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第八章:剣士と刺客

旅の剣士と出会い、彼から居合の手解きを受け始めてから早数日が経過したが、旅は続いており剣士を混ぜて10日で辿り着く予定だった場所まで・・・・後1日から2日という地点まで辿り着く事が出来た。


その間も休み休みだが剣士は言葉通り・・・・エリナ達に己が知る術と理を教えてくれた。


いや、教えた上で会得できるように稽古もしてくれたが・・・・その稽古は苛烈を極めた。


何せ就寝している時・・・・食事をしている時・・・・用を足している時・・・・漆黒の夜・・・・とにかく場所も時間も選ばない攻撃を加えたのである。


もっとも腕に覚えがあり、そして剣術を学んだ身である狗奴達は何とか出来る感じだった。


剣術を全く会得していないフィルだって長年の経験で切り抜けたのだからな。


しかしエリナは違う。


何せエリナは剣を取って日が浅く、経験なんて想像に容易い。


そこを剣士も知っている筈だが、彼の剣士はエリナを執拗に襲い続けた。


もちろんエリナも迎撃しようと試みたが経験の差は歴然である為・・・・全て敗北の2文字で終わった。


だが、それが良かったと言える。


下手に自信をつけさせるよりは完膚なきまで叩きのめし、何処がいけなかったのか指摘する。


そうすれば相手は反省し、そこを次は活かそうとするのだからな。


とはいえ・・・・これが出来るのは太陽が照り輝く「光と表」の世界だけだ。


若しくは決められたルールの下で行う「試合」のみ。


それ等とは対照的な世界では・・・・・・・・


そう、血と泥に塗れ光なんて入って来ないであろう「暗黒と裏」の世界では次なんて無い。


一度でも失敗すれば待っているのは・・・・死のみ。


剣術も居合もそうだ。


身を護り立身出世の糧にする理由で生まれた術だが、その腕が本当に求められて発揮できるのは・・・・そういう世界しか存在しない。


そんな世界にエリナは片足---指先を入れ始めたのだ。


ならば・・・・今の内に深く入り切らない内に出そうと剣士は考えたのかもしれない。


それともエリナを本当に・・・・強くする為か?


どちらも剣士の性格からして在り得ると狗奴は思った。


ところがエリナの本心は違う。


彼女は何が何でも居合を物にして更なる高みへ登る気だった。


理由は簡単だ。


彼女は・・・・反逆者として死んだ義兄であるリカルド・ウェスビー第一王子の願いを叶えようとしている。


彼の反逆者が願ったのは「地方へ灯火を掲げる」事である。


この灯火とは中央の眼を地方にも向けさせる事だ。


何せ地方は初代国王フォン・ベルトの子息---2代目国王フォーエムが併合して築いた。


つまり最初は敵だった。


その過去は、今も尾を引いており何かと中央は地方を蔑んでいる。


一番最近にして酷い例は、エリナの父親に当たるサルバーナ王国第32代目国王のガルバーだろう。


このガルバーは王族の出ではなく、婿養子として入った身であるから王位継承権は無い。


そして本来なら政治的な面でも権限は大きく限定されているのだが、エリナの祖父母に当たる第31代目国王夫妻が・・・・権限を与えたのが過ちだ。


彼の夫妻が生きていた時は良かったが、崩御した途端にガルバーは自身の権限を拡大させて妻であり正当継承者に当たるサラを蔑ろにした。


おまけに地方へ来たと思えば重税は敷くし、乱暴狼藉は当たり前で中央貴族と共に蛇笏の如くに嫌われた。


それは狗奴の主人であるブロウベ・ヴァルディシュ辺境子爵も同じである。


酒の席で彼の子爵はガルバーをこう評した。


『あんな婿を入れる辺り・・・・やはりセシール様は、御人好し過ぎる。夫のアヒム様も同格だ。恐らく娘であるサラ様も同じだろうな』


ただ自分の身を嘆いて何の行動も起こさず、そして奸臣共に良いように弄ばれて食い物にされるだろう・・・・・・・・


この言葉を聞いて狗奴は内乱が起こったのは自明の理と結論付けたが、子爵はエリナに対しては・・・・こう評した。


『狗奴、俺ぁ・・・・ハッキリ言ってサラ様には忠誠心の欠片も無ねぇ。如何に女の身だろうと王位継承権はサラ様にある。それなのに嘆くばかりの女に誰が仕えるかよ』


しかしエリナ・ルシアン---エリーナ・ロクシャーナは違う。


『エリーナ様の為ならエヌ・ブラウザ同様に俺は命なんて惜しく無ねぇ。あの方がリカルド様の志を引き継ぐなら全力で応援し、そして力を貸すつもりだ。あの方こそ・・・・レイウィス女王の生まれ変わりだ』


そうブロウベ・ヴァルディシュ辺境子爵は言った。


そしてエリナも・・・・リカルド王子の志を引き継ぎ、王族としての責任を全うする為に強くなろうとしている。


この気持ちがエリナを支え、そして動かしているのだ。


誰にも彼女を止める事は・・・・出来ない。


それを剣士は理解したからこそ・・・・彼女を鍛え・・・・そして無意味であるが、光の世界へ戻そうと試みたのだろう。


結果は剣士を始めとした者達から言わせれば無惨であるが、狗奴の眼には僅かな日で成長を遂げるエリナを・・・・我が子のように見つめているようにも見えた。


もっとも自分にも時節だが見せていると狗奴は思っていた。


今もそうだ。


目の前に剣士は立って鯉口を切ろうとしている。


対して狗奴は座した状態だ。


明らかに座っている所を襲い掛かる場面だが・・・・対応は可能だ。


「きぇいっ!!」


掛け声と共に剣士は鯉口を切って上段から振り下ろした。


それを狗奴は座した状態から長刀を抜刀する。


正中線をずらし、体捌きで抜刀した長刀で襲い掛かる白刃を鎬で受け捌く。


剣士の白刃は鎬で捌かれ逸れた。


ここで狗奴は身体を捻って片膝を立てると剣士の脇腹を袈裟に斬ってみせる・・・・ところで白刃を停止させる。


「・・・・見事です」


剣士は残心を取った後に鞘へ納め狗奴を称賛した。


「短期間で座業を物にしましたね」


「貴方の教えが良いからですよ」


狗奴も残心を取り長刀を鞘に納めながら剣士を称賛する。


「そう言ってもらえると助かりますが・・・・エリナ殿には複雑な気持ちです」


「・・・・・・・・」


剣士の眼が少し離れた場所で居合の稽古を行うエリナに注がれ狗奴も釣られて見る。


エリナは一人で稽古をしていたが、何かを見たのか・・・・半身になりつつ木刀を抜刀した。


120cmもある刃長を誇るのに・・・・以前より明らかに速くて滑らかな抜刀である。


抜刀された木刀は一文字に横へ払われると斜め下へ行き・・・・逆袈裟に斬り上げられた。


その動きに無駄はない。


起こりも小さく的確に鎧の隙間を狙っていた。


あれが剣を取って日が浅い小娘の動きか?


いや、違う・・・・・・・・


あれは、まるで・・・・・・・・


「・・・・しれないな」


ふと剣士が何か言ったが風によって掻き消されてしまった。


それを狗奴は訊こうとしたが、剣士は少し一人になると言って立ち去ってしまい・・・・その日は戻って来なかった。


これにエリナ達は心配になったが翌日には何事もなかったように戻って来て、再びエリナ達に手解きしてくれたので何でもなかったと当初は思った。


しかし、それから更に数日が経過して旅立つ時に・・・・剣士は言った。


『エリナ殿、貴女に教える事は全て教えました。ですが、私にはやり残した事が一つあります』


それを旅装束に包んだ剣士は言い、エリナは何かと尋ねたが次の言葉を聞いた途端・・・・誰もが目を見張った。


いや、エリナ、ティナ、エスペランザーの3人のみで狗奴を始めとした者達は・・・・ある程度は悟っていた。


『私は、貴女様を殺すように依頼されたのです。よって貴女様の御命を頂きたく思いますが、貴女を殺す前に・・・・狗奴殿と戦わせてもらいたいのです』


そう剣士は言い、当惑するエリナを後ろに下がらせて狗奴は前に出たのである。


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