馬車馬の勇者は世界を二度救う
作者の別作品にリクエストがあり、それの連載をもう一度頑張ろうと決意した肩慣らし作品です。
この話限りの短編ですが、連載にしても読めそうな感じに作り上げてます。連載の肩慣らしですのでもしも連載でも読んでみたいと思っていただけると結構自信が付きますから感想お願いします。
ちなみに、ドラクエの新作が7月に発売とのことで以前から考えていた勇者の馬について書き上げてみました。
『グオオオオオオオオオッ!!』
「キャーッ!」
「む、無理よ~!」
「勇者様、助けてー!!」
化け物に襲われて弾き飛ばされていく仲間の声援が勇者の耳に届く。
「クッ、ソ……!」
だが、勇者は勇者で仲間たちに襲いかかっているのと同様の化け物と戦闘中で助けに行く余裕がない。むしろ、こちらを助けろ!と叫んでいるほどだ。
「マズイ……!」
そんな中、比較的余裕のある女騎士が仲間を助けに行こうとするが、それを呼びとめる声がかかる。
「待て!オレを先に助けろ!」
自分たちのリーダーであり、世界を救う役目を担う勇者から発せられた言葉に女騎士は怒りを隠し切れず、怒鳴り返す。
「何を言っている!そんなことをしている間にも彼女たちは死ぬぞっ!!」
女騎士が腹を立てているのは勇者の発言だけでなく、その行動にもだ。
彼が対峙しているのはオーガと呼ばれる図体と腕力以外の取り柄がない魔物で、接近戦で戦わなければどうということはない相手だ。
本来、魔法を使えるはずの勇者ならば大して苦にならないはずなのにこの勇者は勇者である自分こそが一番の大物と戦うべしという心情でいつもいつも無謀にも敵の親玉に戦いを仕掛けて行く。
別にその志は否定しない。
だが、そう思うのならばせめて周りの手下の数を減らしてから、欲を言えば仲間の支援を受けながら戦うべきだ。
それなのに、周りの手下はすべて仲間任せ。その上、自分は大物としか戦いたくないからと親玉に辿り着くまでは一切戦闘をせず、辿り着いたらそれまで援護してくれていた仲間を自分の活躍の邪魔だからと言って追い払う。勇者のために献身して、疲労している仲間をだ。
「うるさい煩い!オレは勇者なんだよ!あいつらが死んでも代わりはいるけど、オレの代わりはいないだろうが!」
挙句の果てにこの発言。
神はなぜこのような男に勇者の称号を与えたのだろうか?
この、ただ初代勇者の血を引いているというだけの男に。
勇者とは、世界で知られる中で最も古く長い家系の血を引く者。
その起源は二千年以上も昔の話。世界を混沌に陥れる存在――魔王の誕生に由来する。
魔物の王とされる魔王の誕生により、各地の魔物の動きが活性化。世界中の人々が恐怖に陥れられ諦めかけた時、神によって選ばれた男が信頼できる仲間と共に魔王を討ち果たす。
そんなどこにでもありそうなありふれた話だが、これは実話である。
役目を終えた勇者は世界中の人々から歓迎された。
だが、勇者は神からの忠告を受け取っていた。
それはいずれ魔王は再び復活するという内容。
それを伝えられた王たちは勇者を取り込もうとしたが、彼は首を縦には振らず、無理やり従わせようとしたものには神が怒りを顕わにした。
以来、勇者は国に捉われない自由な存在でありながら、有事の際に必要な存在としてあり続けた。
初代が死んでからも勇者の力はその血筋を継ぐ者にだけ引き継がれ、次の魔王が現れた時にもかの一族から選ばれし者が立ち上がり世界を救った。
そうした救世を何度も繰り返した一族の末裔が今代の勇者アエロスなのである。
アエロスは前回の勇者シュバルツの玄孫に当たる。
ただし、初代に次ぐと称され今もなお慕われるシュバルツと違い、アエロスは才能に胡坐をかいて努力を怠り、勇者の役割というものを理解していなかった。
また稀代の女好きであるアエロスは女であれば基本的に受け入れ、勇者の特権で我が物にしていく。そんな悪評があろうとも勇者の御手付きになり、もしも勇者の血筋をその身に宿したらどんな犯罪者であろうとも無罪放免な上に各国で厚遇を受けるとあれば誰もが彼にすり寄って行く。
そのため、アエロスの仲間には勇者の権力に群がるようなものが多い。
唯一の例外がアエロス以上に奮闘している女騎士マグノリアだった。
マグノリアは仲間の中で唯一大国の正式な騎士であり、実戦経験も豊富な実力者。
他の少し魔法が使えたり、使えそうだったりなおかつ美人だからと同行を許された娼婦上がりたちとは違い、アエロスに抱かれてもいない。
別にマグノリアも勇者にすり寄る女たちを非難しようとは思っていないが、同時に擁護しようとも思わない。生きるために力ある者に頼り、利用しようとするのは間違ってはいない。だが、世界の命運が懸かっているのだから最低限の実力は持っているべきだとも考える。
それでも一応は仲間である彼女たちを見捨てるのは後味が悪い。
勇者の称号はなぜか一人にしか現れない。
例え、勇者の血を引く者が百人いようと万人いようと勇者と認められるのはただ一人。
そして、公式には現在勇者の血を引いているのはアエロスだけということになっている。だからアエロスの代わりがいないのもわかるが、その言い方はあんまりだろうと感じ、さらには元より勇者に悪感情を抱いているマグノリアはいよいよアエロスを切り捨てるべきかと逡巡する。
「――情けないな」
そんなマグノリアの迷いを断ち切る低い声が耳に届いた。
戦場にあっても、いや、例え世界の裏側にいても聞き逃さないだろうマグノリアが最も頼りにしている人物の声が。
「ハルトライン殿!」
ハルトライン――初代勇者と同じ名を持つこの男性は、いつの頃から勇者たちが危機に瀕するとどこからともなく現れて瞬く間もなく彼らを助ける強者にして英雄の器を持つ男性。
歓喜の叫びを上げて名を呼べば、ハルトラインは造作もないことのように告げる。
「今、助ける」
その言葉のなんと頼もしいことか!
マグノリアは迷いを一切捨て、自分の役割に集中する。
本心としては尊敬する人物、敬愛する人物と一緒に戦いたいが、自分では足を引っ張ることになると理解している彼女はそんな甘えを許せない。
ただ、いつかは――。
そう願う彼女の顔は凛々しい騎士の浮かべる表情ではなく、まるで恋する乙女のようだった。
「……ハァッ、ハァ……」
戦闘が終わった。
ハルトラインが来てからすぐに終わった戦闘の疲労と感じつつ、呼吸を整えるマグノリア。
戦場を見渡してももはやかの英雄の姿はどこにもない。
「……ハルトライン殿」
また礼を言う間もなく去って行って姿に寂しさを感じてただ彼の名を呼ぶマグノリアの呟きが戦場跡に虚しくこぼれ、流される。
◇◆◇◆◇
「――見ていたか!?オレがあのオーガにトドメを刺す勇姿を!」
夜、野営をしながらアエロスは自身の活躍を仲間たちに語る。
ただ、その姿はどう贔屓目に見ても金で女を侍らせているようにしか見えなかった。
酒や食事をするのはアエロスだけ、女たちは酒を注いだり、うっとりと見えるような表情を浮かべてしだれかかったり……とても仲間内の様子には見えない。
それもそのはず、昼間女たちはアエロスに見殺しにされそうになっている。
アエロスはアエロスでそのことには一切触れず、いかに自分が活躍したかしか話さない。その活躍もハルトラインがいなければ危うかったのだが、そんなことにも気付かない。むしろここでハルトラインの名を出せば不興を買い、下手をすれば追い出されかねないので女たちは機嫌を損ねないように心を殺して笑みを張り付けるしかできない。
自分たちの命をかなり軽く見ているアエロスに腹を立てても、そのアエロスに縋らなければ生き残る術がないとわかっているから。
「……鬱陶しい」
そんな自慢話を離れたところで聞いているマグノリアは不快さを隠そうともせず、周囲を警戒していた。
「ハルトライン殿がいなければ今頃どうなっていたかわからないのに……。なんとも呑気な勇者様だ」
皮肉めいたことを言いながら、アエロスのものと比べると貧相な旅仕様の保存用の硬い肉を少しずつ噛み千切っては呑み込んでいく。アエロスの機嫌を損ねないようにと気を遣う結果、路銀は常にかつかつ。誰かが節制しなければすぐにも底を尽いてしまいそうになる。
そのことを理解しているからこそマグノリアは自分が率先して割を食う役目を買って出ていた。
それに気付いていないのはアエロスただ一人。
普段、アエロス以外に配慮をしない女たちも路銀が心許ないことには気付いているので見た目を美しく保つための費用以外は抑えている。美容費用を抑えないのは怠れば追い出されると知っているから。
そして化粧品などをふんだんに使う女たちを見ているからこそアエロスも贅沢をやめないという悪循環が生まれている。
「なあ、お前もそう思うだろう?――シュバルツ?」
マグノリアは旅の仲間で唯一気の許せる相手に話を振る。
突然、話を振られた彼もマグノリアに賛同するように彼女に寄り添い、そして慰めるように頬をすり合わせる。
「ふふっ、ありがとう。お前だけだよそう言ってくれるのは」
微笑みを浮かべて嬉しそうなマグノリアはシュバルツの横顔に軽く口づけをしてまた昼間のこと――正確にはハルトラインのことを思い浮かべる。
「ハルトライン殿……彼は一体何者なのだろう?もしかしたら、本当に初代様が我々を助けに来てくれているのだろうか……」
二千年以上も昔の人間であり、その間には様々な国が興っては消えている。かつて大国と呼ばれた国も魔王の脅威がなくなった後に国同士の争いで消滅した国も多い。
だから初代については各国の伝記のようなものでしか残っていない。
もしかしたら初代は死んでおらず、神の力で今も生きているのでは――?
そんな途方もない話を考えるのには理由がある。
何故ならば、マグノリア自身が神の御業によって甦った人間の一人だったから……。
――彼女は自身の前世を覚えている。
すべてを覚えているわけではなく、自分がどのような生まれであったかどんな思いを抱いていたかという漠然としたもの。
前世の名は忘れたが、マグノリアは母子家庭で生まれ育った。
母はよく笑う強い人で父を愛していると語っていた。
それなのにマグノリアは母からいくら父の話を聞いても抱く感情は憎しみだけだった。
マグノリアは父親を知らなかった。
だって前世の父は勇者だったから。勇者シュバルツそれがマグノリアの前世の父の名だ。
勇者として選ばれ、旅に出てすぐにマリアベルの妊娠に気付いた母は身を引いた。偉業を成し遂げた後の父に不釣り合いだと感じたためだ。
だが、マグノリアは信じていない。
勇者になった父が母を捨てたと考えていた。
そして母が亡くなり、母が死ぬまで会いに来なかった父についていよいよ確信と恨みを抱いた。
勇者を恨んでいる……そんなことを誰かに言えるはずもなく、平凡な人生を終えたマグノリアの前に現れたのはこの世界を司る女神だった。
『――シュバルツの娘よ。貴女は間違っています』
開口一番そう告げた女神はシュバルツが生涯をかけて母を探していたこと、見つけ出せなかったことを悔いて亡くなったことを告げ、勇者を信じて欲しいと願った。
だが、長年のわだかまりがそれで解消するはずもない。
そこで女神はある提案をする。
それは次の勇者が現れる時代に転生し、勇者の旅に同行することで勇者という役目を理解してほしいという願いだった。
不満たらたらだったが、仮にも神の願いであったことから不承不承に承諾したマグノリアはアエロスがいる国の貴族の娘として二度目の生を受け、幼い頃より勇者の旅に同行できるように鍛え上げてきた。
「……やっぱり、勇者なんて最低よ」
そこまでの努力をして出会ったのがアレである。
前世から誰にも洩らさなかった秘密の不満がつい口から出るほどにマグノリアの心はやさぐれていた。
◇◆◇◆◇
――まっずいなぁ……。
マグノリアの『勇者は最低』発言を聞き、一人そんなことを考える者がいた。
その者の名はシュバルツ。
勇者パーティーの旅の安全を守り、どこまでも導く存在。勇者の馬車を引く馬である。
しかし、かの馬の正体を知っている者はこの世界のどこにも存在しない。
元々、初代勇者ハルトラインの時代から勇者を馬車を使って移動していた。
ではその馬はどこから調達したのか?
その答えは、神がハルトラインに与えた、である。
そもそもハルトラインはいかにして初代勇者となったか、なぜその血筋にだけ勇者の称号が受け継がれていくのか?
ハルトラインは人間である。
しかし、神は知っているハルトラインがただの人間ではないことを。
この世界には神を頂点とした生態系が存在した。正確には神は姿を見せないので考えられている。
神から始まり天使や精霊、妖精といったこの世界そのものの分身。その下に等しく人間や獣人、エルフにドワーフなどの智慧を持つ種族が連なる。そして魔王を筆頭とした魔物というのはその中で異常な世界の敵。
そんな中、ハルトラインは人間でありながら、神寄りの人間だった。
人間にしては強靭な肉体を持ち、魔法に対する高い適性も持ちさらには存在自体があやふやなところがあった。幼い頃などはそれを抑えきれずに一週間ほど認識されなくなったりもしたが、不眠不休かつ飲まず食わずでも生き延びた。
世界を見ている神はハルトラインを見て、彼に恋をした。
だからこそ、彼に世界を救う栄誉を与えようとして授けたのが勇者の称号だった。
ただ、彼一人だけでは魔王を倒すまでに至れない。
せめて魔王の下まで辿り着けるだけの移動手段がなければならない。
それが勇者の馬。
女神のペットとして育ったその馬は魔物の脅威にも怯まず、マグマや毒沼であろうとも臆することなく勇者を運びハルトラインを無事、魔王まで送り届けた。
さて、そんな馬だが……魔王を倒した後にあっさりと死んだ。
いや、別に大したことがあったわけではない。
魔王の旅に同行して無傷で帰ってくるような凄い恩恵を授かっている馬だから利用しようと考えた国があってもおかしくないだろう?
しかも勇者については神直々に手を出すなと言われているので、どうしても欲しくなったのだ。
でもそんなに凄い馬が簡単に捕まるわけもなく、……世界を3周ほどしたところで寿命が尽きた。
話は変わるが、二代目以降にも勇者の馬は神から与えられている。
その馬というのは実は先代の勇者なのである。
話は初代勇者ハルトラインが亡くなった直後に飛ぶ。ハルトラインを愛する女神は彼に世界を救った功績として望みを叶えることを申し出た。
ハルトラインは普通の人間として、普通の人間よりは少しだけ長生きで数奇な人生を終えた。
ハルトラインにとっては幸せで彼の愛する家族がいる人生を。
だが、女神はこう考えた。
亡くなった後ならば自分を愛してくれるのではないか、と。
しかし、ハルトラインから返って来たのは予想外の答えだった。
『僕たちの旅を支えてくれた馬のようになりたい』
ハルトラインは魔王討伐の旅を無事に終えることが出来たのは最後まで付いて来てくれた仲間たちのおかげだと考え、その中で唯一恩返しができなかった馬のことを考えていた。
また、魔王がいつか復活するのならその時に自分の子孫が困らないようにしたいのだと。
それを女神は受け入れた。
馬になっている間は前世の記憶がある。また、魔王が現れるまでは自分の傍にいてくれるから。
そして、女神は二代目以降の勇者にも馬として活動することを要請した。
中には渋る者もいたが、初代から続いていると言われれば断るわけにはいかない。彼らは世界を救った勇者なのだから世界を救う役目の大切さは誰よりも理解していた。
馬車馬シュバルツの正体はは先代の勇者シュバルツなのである。
ちなみに、馬の名前は先代の勇者の名前を付けるのが習わしなので同名なのは偶然ではない。
……つまり、本人たちは知らないがシュバルツとマグノリアは今、親子水入らずの時間を過ごしていた。
そして、なんと……ハルトラインの正体もシュバルツである!
もちろん、初代と同一人物ではない。単純に初代勇者の名前が有名で世界的にも多い名前だからそう名乗っているだけ。本来は名乗ることなく、こっそり隠れて助けるつもりだったのにうっかりマグノリアに見つかってしまい名乗ららずを得なかった。
だが、なぜそんなことをしたのか?
まあ単純に退屈だったからとあまりにもアエロスが不甲斐なくて見ていられなかったからだ。
そもそも勇者の馬車馬の役割は何かというと、危険地帯にも恐れずに踏み込んでいく、戦闘が始まったら即座にその場を離れること。
馬とはいっても、元勇者。実力は折り紙つき。当然、そこらの魔物にやられるわけもなく、むしろ本気になったら大抵の魔物が逃げ出してしまう。
勇者たちは基本的に寝ずの番を立てているが、そんなことをしなくてもシュバルツがいるだけで恐れをなして寄ってこない。
そこで気配を消して玄孫の戦闘を見ていてシュバルツは憤った。
――弱い!弱すぎるぞ!!
シュバルツならば成人前であっても、またかつて共に魔王を倒した仲間ならば確実に今のアエロス以上に強かった。
実はシュバルツ自身も知らないことだが、元勇者たちは自分の子孫との冒険では少し張り切り過ぎて彼らの成長を妨げていた。特に張り切っていたのがハルトラインで、弊害を被ったのが二代目である。
ハルトラインほどに強い馬はいなかったのでそれ三代目からはまあまあ強くなっていたのだが、その中でもシュバルツは異常なほどに強かった。
ハルトラインが好き過ぎた女神が彼に次ぐと言っているのだから相当である。
そして、馬になってからも常識はずれな強さは変わらず、むしろ人間を辞めたことで踏ん切りがついたのかさらに強さに磨きがかかっていた。
ついには居ても立ってもいられず、人化の術を開発して戦闘に参加し始めた。
これには神も黙っていないかと思ったが、ハルトラインの子孫の中で最も下品で本当に彼の血を引いているのか怪しいアエロスを女神は嫌った。
その上、せっかくマグノリアに勇者は凄いんだと伝えたくて転生させたのにこれでは逆効果じゃないかと焦りを覚え、むしろ積極的に介入するように指示を出している。
もはや勇者を見直させることは諦めて、旅の過酷さだけでも理解させよう作戦!
ついでに父親とは知らずに接することで関係が上手くいかないかなとかも考えている。
一方、女神の思惑とは別にシュバルツもまたある考えを持っていた。
シュバルツから見て、この場合は馬目線でということだが……アエロスは女性が傍にいるとダメになるタイプだと考えていた。
だから、度々人化してアエロスのハーレムを自分が奪う。
そうすればアエロスは勇者として立派に務めを果たすのではないかと考えていた。
取っ掛りとして最初から良い感情を持っていなさそうで、利用しようとも考えてなさそうなマリアベルに近寄ったのだが……思った以上に印象が悪過ぎてマグノリアがメンバーから外れそうになっている。
マリアベルが抜ければ才能だけで凌いでいるアエロスも彼に引っ付いているだけのメンバーも死んでしまう。そうなるともはや自分が出て行くしかなくなるが、さすがに勇者の仕事を奪うのはマズイということにようやく思い至った。
なんとかしてマグノリアを残らせなくては……!
――幸い、人化した姿のオレに好意的だからなんとか説得して……あぁ!クソッ、なんで一度救った世界をこんな姿になっても助けなきゃならんのだ!
「……?どうかしたのシュバルツ?」
突如ブルルと嘶いたことでマグノリアを不安がらせてしまったが、彼女の優しい接し方のおかげで少し心が洗われる気がしていた。
――う~ん……、この子といるとなぜか落ち着くぅ。
知らず知らずのうちに前世の思い人と娘を重ねる父は馬としてまた先達として誰も死なないように自分がなんとかしなくてはと決意を新たにするのだった。
※主要人物の紹介と今後の主人公たちの身の振り(設定的な予定)
シュバルツ:主人公(馬)
勇者一族であり、かつて世界を救った男。先祖代々の役目により、子孫であり今代の勇者を支えるべく馬へと転生を果たした。生前は困っている人を放っておけない熱血漢――と語られている。実態は、大切な者以外はどうでもいい冷血漢であり、1を守るのも100を守るのも大差ないという理由から助けていただけ。前世でステータスをほぼ最強に近くなっている(気合を入れればドラゴンでさえ尻尾を巻くるほど)。アエロスの軟弱さに頭を痛めており、ハーレム奪還を企む。生前の力が強すぎたために女神の術を破り、人化を覚える。
唯一この体になってよかったことはどこがとは言わないが巨大化(文字通り馬並み)になったこと。
アエロス
今代の勇者。シュバルツの玄孫にあたる。女好きで、手当たり次第。実力は才能に胡坐をかいているので本当の実力者には遠く及ばない(シュバルツ曰く、かつての仲間ならば誰一人後れを取ることがなく、自分だったら成人前に倒せていた)。一応勇者の資格はあるのだが、本人は旅に出るまで(正確には旅に出てからも)、勇者なんて古い伝説やしきたりだろうと思っていたので真剣みがない。ハーレムを形成することが好きで、行く先々で手を出しては騒動に発展することもある。
容姿ではマグノリアが好みだが、性格が苦手なので旅が終わった際には褒美として愛人にしようと考えている。女神は彼を初代の恥さらし、自分が愛した男の子孫にこんな屑が出るなんてなど散々な言いをしている。そのため、シュバルツの行動を黙認している。
マグノリア
勇者一行の良心。正義の騎士。転生者であり、記憶持ち。
前世はシュバルツの幼馴染との間に出来た娘。彼の足を引っ張らないように身を引いた(旅が終われば自分のことは忘れるだろうし、より良い人が現れるだろうと考え)が、シュバルツは家族を持っても探していた。母からは素晴らしい人だったと父のことを聞いていたが、身を引いたというのは嘘で本当は英雄になって捨てられたのだと考えている。その誤解を解くために女神が転生させた。
アエロスのことは心底嫌っており、彼から離れるようにシュバルツと共にいることが多い(シュバルツの名を知った時は内心で少し複雑だった)。シュバルツの傍にいると落ち着くし、相談に乗ってもらう。生まれは貴族で剣の腕前はアエロスを遥かに凌ぐ。シュバルツが人化を覚えた姿ハルトラインに好意的で正体を知ってからはファザコンも相まって嫉妬深くなっている。
今後はシュバルツの一番の障害になる予定。




