12話 お化けは死なない
桶の中身をブチまけた体勢のままの首無し騎士に前蹴りを入れて吹き飛ばす。
カッコよく前蹴りと言ったがまあ、こちとら素人。いわゆるヤクザキックというやつだ。
足の骨は勇者ポイントで完全に治した。本当に瞬間完治だったな。
(欠損部位を含めた全回復、2p使用しました)
開幕得意技を決めていい気に成ってたのか受け切れるとたかを括っていたのかマトモに食らった鎧は10m程転がってからようやく起き上がる。
ヤル気なんだろう?
さっさと向かってこいよこの野郎。
俺のヤル気も伝わったのか首無し騎士も何処からともなく取り出した大剣を取り出し構える。
「ーーーーーーー」
無音の咆哮。
やつの前に黒いモヤが現れその中から出てきたのは首の無い重装の軍馬とそれが引く戦車。
タンクではなくチャリオットの方ね。
自分の頭を左脇に抱え、右に大剣、支え無しで振り落とされないのか?
どうやら俺の骨の馬と同じく自分の一部な様で、問題なさそう。
手綱も使わず戦車を操り突撃して来る。
俺の横をすり抜けつつ、大剣で薙ぎ払うつもりのようだ。
避けようと思えば避けられなくも無いような気もするが、俺にその気は無い。
高い位置から放たれた大剣の一撃を無造作に受ける。
グワァァン!
大質量の金属同士がぶつかったような重い音が響くが、俺は微動だにしない。
(首無し騎士 3pです。 状況を開始しますか?)
いや、こいつらは殺さない。
こいつらには、徹底的に格の違いを思い知らせるつもりでいる。
その為に首無し騎士の攻撃は余裕で受けきり、此方はすべての面で圧倒的な破壊を見せつける!
ポイント稼ぎはまた今度だ、ウィルさんすまないな。
(問題ありません)
俺の横を走り抜け、後方でUターンして再びやって来る首無し騎士の戦車。
馬が有るのはお前だけじゃねえぞ?
此方も骨の馬を呼び出し馬上の人になると、戦車に向かい突撃をかける。
奴のようにすれ違いざまに切りつけるといった事はしない。
正面突破、首無し軍馬に自らの馬で直接ブチかまし!
向こうは回避しようとした様だが戦車にそんな小回りが効くはずもなく正面衝突。
跳ね飛ばされた首無し軍馬が倒れ戦車が横転、首無し騎士が放り出される。
俺は倒れたやつの前に馬を寄せ、そのまま踏み潰……さずに馬を消す。
「おら、待っててやるからサッサと起きろ」
首無し騎士は少しふらつきながらも起き上がるとおもむろに大剣を振るう。
先程から見るにこいつの剣の腕は素人の俺よりも遥かに上の洗練されたものの様に感じる。
普通に剣の勝負なら俺など足元にも及ばないだろう。
そんな剣が幾度も俺を打つが全てをされるがままに受ける。
受けながらゆっくりと太刀を抜き、
フルスイング!
首無し騎士は剣を立て、俺の一撃を受けようとするが、受けた剣を軸にその場で縦に半回転。
上半身から地面に突っ込む。
頭がついてたら脳震盪間違いない無しだったろうに運のいいやつだ。
「いったい奴はなんなのじゃ!妾の最強の騎士がまるで子供扱いでは無いか!」
今更か?だからお前は駄トカゲなんだよ。
倒れた首無し騎士を無理矢理立たせ、戦闘を再開。
一々倒れられるのも面倒くさいので太刀は横では無く上から下への振り下ろしに切り替える。
ガン!
ガキッ!
ガン!
引き続き相手には好きに攻撃させ、此方は合間に一撃。
一応首無し騎士は、此方の攻撃を全て剣で受けてはいるが御構い無しに叩きつけている。
ガン!
ガン!
段々と首無し騎士の攻撃の頻度が落ちてゆく。
此方は相変わらず相手の防御の上から太刀を叩きつける。
ガッ!
ガッ!
頻度の落ちた攻撃はやがて防戦一方に。
もう首無し騎士は俺の太刀をかろうじて受けるだけになっている。
「何をやっておる!その様な化け物との殴り合いに馬鹿正直に付き合うやつがあるか!!すでに【死の宣告】は与えておるのじゃ、はようお前の魔力で其奴の魂を抜き取らぬか!」
外野がうるさい。
ああ、首無し騎士が最後の力を振り絞り俺から距離を取ってしまった。
ガチンコ殴り合いは終わったのだ。
首無し騎士が俺に剣の切っ先を向け声なき声で告げる。
「ーー」
(死ね)
俺にはそう聞こえた。
辺りが鎮まり返りこの場の全員が身動きひとつしない中
カタカタカタ
俺は骨の顎を鳴らして笑う。
「クキョキョキョキョ!」
「なぜじゃ!なぜ死なぬ。やはりこ奴はアンデッド!」
「妖精さんだって言ってんだろうが、しつこいぞこの駄トカゲが!!」
「なっ!駄……」
外野の邪魔で中断してしまったが、再び首無し騎士の前へ。
既に立っているのもやっとの様だ。
そもそも男と男の殴り合いシチュエーションで先に引いたのだ、こいつにもう勝ち目は無い。
刀を握ったままの拳を鳩尾の辺りに全力で撃ち込み終わりにする。
剣も即死技も受けきった、まさに完全勝利と言って良いだろう。
まあ、最初に血液ぶっかけられた時に分かっちゃったんだよな、この【死の宣告】は肉体から魂を無理矢理引っこ抜いて相手を殺す術だってな。
でもな、俺って妖精さんだけど元のゲームでの設定では妖怪なんだよね。
で、妖怪は実体を持った力そのものなわけで、そもそも肉体と魂の区別が無い。
よって【死の宣告】は効かない訳だ。
(有効だったとしても私がポイントを使って無効化しますけどね)
はは、さすがウィルさん頼りになる。
「驚いてる駄トカゲに一つだけ良いことを教えてやろう。俺の故郷の偉い人が言った言葉だ」
【お化けは死なない】
覚えておけ。
首無し騎士を沈めた俺は、駄トカゲに向かってゆっくりと歩き出す。
「く、来るでない!ひぃぃ!」
この後に及んでまだ見苦しく狼狽える駄トカゲ。
格上に喧嘩売っちゃったんだからもう諦めれば良いのに、命まで取ろうとはせんよ?
「俺の勝ち、で良いな?」
ダメ押しで確認を取る。
「嫌じゃ、妾は負けとうない」
「ならお前が続きをやるか?」
今更そんな気力はないだろうことを承知の上で追い詰めていく。
ちょっと楽しい。
「うう、何故そんな意地悪ばかり言うのじゃ。妾は……」
「お前から喧嘩を売ってきたんだ当然だろう、諦めて負けを認めるんだな」
先に矢を打ち込んだのは俺だけどね。
「わかったのじゃ、妾も誇り高き竜の一族、煮るなり焼くなり好きにするが良い。さあ殺せ!」
もう、ほとんどヤケクソ気味にひっくり返って腹を見せる駄トカゲ。
こいつらにとって勝ち負けは生きるか死ぬかしか無いのか?
「いや、命とかいらんぞ。敗者に鞭打つ様な事は好きじゃあない。取り敢えずもう俺に絡んでこない事を誓った上であっちの鎧野郎と一緒に汚した駐車場を掃除して貰う位かな」
「なに!命を取らぬのか!いかん、それはいかんのじゃ。お、お主は妖精なのであろう?それが竜の一族である妾の命を助けるなど、あ、あってはならんことじゃ。」
なにが、いかん、なのかはよくわからないが駄トカゲの変なプライドなど知ったことではない。
「勝った俺が良いって言ってんだから良いんだよ。黙って言うことを聞け」
「あう、あう、……」
ポンコツ駄トカゲ、とうとうまともな言葉が出なくなったな。
「で、返答は?」
「……はい、なのじゃ」
まあ、これで決定っと。
「ところでなのじゃが、そこな妾の騎士はどうなるのじゃろうか……」
「ん?基本的にお前と一緒だよ。命は取らない、掃除はさせる」
まさか自分だけ見逃されると?そんな訳無いだろう。首無し騎士は従犯で主犯はお前だろうに。
「まさか二人ともとは……いやしかし強きオスであればそれも当然か……。じゃが一つだけ約束して欲しいのじゃが、妾は良い、覚悟を決めた。しかし、我が騎士に対しては少し手心を加えてやさしゅうしてやってほしい。この通りじゃ」
急にかしこまって頭を下げられると困るのだが、こいつにも配下に対する責任感の様なものはあるんだな。
「ああ、わかった約束しよう」
「感謝するのじゃ」
「じゃあ、早速」
「なっ!早速とは、今すぐここでか!? その様な事は流石に無理じゃ、いかん、いかんのじゃ。いくら覚悟を決めたとはいえ心の整理が追いつかぬ。後生じゃ、必ず戻るゆえ準備の時間をいただくのじゃ」
は?床掃除一つに大袈裟すぎないか?
覚悟とかそんなもの要らんだろうに。
それに準備って、こいつらが掃除用具とかを持ってるとは思えないんだが。
あっ!
俺が疑問に思っている間に猛ダッシュで首無し騎士を咥えた駄トカゲが、コンビニを覆うモヤの向こうに消えてしまった。
うあ、逃げられた?
いや、帰って来るとは言ってたな……
それに、途中で駄トカゲが呼び出した小悪魔ちゃんは残っているのか。
名前はスピカだったか。
「ええと、帰って来るのか?」
「はーい、ご主人様はおバカさんですが、約束を破る様な悪い子では無いので今晩にでも戻ってきまーす。期待しておまちくださいですー。」
そうか、ではそれはそれとして。
「わかった、でもな、血痕とか気持ち悪いし時間が経つと汚れが落ちなくなるから、あいつら帰って来るまで代わりのお前が掃除な」
「ひゃー。一緒に帰っておけば良かったでーす」
いや、流石にそれは許さない。
後ろを振り返りことの次第を見守っていた一同に声をかける。
「心配かけたか?一応何とかなったみたいだ」
「いえ、心配とかはしてませんでしたが、一方的過ぎて流石に驚いています」
「今の戦いよりも、今からの旦那が心配になっんだがな」
「やっぱり今のってそうゆう事よね?」
「御伽噺の中だけの話だと思ってた」
(……)
ん?これから?
あと何気にマリーさん初ゼリフ。
何やら俺だけ分かってない風だがいったい何の事だ?
「この様子だと、骨の人は何も理解して無いでーす」
いったい何なんだ。
その後は流石に訓練を続ける気にもなれずみんなでまったり過ごし、約束のよるになったのだが。
「や、約束どうりに嫁いで参ったのじゃ。我が騎士共々末長う宜しく頼む」
「ーーーー」
え?誰?
コンビニに尋ねてきた長身スレンダー美女とコウモリの羽根が生えたのじゃロリ美少女。
衣装は何と、スケスケの薄衣のドレスで非常に来るものがある。
思わず呆然と見とれているとのじゃロリさんは、
「そのように見つめられると恥ずかしいのじゃ。これは由緒正しい妖精の嫁入り衣装じゃと我が騎士が用意してくれての、主様は妖精だと聞いて合わせてみたのじゃが気に入ってもらえると嬉しいのじゃ」
なに?嫁?誰の???
ピコーン
(竜の姫を娶りました。5p獲得しました。泉の乙女を娶りました。3p獲得しました。)
え?え??




