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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怖いひとたち

はじめてのおつかい in 異世界

作者: 鈴本耕太郎

 今回はじめてのおつかいに挑戦するのは、タローくん三歳。狼族の男の子。

 場所は魔王様のお城が良く見える、第三区画にある商店街です。


「ねぇタロー、ハンバーグ用のお肉買ってきてくれる?」

「うん!」

 お母さんのお願いに元気いっぱいに頷いたタローくん。

 フサフサのしっぽをぶんぶん振っていて、とってもご機嫌のようです。おつかいを頼まれた事が嬉しいのかな?


「行ってくれるのね。ありがとう。じゃあ、いつも一緒に行くお肉屋さんで、このメモを見せてね」

「うん!」

「ホントにわかった?」

「うん!わかった!」

 タローくん本当にわかったのかな?

 お母さんはとっても心配そうだけど、タローくんは自信満々です。

 ここはタローくんを信じましょう。

「気を付けて行ってきてね」

「うん、いってきまーす!」

 メモとお金が入った、がま口の財布を首からかけて貰ったタローくん。

 お母さんに手を振って、はじめてのおつかいに出発です。


 さて、目的地はタロー君のおうちから、およそ三百メートルの所にあるお肉屋さん。

 ちゃんとおつかいできるかな?


 家を出たタロー君、さっそく元気いっぱいに走り出しました。

 さすが狼族。三歳とは思えない程の脚力です。

 でもこんな細い道で、そんなに思いっきり走って大丈夫かな?

 あー、あぶない!

 脇道から出て来た狸族のお婆さんとぶつかりそうに。なんとか避けたタローくんですが、勢い余って転んでしまいました。

「あらら、大丈夫?」

 お婆さんが心配そうに声をかけてくれました。

 タローくんは自分の力で起き上がりましたが、目には涙がいっぱい溜まっています。どうやら足をちょこっと擦り剥いてしまったようです。

 でもタローくん、必死で涙を堪えてお婆さんに頷きます。

「だいじょうぶ」

 うん、えらいぞタローくん。

 将来はお父さんみたいな立派な兵士になるのが夢だそうです。転んだくらいじゃ泣きません。

 心配してくれたお婆さんに手を振って、再びお肉屋さんに出発です。


 少し歩くと目的地が見えてきました。

 ナイフとフォークを持ったオーク族が描かれた看板が目印です。

 タローくんは一直線にお肉屋さんに……。

 って、タローくんそっちは違うよ。

 お肉屋さんの前を素通りして二軒隣のおもちゃ屋さんにやってきました。

 タローくんは目をキラキラさせて、ドラゴンのぬいぐるみを見つめています。

「ドラゴンが好きなのかい?」

 突然聞こえた渋い声に、ビクリとしたタローくん。いつの間にか、しっぽを足の間に挟んでいます。

 辺りを見回しますが、声の主が見つかりません。

 キョロキョロとしていると再び声が聞こえました。

「ここだよ。ここ」

 声の方を向けば、骸骨が手を振っています。


 いやー、驚きました。雑多に並んだおもちゃの一つかと思ったら、スケルトンの店員さんだったんですね。

 始めは驚いていたタローくんも、正体が分かってゲラゲラと笑っています。

 その後はスケルトンの店員さんと、ドラゴンについて熱く語っていましたが、どうやら満足したようです。元気いっぱいに手を振っておもちゃ屋さんを後にしました。


 さあ、今度こそお肉屋さんに向かわなきゃね。

 あれれ?言ったそばから、お肉屋さんを素通りしちゃいました。

 おーい、タローくん。今度はどこ行くのかなー?

 おっと、突然立ち止ったタローくん。お母さんに首にかけて貰った、がま口のお財布を見つめます。

 あー良かった、目的を思い出したみたいだね。


 ついにお肉屋さんにやってきました。

「こんにちはー」

 大きな声で店員さんを呼びます。

「おお、こんにちは。あれ?お母さんは?」

 出て来たのは、とっても大きなオーク族のおじさん。見た目に反して、声はとっても優しそうです。 

「ひとりできたの」

「一人で?おつかいに来たの?」

「うん!」

「そうか、えらいね」

「うん!ドラゴンのお肉買いに来た」

 自信満々に胸を張ってますが、間違ってます。

 おもちゃ屋さんでドラゴンの人形を見たから、こんがらがっちゃったのかな?

「ドラゴンかー。高いけど、お金は大丈夫?」

 おじさんに言われてお財布からお金を出すタローくん。

 そこで気付いたみたいです。

「これ!」

 お金と一緒にお母さんに渡されたメモを渡します。

 それを見たおじさんは苦笑い。

 だって書かれているのは特売品の挽き肉ですから。ドラゴン肉とはケタが二つ違います。

「はい、どうぞ。ドラゴンじゃないけど、サービスしといたからね」

「ありがとう!」

 元気いっぱいに応えるタローくん。

 どうやらドラゴンじゃなくても良かったみたいです。


 さぁ、無事に買い物が出来たタローくん。後はおうちに帰るだけです。

 自分で買ったお肉を持って、ご機嫌に歌を歌います。

 帰り道は順調そのもの。まっすぐにおうちに帰ってきました。

 おや?おうちの前ではお母さんが手を振っています。それを見つけたタローくん。元気いっぱいに駆け出しました。

 今度は転ばないようにね。

 おっと、いきなり躓いちゃいました。

 お母さんが慌てて駆け寄りますが、なんとか転ばずに済んだようで、ホッと一安心。


 タローくんは、おつかいでの出来事をお母さんに自慢げに語っています。

 足に出来た擦り傷も今は立派な勲章だよね。


 無事におつかい終了です。


 夜になってお父さんが帰って来ると、タローくんは走って玄関に向かい、勢いよく飛びつきました。

「おかえりー!ねぇねぇ聞いて聞いて」

「ただいま。どうしたんだい?」

「今日、ぼくがお肉買ってきたんだよ」

「そうか、タローはえらいな」

 お父さんに頭を撫でて貰ったタローくん。ブンブンとしっぽを振ってご満悦です。


 お父さんと仲良くお風呂に入ったら、待ちに待った夕食の時間です。

「いただきまーす」

 さっそくタローくんが、ハンバーグを口に運びます。

「おいしい?」

「うん!ドラゴンのお肉おいしい!」

 自分で買ってきたお肉の味はひとしおでしょう。でもタローくん、間違ってます。お肉屋さんで言われた事、分かってなかったみたい。

 これにはお父さんもお母さんも苦笑い。

「残念だけどこれはドラゴンじゃないよ」

 お父さんの言葉に、タローくんが首を傾げます。

「じゃあこれは何のお肉なの?」

「これはニホンジンってお肉よ」

 とお母さん。

 そうそう、ハンバーグと言ったらニホンジン肉が定番ですよね。

 昔、人間との戦争に勝って、手に入れた勇者召喚の魔法陣。

 その技術を解明できた事で、いつでも新鮮な人間が食べられるようになりました。

「へー。ぼくニホンジン大好き!」

 そう言って、おいしそうにハンバーグを頬張るタローくんを見ていたら、なんだか私もハンバーグが食べたくなってきました。

 ハンバーグと言ったら、今も昔もお袋の味。

 みなさんも食べたくなってきましたよね?


 おや?

 いつの間にかタローくんは、おねむのようです。

 手にはフォークを握り締めて、お口はもぐもぐと動いていますが、こくりこくりと頭が揺れています。

 どうやらエネルギーが切れてしまったようです。

 今日は大冒険だったもんね。

 そんなタローくんをご両親が優しく抱き上げて部屋へと運びます。

 歯磨きしてないけど、一日くらいなら大丈夫だよね。

 きっと夢の中では、今もハンバーグを食べている事でしょう。


 タローくん、おつかれさま。








 

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々なところで日本人が大量召喚されてますからね これも十分ありでしょう 作者様の全作品読ませて頂きました いくつもの楽しめる作品をありがとうございます 今後も頑張ってください
[良い点] ナレーター形式→会話文。 「最初から最後まで、作者さんにペースを握られていたのだな」という良い意味の悔しさを読了後に味わえました。 [一言] 異世界ものが腐るほど出回るこのサイト。オチにパ…
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