3話
こんにちは、3話です。
外は久しぶりに晴れました。春はもう近いです。多分。
ちなみにこの世界では、もう秋なんですよね。ああ、冬がまた来る…。
「ここにいたのか。」
潰れた酒場の跡地で、2人は再開した。1人が、カウンターにいるもう1人の隣の席に座る。
「幽霊なら、酒もいらないだろ?」
「シュバイネハクセ持ち歩く奴が言えるか?寄越せよ。」
1人がコートの裏から紐で繋がれた豚足を取り出す。旧友は酒を飲み交わした。
「私達は確かに死んだ。でも、何故か此処にいる。その訳が分からんな。」
「少なくとも、モケには守るものはできたよ。ちんちくりんな勇者が。」
1人が笑う。
「お前が?ハッ、笑える話だな。酒のつまみには丁度いい。
…私は随分長い間暇してるんだ。なんかシビれることはないか?」
「ああ。もうすぐ起きるみたいだ。」
「何が?」
もう1人は、黒い軍帽を被り直して、強気な笑顔を向けた。
「戦争だ。」
ブリテンの外れ、ペンザンス・シティ。そこの岬の近くに建つ小さな小屋。
「ここよ。」
マーリンがノックをする。
「どちら?」
「誰でもいいでしょう?この声であなたはわかるはずよ。例の子、連れて来たわ。」
しばらくして、ドアがゆっくりと開いた。が、人がいない。
「どうぞー、中へ。」
マーリン達が中へ入る。
海の見える窓の前で、本を開き、読みながら、フラスコの中で錬金をする、小柄な少女。いかにも魔法使いのような、どこか学生服のような服を着ている。
「さて、と。こんな感じかな?うまく行くといいけど。」
少女が指を鳴らすと、ポンッ、という間抜けだ音が響いた。
「⁉︎」
ハクは驚く。しかし少女は一切気にしない。
「どう…?
…成功ね。上手くいった。」
フラスコの中には、小さな黒い塊。
「マーリン、見て頂戴。この塊、ダイヤモンドよりも数倍硬いオリハルコンを、更なる高みにたどり着かせる奇跡の存在よ?
硬いともじらせて、名付けて[ハドビウム]!ってね。…あら?」
少女がハクに気がついた。
「あなたね?勇者は。」
「そう、この子。意外とちゃっちいでしょ?」
ハクはマーリンの発言にムッとする。
「そりゃないでしょ?あんたもそんなに変わらないんだし。」
「んなっ⁉︎」
「はいはい、そこまで。マーリン、そこの部屋にクッキー用意してあるから、よかったら食べて?」
「本当?わかった。」
マーリンが部屋に入る。窓の部屋には、ハクと少女が取り残された。
少女が挨拶をする。
「初めまして。私はマホト。マーリンの友達で、あなたを呼び出した張本人よ。」
「勇者(笑)のハクでーす。どーぞよろしくー。」
ハクは面倒臭そうだ。が、ふと気付いた。
「あんた、前どっかで会わなかった?聞き覚えある声なんだけど。」
「ああ…、」
マホトが察したような表情をした。
「あの時に腹痛を直したのは覚えてるわ。」
「ああ、あの声の主ね。なるほど。」
ハクは腹痛に倒れた時の、束の間の夢を思い出した。
「さて、それはそうと。あなたには今から伝えておくべきことがあるの。」
「何々?」
「まずは、合衆国に行くの。そこに現れるモンスターを、一匹残らず倒してもらうの。」
「何それやだめんどくさい。」
「その後、マーリンの案内で魔王の居城に向かうの。魔王は人間の味方だから、なんとかしてくれる…、かも。」
「なに?かもって。」
「魔王は気まぐれな性格なの。まるでヒモを擬人化したみたいに面倒臭がりで、とにかく本当に役立たず。でも本気を出せば、国1つはあっさり滅ぼしてくれるわ。」
「何々?チートの魔王様?」
「そう。ぶっ壊れな強さよ。海を全て蒸発させるだの、大規模都市まるごと火の海にするだの、赤子を捻るようにするの。恐ろしいわ。」
マホトはお手上げのジェスチャーをする。ふと、ハクは気がついた。
「先に魔王を連れて行っちゃダメ?」
マホトはテレビのリモコンを手に持つ。
「ノー。間に合わないわ。」
マホトがテレビをつけた。ノイズ混じりに人々の阿鼻叫喚が響く。
[信じられません!未だ嘗て、このような事があったでしょうか!全くもって、信じられません!]
ハクは息を飲んだ。
9月15日、PM1時頃、未だ嘗て異国の侵略を受けたことのない合衆国に、水生モンスターの群れが上陸した。場所はサンディエゴ。
上陸後モンスターは暴れ回り、サンディエゴを破壊し尽くした途端別の街へと向かい始めた。初日で少なくとも、3万人が犠牲となった。
上陸してから4日後、モンスターの群れはロサンゼルスに向かっていた。