11話 ダンジョンマスター
「この妾の管理するダンジョンで見慣れぬ気配がすると様子を見にきてみれば、なんじゃここは。 既に妾の管理下で無く他の何者かの支配下にあり、あまつさえ人間を引き入れ厚遇しておる。 さらにはわざわざ出向いた妾にこの仕打ち。不遜である!不遜であるぞ!!」
突然現れたドラゴンは体高3.5m全長10mくらい、高さが4mほどしか無い通路から出てきたとは思えないサイズだ。
そして、よく見ると頭には俺が先程放った矢が深々と突き刺さっている。
(何だか凄いのが出てきましたね)
「喋った、古龍以上の……」
「なんだと、キマイラの次で古龍とか聞いた事もねぇ!」
「むしろ古龍にアレだけ深く矢が刺さるとは!」
サレナさん物知り、ケリー下がれ! タルク、そこじゃ無い。
だが、本当に深々と刺さっているな、もう矢の羽部分くらいしか見えていない。
あれ大丈夫なのか?
俺たちの混乱を他所に、お怒りのドラゴンが続ける。
「妾のダンジョン内に無断で居を構えた痴れ者と、妾に傷をつけた愚か者はどヤツじゃ。此度は妾が直に罰をくれてやらねば気が済まぬ。おとなしゅう名のり出よ!」
うぁ、お怒りですね。 そして俺ご指名です。
まあ、他のメンバーにとばっちりが行く前に名乗り出ないとな。
「俺だ、このコンビニの店長で矢を放った本人の、コンビニ妖精のヒライエだ」
「ぬっ!骸骨、アンデッド如きがこの妾のダンジョンにアヤをつけ、尚且つ弓を引いたとは! 随分と舐められたものよ、貴様だけは念入りにすり潰して欠片も残さぬ、覚悟せよ!」
「立地は本当に偶然で、矢は事故なのですが、お詫び申し上げますのでご容赦願えませんか? あと俺アンデッドじゃなくて妖精ですので」
「ならぬ!この場の全員消し炭とし、お主を粉々にすり潰さねば妾の気が済まぬ。 人が4、骨が1、それに……ほう、珍しい家事妖精か。妾からは逃げられぬと知るが良い」
「……ん?そもそも、なぜ人間がこの階層に居るのじゃ!ここは第20階層の予定地、人の力では15階層を抜けるだけであと10年はかかる筈じゃ!」
何だか急に一人で焦りだしたぞ?10年も何も15階層はついこの間、俺が裏からキマイラ倒して攻略したぞ? その次だからここは16階層の筈だし。
「貴様ら、そもそもどうやってこの階層に入った!15階層には万が一にも突破されぬ様、規定よりも遥かに強力な守護者を置いておいたはずじゃ!」
「キマイラなら倒しましたし、そもそもここは16階層で20階層ではありませんよ」
「そんな馬鹿な、確かにここは20階層の予定地じゃ。それにあのキマイラを倒すなど……」
何かトラブル?
「スピカ!スピカは居らぬか。」
「はーい、おはようございます、ご主人様。 サポート小悪魔のスピカ御前に参りましたよー」
「一つ聞く、妾はどのくらい寝ておった?」
「ん〜、大体10年くらいですかね。何度起こしても起きないくらいには、よくお眠りでしたぁー」
「10年……で、では寝る前に指示しておいた16階層の工事は」
「はい、現在も鋭意進行中ですー。みんな張り切ってじゃんじゃん拡張してますよー。現在は、大体24階層の予定地だった場所を工事中でーす」
「ば、馬鹿者!8階層ぶち抜きなどと言う冗談の様な階層を作る奴があるか!」
「え〜、でも『起きてから次の指示を出すからそれまで今の作業を続けよ』とかカッコよく仰ったじゃないですかぁ」
「ぐぬぬ……」
会話全部筒抜けですよ〜。
しかし、この階層がただっぴろい理由がこんな下らない事とは。
アホの子とねぼすけの夢のコラボ、ステキですね。
こちらは大迷惑ですが。
(この竜無能ですね、私の部下なら真っ先に飛ばします)
ウィルさん厳しいね。
「これはマズイのじゃ。妾の美しいダンジョン経営計画が破綻しかけておる」
クワッ!
うお、いきなり目を見開いてコッチ見んな。
「そこの貴様!キマイラを倒したと言いおったな?貴様の所為で妾のダンジョンが破綻しかけておる。責任を取って15階層で守護者をするのじゃ!貴様が滅ぼされる迄には計画を修正して見せようぞ!」
「いや、普通に嫌だけど?」
意味がわからない。
いきなり出てきてこちらに責任転嫁してきやがった上に、尻拭いさせようとか。
しかも、さらっと俺が滅ぼされる前提だし。
そんなの断るに決まってるじゃん。
「なんじゃと!このダンジョンの支配者であるこの妾が直に配下にしてやろうと言うのを断ると言うのか!」
「当然じゃないか。最初は矢当てちゃったし、ダンジョンの管理者とか言うから大家か地主みたいなもんかと思って対応してたけど、話し聞いてたら悪質なクレイマー以下の迷惑なだけの存在じゃないか。 自分のケツくらい自分で拭けっての。顔洗って出直してこい」
うは、言ってやった!前世での客共に言ってやりたかった事を言ってやった。
めっちゃ気持ちいい。
「この妾相手にそこまで言うとはなんたる不遜!!もう勘弁ならぬ」
我儘ドラゴンはおもむろに息を吸い込み、
「させないっての!」
ブレスを放つが、俺が体を張ってブロック。
ブレスはドラゴンと目の前に立ちはだかった俺との間で爆ぜ、あたりが閃光に包まれる。
くぅ!!
熱い! どれくらいかって沸かしすぎた風呂にいきなり飛び込んだくらい熱い!
だが殆どダメージはない。少しヒリヒリするがそれだけだ。
体感的に俺ってめっちゃ火耐性的なのが高いのは分ってたが、やはり反則級に丈夫だな。
ブレスを耐えきり仁王立ち。
今の俺ちょっとカッコいい。
後ろのシル達を振り返り無事なのを確認した後、仮面を取りドラゴン相手に渾身のドヤ顔を決める。
骸骨の顔でも雰囲気で伝わるだろ?
「な、妾の渾身の一撃が!」
はっは、うろたえてやがりますな。
だがこれで終わりじゃないぞ?
「クキョキョキョキョ!!」
オラぁ!お返しだ喰らえ!!
目には目を歯には歯をブレスには?
(はい毒霧ですね。)
全力の毒霧をドラゴンの顔目掛けてぶちまける。
TRPGの頃ならサイコロ10個の範囲攻撃を受けるがいい。
「ひぃ!目が目が痛いのじゃ!それに顔じゅうがチクチクするぅ〜」
うあ、こいつも大概硬いな。毒耐性でも持ってるのだろうか。
「なぜじゃぁ。なぜ妾に逆らうのじゃぁ」
何だか声が半泣きになってるな。
妖精さんを怒らせるからそういうことになるんですよ?
「スピカ、スピカ!何故こやつは言うことを聞かぬ!?」
「ご主人様、それはこの骨の人がこのダンジョンのモンスターでは無いからですよ。当然じゃ無いですか。それにキマイラを倒したのなら強いのは分かりきってたことですし。おまけにご主人様、最初にすり潰してやるって喧嘩売りましたよね?」
「なんとゆう事じゃ、そんな話は聞いておらぬぞ!これでは妾の威厳が!!」
もうこいつめんどくさいな……
適当にぶっ飛ばしてお引き取り願うか。
(ドラゴン退治の基本ポイントは5pです。シチュエーションを整えれば最大で300p位まで望めます。状況を開始しますか?)
ポイントは欲しいけどイキナリ命のやり取りまではちょっと。
「こうなれば最後の手段じゃ!いでよ我が最強のシモベよ!!」
あ、まだ悪足搔きしやがるかこのクソドラゴン。いやもうこいつはトカゲでいいや、トカゲ、そう駄トカゲだ。
その駄トカゲの前に禍々しい黒いモヤが生まれそこから現れたのは鎧姿の騎士。
右手に身の丈ほどもある大剣、左手に自らの頭を抱えている。
はっは、デュラハンじゃないか。アンデッドに間違われる妖精さん不動の第1位の首無し騎士。
俺的にはご同輩と言った親近感すら湧く相手だ。
俺のイメージの中のデュラハンよりも細身の、スラッとしたフルプレートに身を包んだそいつは真っ直ぐ俺を見据えて前に出る。
同系統の妖精で駄トカゲの切り札か、これは少し骨が折れるかな?骨だけに。
ぷぷッ
いかん、ひとり骸骨ギャグにふけっている間に目の前まで近づかれてしまった。
ん?いつの間にか大剣ではなく桶が。
「ヒライエさん、それはマズイ!」
タルクが叫ぶ。
あ、俺にも分かった。
普通なら流石に俺でも回避一択だ。
だが俺が避けたら後ろの誰かに当たるかもしれないだろ?
ここはいっちょ、『本体で受ける!』だ。
ウィルさんは背中に隠れててね。
動かない俺に桶の中身がブチまけられる。
骨の体をぐしょぐしょに濡らす真っ赤な液体。
立ち込める鉄の匂い。
相手に桶いっぱいの血液をブチまけ、確定した死を告げるデュラハンの特殊能力【死の宣告】。
ふふ、俺血塗れです。駐車場にも大量の血痕。
これ誰が掃除すると思ってるんでしょうね。
おまけに死の呪いですか?ヤル気満々ですね。
……
……
無・事・に・帰・れ・る・と・思・う・な・よ?