こんな崖っぷちのシーンに転生しなくても
歩きスマホ、ダメ、ゼッタイ。
「巷では悪役令嬢というジャンルが流行っているそうなのだけど」
「そうだね」
私は友人と街を歩きながら、スマホをぽちぽちと操作しています。
小説投稿サイト、「小説家になろう」というサイトです。おや、ブクマしている小説が更新されております。よし、読もう。
「読んだことないんだけど、悪役令嬢とは何?」
私は友人の言葉に驚きました。私にこの「小説家になろう」を教えてくれたのはこの友人なのです。私より遥かにネット小説を読み込んでいる彼女が、悪役令嬢ジャンルを知らないとは。
「基本パターンとしては、『前世でプレイしていた乙女ゲームに転生し、自分の転生先がヒロインをいじめる悪役令嬢キャラとなっていることに気付いた主人公が、未来のバッドエンドを回避するために奔走する』話なのです」
「ほむ」
「乙女ゲームのヒロインであった令嬢A(身分が低いことが多い)、その攻略対象であるヒーローB(当然イケメン)、そして、Bの婚約者である令嬢C。AとBがくっついて、AをいじめまくっていたCは断罪される。その運命に対し、Cが回避を試みる、と」
私めが説明するまでもなく、このジャンルは様々な作品により発展しています。なお、ABCの三角関係が保たれていれば、乙女ゲームの世界が下地になくても、そもそもCに非がなくても、Cは悪役令嬢として呼ばれるようですね。
かくいう私も、結構な数の悪役令嬢・婚約破棄モノを読んでいます。
「ふーん、今度読んでみるかな」
「うん」
さて私が、友人の話に生返事に、早速更新された小説の続きを読もうとしていると――
「バカ、危ない!」
「ふぁ」
踏み出した足は、見事宙を切り。えっ、と思う間もなく、私の体は滑って、重力に従って落ちていきました。
階段から落ちた。そのことを理解するも、体はついていきません。横にいた友人が慌てて私に手を伸ばしましたが、手と意識がスマホでふさがっていた私に、その手を取る反射神経などあるはずもなく、むしろ友人の手は私の背中を押して、階段から落とす勢いを増したに過ぎなかったのでした。
あー。
ゴロゴロと階段を落ちてしたたかに頭をぶつけ、そのまま私の意識は切れました。
★
ミルフィーユ・コンフィチュール公爵令嬢は、ため息をついて、鏡で自分の姿を確認する。
柘榴色のドレスに身を包み、燃えるような赤毛をアップでまとめた、美しい女性がそこに写っていた。ミルフィーユは何度か角度を変え、様々な方向から自分の姿を確認する。少しきつい、アーモンド形の目に、通った鼻筋。美しい顔立ちであったが――ふるふるとミルフィーユは頭を振った。
「やはり、殿下お好みの、ゆるふわ系にはなれなかったわ……」
ミルフィーユは、今日という日のために、自分を磨くために大変努力してきた。だが、その結果はやはり――悪役令嬢というポジジョンでしかなかった。
自分はどうあがこうと、ふわふわーっとした、常に周囲にシャボン玉のエフェクトが飛んでいるような、可愛いヒロインにはなれなかったのだ。
彼女の部屋のドアが、コンコン、とノックされる。入室を許すと、侍女のタルトが、自分を呼ぶ。
「お嬢様、そろそろ舞踏会が始まりますが……」
「――ええ」
緊張で喉がカラカラだった。だが、公爵令嬢としての威厳を保ち、ミルフィーユは背筋を正す。
シナリオ通りであれば、今日、自分は婚約破棄されるはずだ。
ミルフィーユが、前世の記憶を思い出したのは、ちょうど一年前だった。
そしてここが、前世でプレイした『スイーツ・ラブ・ハント』という乙女ゲームであること、自分がその悪役令嬢であることを理解し、青ざめた。
『スイーツ・ラブ・ハント』、以下スイハンは、貴族達の通う学園を舞台とした乙女ゲームである。
スイハンの特徴はボイスの充実度だった。人気声優のイケメンボイスで甘い台詞が大量に囁かれるということから、そこそこの人気を持っており、スイハンのファンとなった女子は『炊飯女子』の名で呼ばれていた。
炊飯女子達の間でも、一番人気があったのが、ここ、シロノワール王国のクッキー王子である。金髪碧眼の、まさしく王子様。そしていい声で囁かれる、大量の甘い言葉。
そしてそのクッキー王子の婚約者であり、ヒロインの障害となるのが、公爵令嬢ミルフィーユなのだ。
前世ではクッキーがお気に入りで、よく攻略していたミルフィーユはすぐに、この世界が、クッキー攻略ルートに入っていることに気が付いて焦る。
スイハンのヒロインであるシフォン男爵令嬢は学園に入学済みであり、数々のイベントを経てクッキー王子に近付いていた。ミルフィーユもまた、公然の婚約者がいるにも関わらず、慎みなく一緒にいるクッキー王子とシフォンに対し、事あるごとに嫌みを言っている――という状態だったのだ。
このままいけば、学園の卒業パーティーの舞踏会にて、身分をかさにシフォンをいじめた罪で婚約破棄され、およびスキャンダルによって家名を汚したことから実家からも追い出され、路頭に迷うのである。
ここが乙女ゲームの世界であろうと、現世のミルフィーユにとっては現実そのものである。自分のためにも、公爵家のためにも、婚約破棄という醜聞は避けたい。ミルフィーユは必死に努力した。
当たり前だが、本来のシナリオではミルフィーユがシフォンに行うはずであった数々の嫌がらせはやめた。第一、前世の記憶を取り戻したミルフィーユは、ゲーム好きなだけの善良な一市民である。洋服に飲み物をぶっかけるだの、持ち物をボロボロにするだの、階段から突き落とすだの、そんな物騒なことはできない。
そして、それまでのミルフィーユがしていた態度を改めた。身分の低い者を見下すのをやめ、誰にでも優しく接するようにした。慈善活動にも精を出した。もともと、貴族至上主義であったミルフィーユの態度の急変に戸惑い、何か企んでいるのだと陰口を叩く者もいた。それでも、今までの態度を改めて、どうにか「平民や下級貴族を見下す嫌な女」だと思われないようにした。
そして――できるだけ、クッキー王子の好みの女性に近付けるよう、努力した。
ミルフィーユは美人である。が、いわゆるカワイイ系ではなかった。
対して、ヒロインであるシフォンは、栗色のふわっふわとした髪でほんわかした、動きも小動物みたいで、守ってあげたくなっちゃうような女子である。
自分には似合わないことを承知で、髪型を変えたり、ドレスの型をふわふわのものに変えたり――侍女のタルトにも相談しながら、ミルフィーユはどうにかクッキーの目をこちらに向けられないかと努力し続けたのだ。
……これだけはどう頑張ってもうまくいかなかったのだが。
「それにしても、殿下は、何をお考えなのでしょう! ミルフィーユ様のエスコートをせずに、あんなはしたない令嬢を伴っているなんて!」
「よしなさい、タルト、誰が聞いているかわかりませんのよ」
侍女をやんわりと窘めつつ、ミルフィーユは一人でパーティー会場へと向かった。エスコートする男性を伴わずに会場に入ってきたミルフィーユ公爵令嬢を見て、周囲の者たちがひそひそと噂をしている。
ダンスの教師をしているエクレア先生(攻略対象の一人。年上属性をカバーする)は、クッキー王子が婚約者のミルフィーユをほったらかしにしていることをよく知っており、自分がエスコートにしようかとも言ってくれたのだが、ミルフィーユはそれを断り、代わりに頼み事をしておいたのだ。
「もし……もし、卒業式のパーティーで、私が身に覚えのない罪で裁かれたら、その時はアリバイの証人になっていただきたいのです」
「どういうことですか、ミルフィーユ嬢? お父上がこの国の宰相であり、公爵令嬢であるあなたに、不確かな嫌疑をかけられるものなどおりますか?」
「……。」
いるのです、王子が。という言葉を、ミルフィーユはどうにか飲み込んだ。
この世界はゲームであり、自分は転生者なので未来が分かります――なんて言ったところで、頭がおかしいと思われるだけである。
ミルフィーユは、シフォンをいじめたりなどしていない。だというのに、シナリオ通りに、シフォンの持ち物がなくなったり、シフォンが階段から落ちたりということが起きたのである。
王子に事情を聞こうとするも、「お前がそれを言うのか! この恥知らずめ!」などと罵倒されるばかり。
ミルフィーユは必死に考えた。もはや王子との関係は修復不可能らしいので、婚約破棄されることは諦めよう。
しかし、身に覚えのない、シフォンいじめの罪で断罪され、家を追い出されることは避けたい。そこで、シフォンの私物がなくなったり、階段から落ちた日時について調べ、それらの間のミルフィーユのアリバイを整理しておいた。
幸い、ミルフィーユは次期王妃としての王妃教育に大変忙しくしていたので、むしろアリバイのない時間が少ないくらいであった。
それらをエクレア先生や友人の令嬢達、さらにはパーティーに列席しているはずの王妃達から証言してもらえれば――。
緊張で速くなる心臓の音を聞きながら、ミルフィーユは、自分が言われるであろう台詞、そして言うべき台詞を頭の中で復唱する。
その時――
「ふん、よくも恥ずかしげもなく、この場に来られたものだな、ミルフィーユ!」
前世では、何度も何度も、甘い言葉を(炊飯女子の皆様に)囁いていたその声が、明らかな敵意をもってミルフィーユに向けられた。
パーティ会場に、シフォン嬢を伴い、クッキー王子が現れた。仲睦まじく寄り添う様子に、ああ、とミルフィーユは胸の痛みを覚える。
「……。」
ミルフィーユは黙って、臣下の礼をする。そんなミルフィーユを、クッキー王子は冷たい目で見下ろす。
「ふん、随分しおらしい態度じゃないか。だが、それでお前の罪が消えることはないぞ。――ミルフィーユ・コンフィチュール! お前のシフォン・キャラメリゼ男爵令嬢への嫌がらせの数々は目に余る!」
ミルフィーユは礼をしながら、唇を噛んでいた。
大丈夫、耐えられる。ここからが勝負なんだから、と言い聞かせながら。
「私、クッキー・シロノワールは、お前との婚約を破棄し、この、シフォン嬢と――……って、あれ? シフォン?」
クッキー王子の言葉が止まった。ミルフィーユも何事かと顔を上げる。
「いえいえいえ! 滅相もない! 結構ですから!」
裏返った声で叫んだのは、他でもないシフォン男爵令嬢だった。
ぽかーんとするクッキー王子、ミルフィーユ、その他関係各位を取り残して、シフォンはパーティ会場を走り去っていった。
★
な、何と言う場面に転生してしまったのでしょうか、私は!
『ミルフィーユ・コンフィチュール! お前のシフォン・キャラメリゼ男爵令嬢への嫌がらせの数々は目に余る! 私、クッキー・シロノワールは、お前との婚約を破棄し、この、シフォン嬢と新たに婚約を結ぶ!』
この台詞を聞いて、私は全ての記憶を思い出しました。
これはまさしく、私が前世で読んでいた、っていうか死ぬ直前まで読んでいた、『激甘の世界に転生して』の小説の世界ではありませんか!
これは、転生者であり、悪役令嬢であるミルフィーユが、婚約者クッキーにつらく当たられようと健気に頑張り、結果として婚約破棄された後、お隣の強国から留学してきたデニッシュ王子から溺愛されて幸せになるという、王道展開の婚約破棄モノ。
で、で、ですが、その世界のヒロインポジション、シフォン嬢に転生してしまうとは!
しかも、こんな、崖っぷちのシーンで!
あのまま婚約破棄が進んでいれば、賢くちゃーんとしたミルフィーユが、自分にかけられた冤罪を見事に晴らし、罪もない令嬢を断罪した頭がお花畑なアホ王子と、そんなすぐばれる嘘で本当に相手を貶められると思ってたんですか? っていうくらいの考えなしの性悪ヒロイン、シフォンは、平民に落とされ僻地で強制労働という未来が待っているのです。
自分が前世の意識に覚醒する前のシフォンの行動を思い起こせば、頭をかきむしりたくなります。身分の高い男性に恥も外聞もなくすりより、仲良くなるだなんて。
階段の下で、怪我一つなく、目をうるうるさせて「ミルフィーユ様に突き落とされたの……」って、そんな訳あるかい!
階段から落ちたって、本当だったら死ぬぜ。というか私は死んだぜ。
っていうか、私もパニックになって走って逃げてきてしまいましたが、この後どうしたらいいんでしょうか。でも、こんな急に破滅寸前に転生したところで、一体どうしたら、どうしたら……。
「シフォン! 一体どこへ行くんだい! 怖がらなくていいんだよ! 僕の胸に飛び込んでおいで!」
「ぎゃーっ! 来ないでください!」
あなたと婚約したって、私には破滅しかないんですから!
しかしまあ、逃げ回ったところで、所詮は女の足。しかもドレスですし。すぐに私はクッキー王子に捕まってしまいます。
「どうしちゃったんだい、シフォン。僕たちは永遠の愛を誓いあった仲じゃないか」
「ひいいいいっ」
愛の言葉って、好きでもない相手に言われると、恐怖しかないんですねー!?
それはシフォンであって私ではないのです、なんて言ったところで伝わるのでしょうか。何しろこの王子、都合のいいことしか聞きませんからね。
鳥肌全開で逃げようとする私と、その腕をしっかりつかむクッキー王子。もがく私達のところに、乙女ゲームの悪役令嬢=この物語のヒロインである、ミルフィーユ様、侍女のタルト、そしてミルフィーユの良き理解者であるエクレア先生がやってきます。
普通なら、令嬢が奇声をあげて逃げ出したところで、ミルフィーユ様のような高位令嬢がやってくるなんてことはありえないんでしょうが、そこがやはり物語の主人公たる所以なんでしょう。
「一体何が……」
私は助かりたい一心でミルフィーユ様に向かって声をあげます。
「助けてください、ミルフィーユ様っ、私、転生者なんですっ!」
「ええっ!?」
「はあ?」
思った通りの反応でした。
この物語の設定上、転生者であるミルフィーユ様は、その言葉の意味を理解して驚いており、クッキー王子を始めとした他の人達は「テンセーシャ?」という顔をしています。
「気が付いたのはつい最近で、気付けばシフォンの中にいたんですっ、でも、物語に逆らえなくて!」
「あ、あなたも炊飯女子だったのね」
「何を言っているんだい、僕の愛しいシフォン?」
私とミルフィーユ様の転生元の世界は違うので、そこはちょっと誤解がありますが、ややこしいのでそういうことにしておきましょう。なお、王子のことはガン無視です。
「そうだったのね……驚いたわ」
「私はちゃんとわかってますからねっ! ミルフィーユ様が私に酷いことをしたわけじゃないんだって!」
「えっ、だって君がそう言ったんじゃ……」
クッキー王子は口をぱくつかせています。
「ありがとう。じゃあ私、断罪されずに済むのね……」
明らかにほっとしたミルフィーユ様。そもそも、断罪のピンチを迎えているのは私ですがね。
「でも、婚約の件については諦めるわ。あれだけの人の前で、婚約破棄を宣言されてしまったんだもの。もうどうしようもないし、殿下もあなたのことを選んだのだから、殿下が幸せになってくれれば――」
健気すぎます、ミルフィーユ様! さすが私が大好きだった主人公です。
きつい顔立ちと本人はお思いでしょうが、結構かわいいですよ。『激甘転生』は書籍化していなかったのですが、こんな形でお顔を見ることができるとは。
しかし、何はともあれ、今は自分の立場です。
「いいえっ、私は、クッキー王子と結婚したくなんてないんですっ」
「えっ」
「えっ」
クッキー王子はよろめいて、私の腕を離してくれました。
「そ、それは……あなたは他のキャラクターを攻略したかったということ?」
「えーと、そういうわけではなく」
他の攻略対象といえば、エクレア先生を除けば、いわゆる王子の取り巻き達です。彼らにもそれぞれ婚約者の令嬢がいますし、バカばっかりですからね。できればくっつきたくはありません。
「私が前世の記憶を取り戻す前は、その、クッキー王子に近付くようなことになってしまいましたが、それは私の意思じゃないんです」
「ええ、まあ、分かるわ、私も一年前まではあなたに酷いことを言っていたものね」
自分の婚約者をたぶらかす女に嫌みを言うことが、酷いことに当たるかどうかはともかく、ミルフィーユ様は頷いてくれました。
「でも私、本当にいらないんですよ、クッキー王子」
あっ、クッキー王子が泡を吹いて倒れて、エクレア先生に介抱されています。
確かに、「あなたに会えてよかった」「王子じゃなくても私はあなたを愛しているわ」なんて囁いてくれた子が、急に掌を返したら、気絶するかもしれません。
しかし、罪のないミルフィーユ様をよく調べもせずに罵倒し、王子の義務を放って女と遊んでいた、頭がスポンジケーキな王子様がどうなろうと知ったことではありません。
「第一、ちゃんとした王妃教育も受けていない男爵令嬢が、王子と結婚するなんて無理がありますし」
「それは……まあ」
「というか、略奪愛って嫌いなんですよ。略奪できるってことは、今の恋人よりもかわいい子が現れたら、コロっと乗り換えるような男ってことじゃないですか」
「……。」
『激甘転生』をはじめとし、私は、一途な溺愛モノの恋愛小説ばかり読んでいました。
何ですか、いいじゃないですか。小説なんだから夢を見たって。
ミルフィーユ様は、ふう、と一つ息をついて、私に向かい合ってくれました。
「ええと、シフォンさん……私、あなたのことを避けていたわ。これから、良かったらお友達になれないかしら? 私、自分が転生者だということを誰にも言えなかったけど、あなたとなら色んな話ができそうだから」
「勿論です!」
★
気絶した王子は医務室へ運ばれ、そして私とミルフィーユ様は仲良くパーティ会場へと戻りました。
私達には好奇の視線が集まりましたが、そもそも、クッキー王子の振舞いは、目に余るものだったようで。
「シフォン男爵令嬢は、身分が低いため、クッキー王子に目を付けられても逆らうことができなかった。しかし恋に狂ったクッキー王子が一方的にシフォンとの婚約を結ぼうとしたため、さすがに慌てて逃走した」ということになっていたため、その噂にまるまる乗っかることにしました。
話を聞いたクッキー王子のお父上である王様と、ミルフィーユ様のお父上であるコンフィチュール公爵は怒り心頭。「そんなバカ息子は王太子にはしておけん、弟のマカロン王子を次の王にする」「そんな男に大事な娘はやれん、婚約などこちらから破棄してくれる」ということになりました。
とにかく、私とミルフィーユ様は被害者ということで、丸く収まりそうです。ふう。
「それにしても、破談になってしまったから、早く婚約者を見つけなければいけないわね……でも、どうしたものかしら」
ミルフィーユ様は、パーティー会場の隅で、踊るカップル達を遠くに見ながら呟きました。
「あっ、大丈夫ですよ、ミルフィーユ様。隣国のデニッシュ王子は、クッキー王子と違って、ちょっとヤンデレ気味ですが一途でいい人ですから」
本当は断罪されているミルフィーユ様を颯爽と助けるはずだったのですが、うやむやになってしまいましたね。まあ、卒業パーティーにはいるはずですから、すぐに会えるでしょう。
青い髪に、鳶色の瞳の、クッキー王子を上回るイケメンだと小説には描写されていました。どんなお顔か、見るのが楽しみです。
「そんなお方と、私が関わる機会があるとも思えないけれど……」
「実は『スイハン』の隠し攻略対象らしいですけどね。ミルフィーユ様は、クッキーエンドしかプレイしてなかったから知らないということになっています」
「隠しキャラ……でも、あなたが私以上に『スイハン』をやりこんでいたとしても、前世の私のことまで知っているのはどうしてなの?」
しまった。余計なことを言ってしまいました。
「いえいえ、それよりも、踊りましょうよ、ミルフィーユ様。こんなきらびやかでゴージャスな世界に転生できたのですから、楽しまなくっては!」
ミルフィーユ様は、笑顔で頷き返してくれました。ええ、物語はハッピーエンドでなくってはね!
いやあ、よかったよかった!
ざまぁ系の悪役令嬢もの、嫌いではありませんが、「これってヒロインの方が悪女……」と思ったので、突発で書いてみました。
一応、執筆時点で、同名のなろう小説タイトル(『激甘転生』)がないことは確認しましたが、万が一重なっていたら、ごめんなさい。