らく会っていない滅茶苦茶な4人の幼馴染を招待したことだ。こいつらが大人しく黙って俺たちを祝福するわけがない。招待して数日後、4人から全く同じ長文メールが届いた。簡潔に説明すると、式ではお前に恥をかかさない。ただ、お前にだけ伝わる、深みのある笑いを届けるとのことだった。怖いな。

そういうモヤモヤを抱え、結婚式が間もなく始まる。

「ねえカケル、変なところない?」妻は聞く。

「大丈夫、似合ってるよ」俺は答える。

それから数回、上っ面のやりとりを行い、

「・・・それでは、新郎新婦の入場です!!!」場内から。

そこそこの扉が開き、ロッキーのテーマが流れた。

結婚式の入場曲、退場曲は妻に任せていたので、ひとえに妻のセンス。

マサルとリョウタは図体がでかいのですぐに見つかった。ていうかこちらに目もくれず、大富豪をしていた。

花道が終わるころに、左奥のテーブルにチホがいた。理由はわからないが、ゴッリゴリに睨んでいる。

ただ、3人とも椅子の下に何やら小物を仕込んでいるようだった。

チホのいるテーブルに空席がひとつ・・・サトシがいないな。

新郎新婦が席に着き、くだらねえ司会進行がだらだら続く。暇なので、場内を見渡すと妻の親族・友人とウチの親族・友人の違いに驚いた。妻の身内はお手本のようなマナー・服装で品良く聞いているふりをしている。俺の身内はというと早速眠たそうな年寄り、キョロキョロと落ち着きのない奴らばかりである。例の3人に動きはない。チホはまだゴッリゴリにこちらを睨んでいる。

さすがに目が疲れたのか、若干目を細めている。マサルとリョウタはというと大富豪に飽きたのかババ抜きに変わっていた。何かのメッセージか?などと考えていると、入り口の扉が力強く開いた。サトシだ。

<冒頭部分へ>

これはまずいな。

深みというのはいったい。ヒソヒソ声と笑い声が交差する中で堂々たる徐行で体を運び席についた。

俺はこの混沌を妻はどう感じているのだろうか?と気になり表情をうかがうと興味津々に目を輝かしていた。「カケルから話を聞いていたけど、本当に存在してるなんて」

「まだ気を抜かない方がいい」と意味ありげに言っておいた。

少し経ち、場内のざわつきが収まり、落ち着いた。もうすっかり司会進行の言葉を聞いている人は一人もいなかった。サトシが視線を独占していた。サトシ自身は我々新郎新婦をガン見していた。ものすごく嬉しそうに。

そんなこんなで、進行は乾杯をするまで進み、「それでは、かんぱーーーい!!」皆、上の空ではあるが、体は進行に沿っていた。サトシは人一倍声を発し、人一倍グラスを高く上げていた。また一笑い、冷ややかな視線。サトシ無双。焦る俺。

サトシと同じテーブルに座っているチホに目をやった。・・・やっぱりまだ睨んでいた。入場時と何か違うと思い、よーく見てみるとオッドアイになっていた。おそらくカラーコンタクトを入れたのだろう。片目だけやけにしんどそうだ。さらによーく観察すると、片足だけ裸足になっていた。顔に視線を戻すと満足そうな顔をしていた。

次にあの二人を見てみる。マサルから。見た目に変化があるか、まじまじと見ていると、なにやら椅子下から水の入ったボウルをテーブルに置き、ポケットから細い枝のようなものを取り出した。チホ同様よーく見てみると、ポケットから取り出したものは、

ごぼうだった。そして食事用のテーブルナイフを手に取りささがきにし始めた。

焦りで額に汗が。マサルはものすごく淡々としていた。ごぼうを見るとどうやら途中で先の部分がなかった。何気なくマサルのネクタイを見ていたら、

ネクタイピンがささがきごぼうだった。

リョウタはというと、同じく椅子下からボウルを取り出し、お米を研ぎ始めていた。

汗が頬をつたう。

ケーキ入刀。狂人がいようと、さすがに視線を向ける。皆、スマートフォンをこちらに向けやがる。ただ、4人はやはりしていない。サトシは乾杯時から口をつけず、いままでずっとグラスを天に掲げている。目を閉じて。

チホは目の疲れから目薬をさしている。と思ったら、全弾ミスっていた。靴下は履き直していたがうらっ返しだった。

マサルはごぼうをコース料理にまぶしていた。まぶし終えると、少し自席で休み、椅子下をゴソゴソと探り、また野菜を取り出した。今度は疑いようもなく、あれは玉ねぎだ。

リョウタは米を研いでいる。

俺はもうそろそろ、我慢が出来そうにない。

そして、しばらく時が経ち・・・祝辞の時間。

妻の恩師が照れ臭そうに祝い、親友らが泣き、声を震わしながら祝ってくれていた。

俺に対する祝辞の担当者は全員欠席だったので、妻の要望もあり、例の4人に任せることになった。サトシから。マイクの前に立ったものの、5分の黙とうから始まった。そしてようやく声を発したと思ったら自分のおすすめのアダルトビデオBEST10を感想・見どころ付きで発表しスピーチを終えた。次はチホ。驚くことに至極真っ当な祝辞を、スラスラと言い終えた。ただ、最後の「おめでとう」の後に、マイクが音を拾わない程度の声量で「そんな女のどこがいいんだか。」と確かに言った。睨んでいたのは妻だったのか。

マサル。喋りだしから泣いていた。原因は間違いなく、続けて3玉みじん切りにした玉ねぎだろう。そしてなぜか、俺の内面や妻の外面を褒めちぎってくれた。目の周りをビシャビシャにしながら。

最後にリョウタ。「おめでとう」この5文字をはっきりと大きな声で言い、急ぐことなく自席に戻った。お米を研ぎながら。

なんとか祝辞を終えた。が、俺はもう我慢できない。妻に「トイレに行く」と言い、

目で合図し、4人を式場の外に呼び出した。

4人はさすがにやり過ぎたと思ったのか、目を伏せ、怒られ待ち。

カケル「なんだあれは。滅茶苦茶にしやがって。」

サトシ・チホ・マサル・リョウタ「ごめんなさい。」

カケル「・・・俺も混ぜてくれよ。」

4人「!!」

カケル「俺の居場所を思い出した。後半からは俺も参戦する。何か貸してくれ。」

チホ「・・・こんな小物と小銭しかないけど、使う?」

カケル「ありがとう。恩に着るよ。」自販機が目に入る。

顔を洗いにトイレへ。カケルは自分自身を鏡で見つめる。バッチリ整えた髪の毛、これ以上はないほどの正装。くだらねえのは、俺自身だ。

カケルは、上着を脱ぎ捨て、缶コーヒーを頭からかぶり、おしゃぶりを咥え式場へ向かう。


タイトル、あらすじ、本文すべてが文学的悪ふざけとなってます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ