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天才と機械  作者: MRS
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第三話 再起動

2018/04/23 誤字を修正しました。

 ───壁に押さえつけられた男と、押さえ付ける鉄の人形。




 白い通路。

 其処には壁に男を押さえ付ける鉄の人形と、

 壁に押さえ付けられた男が居た。

 身長差故か、押さえつけられた男の足は宙を浮いている。

 驚きの表情を浮かべ、鉄の人形を見据える男。

 その男の顔に、押さえつけた鉄の人形のヘッドが迫り。


「驚いた?」

「驚いた。」


 本当に驚いた。

 動くはずの無いロボットは、今だに動き。

 私へと話し掛けて来るのだから。


「(何故このロボットは動く?)」


 この館の全ネットワークは遮断された。

 ケーブルの物理的な切断と、

 あらゆる通信を不可能にするフィールドが館を覆っているからだ。

 これを突破出来る送受信技術は、今の地球上には存在しない。

 となると。


「本体は館の中に居るのか?」


 館の中での送受信は可能なのだから、

 ハッカーは館の何処かに潜んで居るな。


「かもね。

 でも、この状況じゃ探しようがないんじゃない?」


 ロボットは勝ち誇った態度だ。

 確かに、人間の私がロボットの拘束を振り解けるとは、

 微塵も思えないだろう。

 だが、これは不味かったな。

 私が被害を受けてしまった。()()もこれは見逃さないだろう。


「さーて?これかどうしようかなー?

 何てね。あ、御礼なんだけど───」

「「「ご主人様ー!」」」


 左右の通路から複数の人影が、叫びながら駆けて来る。

 駆けて来た者の見た目は、

 黒のロングドレスに白いエプロン姿で、

 所謂一般的なクラシックなメイド服を着ている。

 一般的で無いとするならば、それを着ている者達だろうか。

 メイド服に身を包む彼女達は皆モノアイヘッドで、

 ライフル銃を方から下げている。

 飾り気のない質素なメイド服に身を包んだ彼女達は、

 私達から三メートルの距離まで駆けて、止まる。

 そして三人が膝立ちでライフルを構え、

 その後ろに更に三人がまた同じ様にライフルを構える。


「へ?!何アレ!」


 私を押さえつけるロボットは、

 忙しなくヘッドを左右に振っている。

 眼の前で鋼鉄の物体が出す風切り音、正直恐い。


「彼女達は私が制作したガイノイドで、

 この家のセキュリティでもある。」


 私がロボットへ説明を終えると。


「ご主人様を今直ぐに離せ!一号!」


 通路の片側から、

 ライフルを構えたモノアイメイドとは別のモノアイメイドが叫ぶ。

 叫んだモノアイメイドのヘッドには、

 他の者には無い、黒いカチューシャが付いている。


「放さないと言うなら!」


 カチューシャを着けたモノアイメイドは、

 ゆっくりと右手を頭上に上げて行く。

 それを見たロボットは慌てた様子で。


「ははは放します!放しました!」


 両手を上げては二歩ほど私から距離を取る。

 ロボットから開放された私は地面へと足を着け、

 そのまま四つん這いになる。

 私が開放された様子を見て、カチューシャを着けたモノアイメイドは一つ頷き。

 上げていた手を───勢いよくロボットへと向け。


「確保!」


 その言葉が発せられた瞬間、

 ライフルを構えていたモノアイメイド達が一斉にロボットへ襲い掛かる。


「放したから!はな───!」


 狼狽えて叫ぶロボットに構わず、

 四人のモノアイメイドはロボットの関節を押さえ込み。

 更に二人がロボットのヘッドにライフルを構える。

 ロボットの拘束が完了すると、

 四つん這いの私の元へ、カチューシャを着けたモノアイメイドが近付いて来る。


「ご主人様、背中に軽度の打撲がありますね?」

「え?」


 カチューシャを着けたメイドロボの言葉に、

 何故か拘束されているロボットが此方に顔向ける。

 言われた通り、背中が痛い。

 まあ原因は分かっている。

 私はズボンの間に挟んでいたテーザーガンを背中から取り出し、廊下へ置く。


「直ぐに医務室にお連れします。」


 言いながら私へと近付くモノアイメイドを、

 私は手で制止しながら立ち上がった。


「いや、良い。

 それよりもマーテル。」

『…はい。』


 呼びかけると、通路に音声が響く。

 呼び掛けに応じたのはモノアイメイドでは無い。

 私が呼んだ相手は、この館を管理するAI。

 この館のほぼ全てを彼女が管理し、統括している。

 のだが、応えた音声には元気が無い。


「なんだ?元気がないな、マーテル。」

『申し訳ありません。

 博士への危険を事前に止める事が出来ず、負傷を許してしまいました。』

「そんな事別に気にしなくても───」

『私は駄目なAIです。

 博士の期待を裏切りました。』

「いや、そこまで───」

『分かっています。

 デリートですね?完全なクリーンアップをお望みですね?

 こんな失敗をした駄目AIは必要ない。理解しています。』

「そんな事思ってないから、気にしすぎだから。

 デリート何かしないよ、マーテル。」

『…まだ私は博士にとって必要ですか?』

「そりゃあ勿論。」

『…私はまだ、博士にとってかけがえの無い存在ですか?』


 妙に重い言葉を使うな。


「も、勿論。」

『では録音するので、”私にとって君は、かけがえの無いたった一つの宝物さ”

 と、仰ってもらえますか?』

「実は大して気にしてないな?マーテル。」


 このAIは私が初めて自作した者、なのだが。

 自我を持った故か、私で承認欲求を満たそうとするきらいがある。

 自ら生み出した存在だし、愛着も愛情もあるので。

 傷付けないようにするのに気を使う。


「そんな事よりマーテル。

 このロボットを操ってる者は館の何処に居る?」

『…それが、館には居ないようです。』


 先程と打って変わって非常にテンションの下がった音声だが、

 其処を指摘していると話が全く進まないので、心を鬼にして無視する。

 いや、それ以前に。


「館に居ない?

 そんな馬鹿な事は…。」

『一号には、先程まで確かに外部からアクセスが通っていました。

 ですが、ネットワークの完全遮断以降。

 一号への外的アクセスは確認されていません。

 今現在も、一号に対して何らかのアクセスは確認出来ません。』


 そんな馬鹿な事があるだろうか?

 この館は今完全に外のネットワークとは隔絶状態にある。

 しかし、操っている人物はこの館に居ないと来た。

 私は拘束されているロボットへ近付き。


「この状況に、何か言う事はあるか?」

「…ごめんなさい。」


 また生意気な事か、巫山戯た事を言うと思っていたが。

 予想外にも、ロボットは沈んだ音声で謝罪の言葉を口にした。


「ごめんなさい?」


 私は思わず言われた言葉を繰り返す。


「その、ちょっと脅かすだけの積りで、

 怪我をさせる気は無かったんです。本当にごめんなさい…。」


「あ、ああ。

 いや気にしなくて良いよ。怪我も大した物じゃないから。」


 沈んでいた理由はそれか。

 そう言えば力加減がどうとか言っていたな。

 …もしかして、私はさっき死んでいたかも知れないのか?

 いかん、そう考えると足に震えが!

 これ以上考えると震えが全身に広がりそうだ。


「ささ、さっきの事は気にしなくていいから。

 それよりも、だ。

 何故まだ君はそのロボットを操れるんだ?

 出来れば正直に答えて欲しい。」

「まだネットに繋がってるからじゃない?」

「それは無い。今この館はネットワークと完全に隔絶されている。

 まずどう言う方法でロボットを今も操っているのか、

 それを教えてくれるか?」


 ロボットは器用に小首をかしげると、暫し沈黙し。

 そして。


「これを動かしている方法は、仮想空間に意識を飛ばすみたいに、

 このロボットの電脳に私の意識を飛ばして操作を───。」


 成る程。

 電脳空間等の、仮想空間への感覚同調技術の進歩が目覚ましい今。

 それも可能な事だ。

 ただし、正確には人の意識をそのまま飛ばしている訳では無い。

 もしも本当にサイバースペースに人が意識を飛ばしていたら、

 事故でVR機器が外れた瞬間、その人間は意識不明に陥ってしまう。

 だが、実際にVR機器を正しく終了せず、

 不意に外してもそんな事故は起こらない。

 なぜなら、実際には人の精神を

 最適なデジタル信号に置き換えた、コピー体を送り出しているからだ。

 人間はそのコピー体が体験した仮想空間での行動の結果を、

 フィードバックで受け取っているに過ぎない。

 なので不意にVR機器を外しても、

 仮想空間内のコピーからのリンクが切れるだけで、人に大した被害は無い。

 あったとしても、酷い目眩と吐き気程度だろう。

 だが。


「それなら今もロボットが動いている訳は無いはずだが…。

 まさかコピー体では無く直接自分の意識を送る等と。

 危険極まりない事をした訳じゃないんだろう?

 そう出来ないように安全対策は万全だし、

 それをどうにか出来る程の腕と頭があるなら、

 当然やったら不味いと分かる事だしな。」

「………。」

「どうした?急に黙っ…お前まさか!」


 ロボットはツインアイを素早く点滅させている。


「…………。」

「やったのか!お前やったのか!

 いや!例えそうだとしても、安全対策が───」


 その時、天才的頭脳を持つ私は瞬時に理解した。


 安全対策。

 私は仮想世界とVR技術の開発を行っていた時。

 危険を顧みない馬鹿が

 何時か精神をそのまま送るだろうと、当然考え至っていた。

 だから二つの対策を講じた。

 その一つが、精神を送り込める容量規制だ。

 仮想世界に精神をそのまま送り込もうとしても、

 五十パーセント以上は何があっても送れない様に細工をしてある。

 もしもその五十パーセント失ったとしても、人は死なない。

 精神の半分を失うショックから、

 意識不明には成るだろうが、一週間前後で目も覚めるはずだ。

 つまり、何処かに居るハッカーは無事と言えるだろう。


「(問題は残された半分)」


 本来ならば、仮想世界に残された精神もコピー体同様、

 本体とのリンクが切れて暫くすれば霧散する。

 半分しか無い精神は、何れ思考もままならずに消え往く。


「(だが、この状況は不測も不測の事態。)」


 電脳空間側と人間側との精神の比率。

 私が作った電脳。人の精神。人に近い入れ物。

 あらゆる電波、電子を遮断するフィールド。

 自己修復能力を持った機体。

 消えるはずだった五十パーセントの精神は、今何処にある?

 答えは簡単だ。




 この電脳の中には、人の精神が保管されてしまった───

最後までお読み頂き誠にありがとうございます。

今回の物語が貴方様にとって、楽しめる物であったのなら幸いです。

お読みいただいた貴方様に、心からの感謝とお礼を此処に。

誠にありがとうございました。

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