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10話 ベースキャンプ

 タルクの単独事故現場からリスタート。

 今日のお供はケリーのみ、ウィルさんはもう俺のオプション扱いなのでわざわざカウントしない。

 そしてタルクは今日1日、駐車場の掃除をしながら反省してもらう。


 潰れた車は現在再生中、コンビニの備品は俺の妖精力で直す事ができる様だ。

 その分本体である俺は抜かれた力の分だけ気だるい思いをしている。


 ケリーを馬の背に乗せポクポク歩く。暗闇を見通すすべのない彼のためにウィルさんが道を照らす。

 速度は、人が歩くよりは速いが電気自動車ほどでは無い。

 そしてこの馬は俺の一部であるため、走らせると自分が疲れる、ままならないな。


 一つ良いことは、ハコ乗り電気自動車よりも即応性が高いこと。

 一々停車して外に出なくても、そのまま対応出来る。


「旦那!上だ。すまない気がつくのが遅れた!」


 そう、こんな時も直ぐに対応できる訳で。

 仮面を外して骨の顔を晒すと、迎撃に移る。


「キョキョキョ!」


 喰らえ!妖精魔術、毒霧攻撃ぃぃ!!


 襲いかかろうと群がって来た巨大コウモリのキラーバットに向けて毒の霧を撒き散らす。

 この技は俺唯一の妖術と言われる技で、いわゆる魔法の様な物だ。

 ゲーム的に言うなら弾数制限あり、射程1の広範囲攻撃だ。

 いざ現実になってみると射程1の所に不満が残るが範囲攻撃は便利だ。

 威力も調整できるし使い勝手は良い。


 元ネタは思い出せないが、源平なアクションゲームにあったか、子供の頃に好きだったプロレスラーか?


 俺の口から放たれた毒々しい紫の霧に侵攻を遮られたキラーバットがボトボトと地面に落ち絶命する。


「うお、やっぱ旦那の奥の手はおっかねえな」


「巻き込まない様には気をつけているけど間違っても触らない様にね」


 この毒の効果は十秒足らずで切れるがそれまでは危険だから。

 自分で触ってみた時も結構ピリピリしたから人間のケリーではかなり危険だろう。


 だがこの術があれば、再びグレートウルフの群れに遭遇したとしても問題なく切り抜けられるだろう。

 足の骨はまだ生えてこないし、無いはずの骨がウズウズする。


 そのまま数度の襲撃を退け案内どうりに進んでいくとケリーからの指示が出る。


「そろそろ目的地が近い。他の冒険者に出くわす事もあるかも知れないんで変装を頼むぜ」


 言われるままに人間形態、周り曰く妖精形態に変化しておく。

 やはり肉がつくと体が重い。


 暫く進むと灯りが見える。


「あれが俺たち冒険者のベースキャンプ、このダンジョンでは最前線って奴だ」


「アレは、見張りかい?」


 あり合わせの品々で作られたと思しきバリケードとその前に並ぶ二人の男たち。


「ああ、持ち回りで警戒をしてるんだ。ああやって割り当ての労務をこなしたパーティーから順にその階層のボスに挑む権利を得る決まりになってる」


「抜け駆けすると?」


「ベースキャンプから追い出される。以後はそのダンジョンでの探索は諦めなきゃいけなくなるな」


「あら、なら俺マズイことしたかな?」


「そこは問題ねえだろう。旦那は俺たちの助っ人ってことになると思うぞ」


 ここの冒険者達は将来のお客さん候補だから余計な衝突は避けたい、変な問題にならないなら良かった。

 だけどこれから、ダンジョンの先を確認に行くなら気をつけるに越したことは無いかな。


 目的地に到着した事でケリーが地上に降りて馬をひく形で先導してくれる。

 でも、その馬も俺なのでケリーに引っ張られてるみたいで何だか腹がたつぞ。


「止まれ!どこのパーティーだ。馬なんて持ち込んだ奴は居ないはず…… 【来訪者】のケリーか!その馬はいったい、いや他のメンバーはどうした!お前らが戻らないからもしかしてと話になっていた所だぞ」


「ああ、話すと長くなるんだが階層ボスとの戦闘で全滅仕掛けた所をこちらの旦那に助けられた。他のメンバーは怪我で動かせない奴が出たんで旦那の拠点で療養中だ」


「俺たちの知らない拠点があるのか!?それに馬まで……」


「そのな、信じられんかも知れねえがこの旦那、人間じゃなくてな、なんだ、妖精らしいんだわ」


「「はぁ!?」」


 見張り二人が訝しげに俺を見る。まあ、いきなり妖精とか言われてもね。


「旦那、仮面をとっちゃあくれねえか?」


 この辺りは事前の打ち合わせどうり。

 仮面を取り見張り二人組みに話しかける。


「馬上から失礼。先日グレートウルフに足をやられてね。俺は次の階層のに店を構える妖精で、ヒライエと言う。肩にいるのは相方のウィルさん。最近この世界に招かれて来たばかりで右も左もわからない状態でね。よろしく頼むよ」


「す、すげえ……」


「妖精……」


「まあ、この姿が本性ってわけでも無いんだけど、そちらは少し刺激的過ぎるから、まあそのうちね」


「そんなわけで通らせて貰うぜ。それと旦那の話は街のギルド長まで通さなきゃならねえと思うから、各パーティーのリーダーを集めて貰えるか?」


「ああ、わかった、中央の集積所で待っててくれ」





 その後、集まった冒険者達の前で自己紹介をさせられたり骨になったり人になったりとやらされた後、現在の状況を説明したが、街に使いを出して指示を仰ぐからコレより先に進むのは待ってくれと頼まれてしまった。

 もうマリーさんの治療とかうちでやるしか無いか。


 コンビニの場所も探りを入れられたが、人の足では3日は掛かるのでと誤魔化しておいた。

 冒険者一人一人は気の良さそうな奴らだったが、まだ組織としての彼らを信用するほどでは無いしね。


 地上の街から指示が返ってくるまでは最低でも10日は掛かるとの事なので、【来訪者】の持ち込んでいた物資を回収しコンビニへ戻る。


「ただいまぁ〜」


「おや?早かったですね。ベースキャンプには辿りつけましたか?」


 今日のお出迎えはシルではなく、罰掃除のタルク。

 駐車場の掃除は終えたようで、今は再生中の電気自動車を磨いている。


 正直な話ボディを雑巾で擦るのはカンベンして欲しい所だが。今更細かいキズを気にしても仕方ないし、正直、事故再生で何とかなるので放っておくか。

 そして、いくら綺麗にしてもお前にハンドルは握らせ無い。


 店内にみんなを集め、事情の説明。

 10日あるのならばマリーさんも動けるようになるだろうとの事で、その時に一緒に地上へ出る事にした。


 そして空いた時間は俺の訓練に付き合ってもらう。


 最優先は弓。

 せめて前に飛ぶようにしなければもったい無い。

 マリーさんの調子がいい時に基本だけ教わって後は自主練。


 駐車場の隅に作った的に向って弓を射る。


 あたらん。数を繰り返すが全然上達しない。

 キャラクター的には多少の弓術技能は取得している筈なのだが、その技能がほぼ仕事をしていない。


 ズバッ!!


 その癖時たま、まるで弓の達人になったかの如く見事に的を捉えたりもする。

 矢を放った瞬間に当たるとの確信があるからまぐれ当たりでは無い筈だ。


 どうやら最低限の基礎は自力で習得し、最低限の型をなぞった時で無いと技能の補正が入らないのでは無いかと予想している。


「時たますげえんだけど、その時以外はダメダメだな」


「ですね、これはもうシッカリとした専門家に師事するしか無いのでは?今は諦めて向こうに混ざりませんか?」


「……却下。君にハンドルは握らせません」


 向こうとは、回復の終わった電気自動車で運転の練習をする女性陣だ。

 本調子では無いマリーさんは触り程度だが、サレナさんとシルは交代でみっちり練習中。

 真剣な顔でハンドルを握るシルが可愛すぎる。


 練習中に判明した重大な事もあった。

 なんと、この電気自動車の車内と周囲数メートルの範囲はコンビニとして判定されているのだ。

 つまりは電気自動車に乗ればシルもコンビニの外へと出られるという事。


 最初、運転ミスでシルを乗せたままコンビニを囲む霧の外へと走り去る車を見た時は、既にない心臓が止まるかと思った。

 だがまあ、怪我の功名。この練習が上手くいけばシルだけ留守番とならなくてすむ。


 一人でお使いも出来るようになるだろう。させないけど。


 これらから、俺の中ではもう電気自動車は女性陣専用になっている。

 男共は、諦めて俺の弓に付き合うのだ。


「そもそもダンジョンで使うには弓が大きすぎませんか?」


「その上、馬上で使うんだろ、一体何を想定してるんだ?」


 何って言われても源平頃って言えば戦場の華は弓だったらしいし。

 那須与一とかね。


「ええっと、戦場で波間に揺れる扇を撃ち落とす?」


「意味がわからんぜ。それに戦場で使うならもっと遠くに飛ばさ無いと話にならんだろ?もっと上に向けて遠くに飛ばしてみたらどうだ」


 物は試し、ケリーのアドバイスどうりに飛距離を意識して、斜め45°で矢を打ち出す。

 向きは距離を長く取れる霧の外へ。


 バヒュッ!!!!!


 打ち出された矢は今までの事が嘘だったかのようにあり得ない勢いで飛び出した。

 その様子はまるで攻城兵器か何かのようで、我が事ながら呆然としてしまう。


 おそるおそる後ろを振り向くと、感情の抜けた様な無表情で見返して来る二人。


「今の魔力使ってませんよね?意味がわからない」


「旦那、あんたいったい何と戦う気だったんだ?」


 ちょっとしたアメコミヒーローばりの戦闘能力を持った、プレイヤーキャラの集団ですよ?


 でも少しやりすぎ感はあった。

 きちんと習うまで、弓は暫く封印するかな。


 そんな事を考えていると


「グアアア!!!」


 霧の向こうから巨大な咆哮が上がる。

 あまりの大音量に空気が震えているじゃ無いか。


 ズン!ズン!


 近付いて来る大きな足音。

 そして霧の中から現れた巨大なその姿は、


「ド、ドラゴン!!」


「ありえねぇ!」



 ファンタジーにおける王道最強種、ドラゴンであった。

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