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天才と機械  作者: MRS
3/4

第二話 停止

 ───階段の下には、

 可笑しな体勢で鉄の人形が転がっている。




 長い階段を一人の男が下りて来る。

 男の見た目は黒髪に灰色の瞳。

 チェックのシャツにダックブルーのジャケットを羽織り、

 ローズグレーのスリムパンツ。

 雑誌に載っている、

 カジュアルコーディネートを丸写しした様な装いだ。

 背丈は日本の平均的な成人男性と同じ程度だろう。

 男は階段を下りきると、

 自らが上から転げ落とした鉄の人形へ近付き。

 顎に手を当て、鉄の人形を暫し見下ろす。


「見た限りは傷も破損も無い。

 この高さを転がり落ちて、表面的ダメージは零。

 流石の新素材だ、素晴らしい。

 表面に使う素材はこれで決まりだな。」


 ロボットの表面素材にはかなり悩まされたが、

 これだけの耐久性を見せられては、最早悩む必要も無いな。

 難点があるとするなら、この新素材は入手難度が高い。

 なので、替えの入手が非情に困難と言う事ぐらいだろうか。


「ちょっと、言う事は、それ、だけ、なの?」


 私が新素材の在庫配分を考えていると。

 どっかの現代アート展にでも置いてありそうな、

 可笑しな体勢のロボットから音声が聞こえて来た。

 私は途切れ途切れで喋るロボットに向けて。


「何だ?居たのか?」

「居たに決まってるでしょうが!」


 大きな音声で叫ぶロボット。

 今までの言動から察するにV(バーチャル)R(リアリティ)機器を使っていると思ったのだが、

 あの程度では駄目だったか。

 私は落胆しながら、

 持っていたテーザーガンをズボンと背の間に仕舞う。

 そしてロボットの片足を両手で掴み、

 階段を下りて左右に広がる通路の右側へと、

 ロボットを引きずり歩く。


「ちょちょ何々?

 今度はどうする気?!」


 引きずり始めて直ぐにロボットが騒ぎ出す。

 やれやれ、煩い奴だ。


「分からないのか?

 そのロボットが元々保管されていた部屋へ向っているんだ。」

「あー…そう言われれば見覚えがあるかも?

 いやぁ、起きて直ぐに走り抜けたから、

 此処ら辺を探検する暇がなかったのよ。

 壁の矢印に従ったら直ぐに階段に着いて良かったわ。」


 ロボットは”あれ?でも今見たら…”等と呟いている。

 私は話しながらも、真っ白な通路をロボットを引き摺りながら歩く。


「あれ?何?

 まさか本当に解体する気なの!?」

「解体は冗談だ。」

「何だ、良かっ───」

「分解して原因を探り、再度組み立てるだけだ。」

「一緒じゃない!?」


 解体と分解は違うのだが、

 それの説明を聞く気は無いだろうし、私も説明する気は無い。


「いやぁあああああ!

 放してええええええぇぇぇ!」


 大音量で叫ぶロボット。

 別に分解しても、コイツに害がある訳では無い。

 なのにこの演技か。

 随分と楽しんでるな、コイツは。

 煩く叫ぶロボットを引き摺りながら、

 何とかロボットが元々保管されていた部屋。

 私の個人研究室前へと到着する。するが。

 研究室の自動ドアは、

 左右に引き裂かれるようにして、研究室の入り口に転がっている。


「何で此処のドアは壊れているんだ?」


 言いながら、

 私は引きずっていたロボットを見下ろす。


「こう言う部屋には大抵ロックが掛かってる物でしょ?

 だから無理やりこじ開けたの。」

「内側からならどの部屋も開く設定だぞ。」

「…それは知らなかったから、私に罪はないわ。

 それに緊急事態だったし、そう緊急事態!

 扉が開く一分一秒も惜しい程のね…。

 だから私は無罪。はい終わり。」


 言い終わると、まるで目を閉じるかのように。

 バイザー奥のツインアイカメラの光が消える。


 コイツ。

 叫び疲れてやさぐれたのか、開き直った態度で接してくるな。

 と言うか、隠し扉は壊されていなかったので、

 あの扉が開くの律儀にコイツは待っていた筈だ。

 緊急事態が聞いて呆れる。

 私の独断では間違いなく有罪だが、まあ良い。

 部屋の入り口に転がる、くの字にひしゃげた二枚の扉を踏み越え。

 私は部屋の中へと入る。



 男が部屋へ一歩踏み入れると、白い天井が一斉に発光する。

 天井から降り注ぐ電気の光によって、照らし出された室内。

 廊下と同じ白を基調とした室内には、中央で斜めに立つ寝台が一つ。

 寝台には様々なコードがその背後へと接続されている。

 異様な寝台の他には、

 部屋の左側にデスクとシンプルなキャスター付きの椅子。

 そしてデスクの上には大型のモニターが三枚。

 右側には様々な機材が整然と置かれていた。



「なんか、ザ・研究室って感じね。」


 部屋へ引き摺り入れたロボットが意味不明な事を喋る。

 此処は紛れもない研究室だ。

 私はロボットの話を無視し、

 ロボットを寝台の前まで運び、寝台へ持ち上げられるか試してみる。


「(これは…無理だ!)」


 日本の成人男性よりも遥かに重いロボットを、

 細身な私では到底持ち上げられなかった。


「うっそ、力無いわねー。

 やっぱ科学者タイプは皆非力なの?」


 ロボットが何処か嬉しそうに言う。

 コイツはロボットの重量がどれほどか分かってるのか?

 ダメ元でのトライだったので、私は一度で諦め。

 素直にデスク前の椅子へと腰掛ける。

 シンプルなデザインながら、背を優しく受け止めてくれる。

 少しだけゆっくりしてしまおうか。


「えー?諦めちゃうの?

 もっと頑張れば持てるかも知れないのに!ほらほら!

 早くしないと───私が動き出しちゃうわよ?」


 地面にうつ伏せで倒れたロボットが、妙に強気な訳はそれか。

 良く見れば足や腕が微かに動いている。

 ロボットに搭載された自己修復機能が、

 乱された神経パルスを順調に再調整しているらしい。

 確かにこれは急いだ方が良いな。

 私は椅子に座り直し、デスク上に両手を置く。

 すると、デスクの上には仮想コンソールが緑色の光で輪郭を現す。

 仮想コンソールの出現と同時に、

 三枚のモニターには起動メセージが流れ、見慣れた画面が表示される。


「自由になったら見てなさい。

 まずは階段から───」


 私は仮想コンソールを操作し、

 うつ伏せのロボットへと振り向き。


「揺れるぞ。」

「は?」


 忠告する。

 私は片手で仮想コンソールの決定キーを押す。


「んな!?」


 決定キーを押すと。

 即座に寝台の左右から作業用アームが伸び、

 床に倒れたロボットを乱暴に掴み上げると。

 作業用アームは掴み上げたロボットを勢い良く寝台へ寝かせた。

 寝台からは固定用の器具が現れ、

 寝かされたロボットの手足と首を固定する。

 固定作業が終わったのを確認した私は、

 デスク上の仮想コンソールのボタンを一つタッチする。

 ボタンをタッチすると、デスクの一部がせり上がり、

 中には長方形で薄型のポータブルデバイスが収納されていた。

 私はそれを手に取り、床を軽く蹴っては

 椅子に座ったままで寝台横へと滑る。


「さて、話をしようか。」

「…ハーイ。」


 寝台の上で素直に成ったロボットへ、

 私は質問を始めた。


「まず、君は何者かな?」

「…見ての通りのロボットロボ。」


 コイツは私を馬鹿にしてるのか?


「質問が悪かったか。

 私のロボットを操っている君は、一体何処の誰なのかな?」

「…夢が無いわねー。

 偶然にも自我に目覚めたロボット!

 とか、少しも思わ無い訳?」


 やれやれと言った具合で話すロボット。

 何で私が落胆されているんだ。


「少しも思わないし、夢がどうこう以前の話だ。

 そもそもロボットが自我を持つ為には、

 複雑な自我を保存出来る程の電脳と、高度な初期AIが必要になる。

 君が操っているロボットには電脳は在るが、複雑なAIは搭載してない。

 だから、自我に目覚める何て事は有り得ない。」


 説明を聞いたロボットは”んんー?”

 と、言った呟きを漏らす。


「それに、

 自我を持つ者は自分をコレとは呼ばないさ。」

「あれ?私ってコレを私って言ってなかった?」

「一度も言ってない。」

「あちゃー…。

 まあ良いや、今度から気をつけよーっと。

 それで?命の恩人をこれからどうする気なの?」


 今度?そんな物は無いし、別に命の恩人でも無い。

 彼等は私を殺しに来た訳では無く、捕らえに来たのだから。

 仮に命が目的だったとしても、()()がどうにかした。

 だが、そうだとしても。


「善意で助けに来てくれた事には、

 心から感謝してる。」

「感謝だけー?」


 ロボットは、

 拘束された両手の人差し指と親指をすり合わせている。

 何時の表現だ。


「…御礼が欲しいなら、

 御礼もしよう。」


 貸しとしてずっと持たれるよりは、

 物で精算出来るなら精算して置きたい。


「ほんと!?さっすが!

 気前の良い天才は好きよ。」


 ”ま、欲しい物は決まってるけどね”と呟くロボット。

 御礼ぐらいはするさ。

 こんな良く分からない奴に、

 貸しなど持たせて置きたく無いからな。

 善意には善意で応えてやるのが私の主義でもある。


「ただし。

 御礼が欲しければ、私に直接会いに来る事だ。」

「はい?」

「何処で遠隔操作をしているかは知らないが、

 それは私のロボットだ。

 返してもらうぞ、ハッカー君。」

「それってどう───」


 私は手にしていたデバイスで、館全体のネットワークを遮断した。

 遮断と同時に、ロボットのツインアイから光が消える。


「やれやれ。」


 ロボットの中身が何処の誰かは分からないが。

 此処を見つけ出し、館のネットワークセキュリティを突破出来る程の腕前だ。

 世界有数のハッカーである事は間違いないだろう。


「場所も知られたか?

 何にせよ、暫くネットは使えないな。」


 今の館の状況は、あらゆる電波、

 電子信号が館の中に入らず、また外にも出ない。

 完全な孤立空間と化している。

 遠隔操作で操られていたであろうロボットは当然動かない。

 取り敢えずはロボットを取り返せたし、再度侵入される事も今は無いだろう。

 寝台の上で動かないロボットを残し。

 私は椅子を立ち上がって、部屋の出口へと向かう。

 一歩、また一歩と出口へと歩く。

 そして、部屋を後一歩で出ると言う所で。

 背後から”ガチャン!”っと、何か大きな音がした。

 音の方へと振り返る。


「?!」


 と、同時に何かが私に勢いよくぶつかって来た。

 何かがぶつかった勢いそのままに、

 私は居た部屋を押し出され、背中を通路の壁へと叩き付けられた。


「な、に!」


 私を細い腕で壁へと押さえ付けるソレ。

 ソレは、バイザー奥のツインカメラアイを不気味に光らせ。


「御礼を貰いに来たわよ?

 ハ・カ・セ。」




 動くはずのない鉄の人形は、再び動き出した───

最後までお読み頂きありがとうございます。

この物語が楽しめる物であったのなら、幸いです。

物語を最後まで呼んでくれた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。

誠にありがとうございました。

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