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第一章:狗と狩猟へ

今物語は私視点となりますので御了承ください。

王室が治める天領を代わって治めている小角のブロウズの土地を後にしたエリナ・ルシアン一行は、黙々と道を進んでいた。


「次の土地に着くまでは10日前後でしょうか?」


前後に人を挟みながら一行の主人とも言える娘が問いを投げる。


年齢は10代半ば位だが、金糸の長髪と青い瞳に加えて白い肌は生きた人形の如き美しさがあった。


ただし、男物の旅衣装に40cm前後の短刀と・・・・120cm前後の本赤樫の木刀が異様である。


ここに加えて手にも90cm前後の棒が握られており更に異様さを増すが、それを娘は宝物のみたいに大事そうにしているから・・・・不思議だ。


しかし娘にとっては出会った人々との触れあった思い出が詰まっているから宝物なのだろう。


娘の名はエリナ・ルシアンと言い、サルバーナ王国の王都ヴァエリエから遥々義兄の墓参りの為に旅をしている孝行娘である。


「そうですね、だいたい10日前後です」


エリナの問いに答えたのは左側を歩く数歳ほど年上の娘だった。


こちらは薄紫と淡い銀色の髪に琥珀色の瞳が特徴で、40cm前後の中脇差に矢筒と複合弓を装備している。


「エスペランザー。ここから10日前後の土地だと・・・・御兄様の領土まで1ヶ月を切りましたか」


「左様です。もう間もなく到着しますわ」


エスペランザーと呼ばれた清楚そうな娘はエリナの問いに答えるが、エリナは「そうですか」と頷いた。


「・・・・心の準備が、まだ出来ませんか?」


右に立つエスペランザーと同じ位の年齢の娘がエリナに問い掛けた。


こちらの娘は桃色だった髪を染めたのかは不明だが、僅かに赤みが掛かった髪を真後ろで結い、緑色の双眸は勝ち気そうな色を宿しつつ何処か冷静な雰囲気も宿していた。


腰には70cm前後の大刀と40cm前後の小刀を差し、籠手などを見に着けている辺り・・・・剣士なのだろう。


「・・・・私も御兄様を追い詰めた“加害者”ですからね」


「エリナ様、それは違います。貴女様は知らなかっただけです」


それに貴女の義兄が追いやられた時、貴女は何歳でしたか?


「まだ、たった3歳でした・・・・あの時もそうでしたが、如何に自分が無力な存在か思い知らされました」


義兄が父親に追い出される中で泣きながら止め、母にも助けを求めたが無駄な努力だった。


「父は私を平手打ちし、壁に追い遣ると御兄様を追い出したんです」


母も止める事は出来ず・・・・ただ自分を抱き締め慰めるだけだった。


「あの時から死ぬ間際まで会いませんでした・・・・手紙を出す機会すらあったのに」


「ですが、それだって奴等に握り潰されたと思います」


「それでも・・・・それでも行動には移れました」


しかし、自分は行動に移れなかった。


「・・・・だからこそ私は強くなりたいんです。そして御兄様の墓前で誓うのです」


必ず地方に灯火をしてみせると・・・・・・・・


「その為にも強くならなくてはなりません。ですからティナ。貴女にも色々と力を借りる事が多くなります」


「この上ない名誉な事です。大丈夫です。私もエスペランザーも貴女様の傍から離れたりしません」


「うむうむ。良い女子の友情だな」


「確かに。女子の友情ほど脆い物は無いとも言うが・・・・やはり清らかじゃて」


「本当に見ている儂等も心が洗われるようだ」


「たくっ。爺様達は若い頃は大層・・・・女に困らなかったんだな?」


そんな気の利いた皮肉と称賛を合わせた言葉を言う辺り・・・・・


エリナ、ティナ、エスペランザーの背後に居る3人の老人と1人の男が会話をした。


3人の老人は全員が還暦を越えており、如何にも旅慣れした感じである。


口に木の串を銜えた男の方も同じだった。


男の年齢は20代後半から30代前半で、乱暴に「刈った」であろう黒髪と紺色の双眸が特徴であった。


装備は70cm前後の大刀と40cm前後の鉈を所持している。


しかし鉈が小刀代わりな辺り・・・・かなり旅慣れており、それでいて斬った張ったの刃傷喧嘩にも慣れているのだろう。


この男の名はフィルと言い、別名を「泥んこフィル」とも言い「その筋」では名の知られた無宿人である。


そして老人達は名こそ不明だが「男娼」、「医者」、「古着屋」で、この4人はエリナの従者でなく旅仲間だ。


どうして今も付き合うように居るのかは不明だが・・・・エリナにとっては掛け替えのない「家族」である事に変わりはない。


無論それは前を歩く2人も・・・・・・・・


「・・・・我が主、今夜は早めに野宿した方が宜しいと思われます」


前を歩いていた2人の内1人が身体をエリナに向け片膝をつき進言した。


その男は全身を黒一色で統一しており、些か猫背だが長身であったが雰囲気が如何にも・・・・常人ではない。


明らかに人に害なす禍々しい存在と言える気だったが、容姿も常人とは少し違う。


先ず肌の色が白い。


エリナも白いが男の場合は全身を黒一色で統一している為か・・・・病気的なまでに白く見えた。


切れ長で濃い紫色の双眸も・・・・何処か妖しくて底が見えないから見つめ続ければ引き摺り込まれそうな感じもする。


ただし、これは常人が見たらの印象であり剣を握る者が見れば一目で剣を抜いて、男を斬って捨てる所だろう。


何せ・・・・男を見れば一体どれだけの人間を手に掛けたのか、剣士なら解るからだ。


ところがエリナは男を見ても怯えたりしない。


「ここで野宿・・・・理由は、何ですか?」


私の従者---ハイズ・フォン・ブルア。


エリナに名を呼ばれた男---ハイズは顔を上げて答えた。


「ハッ。ここから10日前後の距離となれば今の内に休むべきです。貴女様はブロウズの地で傷を負いました」


完治こそしたが・・・・・・・・


「まだ安静にするのが良いと私は思っております」


「そうでしょうね。私を背負うと言った貴方を説得するのには苦労しましたから」


「御意に・・・・」


ハイズはエリナの軽い皮肉に眉一つ動かさず頭を垂れるが、これを何も知らぬ第三者が見れば何時エリナがハイズに殺されないか気が気でないだろう。


だが、旅をしていた者達から見れば聞き分けのない子供と、それを諭す母親の構図だったから面白い。


「解りました。今夜は、ここで野宿しましょう。それで良いですか?」


エリナは背後に居る旅仲間の4人に問い掛ける。


「それが良い」


「忠犬の言う通り、ここは焦らず行こうではないか」


「それに腹も減ったからのう」


「っても・・・・飯を調達しないと次の土地まで厳しいかもよ?」


3人の老人が同意するのに対しフィルだけは不安を口にする。


「金はあるし水もある。しかし、今の内に飯は調達した方が良い。まだ雪は残っているからな」


マルーネ・バルレエ辺境伯爵夫人の地みたいに足止めを食らう事がフィルの脳裏に映ったのだろうと・・・・エリナは察する。


そして一理あるとも悟ったし、この目の前で跪く凶暴だが過保護でもある忠犬によって・・・・稽古が疎かになったから勘を取り戻したい。


「では、そうしましょう。エスペランザー、貴女はティナと一緒に行動して下さい。ハイズ、貴方はフィル殿と一緒に場所を設けて下さい」


食糧は私達が確保するとエリナは言うが・・・・・・・・


「でしたら別の者にやらせましょう。それに俺を置いて誰が貴女を護るのですか?」


「貴方の代わりではありませんが、貴方と同等の腕を誇る者は居ります」


この言葉には今も仲が悪い・・・・ハイズが一方的に嫌っている事を責めるような口調でエリナは言った。


「・・・・おい、犬っころ」


ハイズはエリナに対して見せた口調とは裏腹に乱暴な口調で・・・・隣に立つ小男を睨み据えた。


その小男はハイズの声に「解ってるよ」と気さくな口調で返事をした。


「俺の代わりにエリナ様の狩りを手伝え」


「あぁ、そうさせてもらう。なぁに・・・・お前さんと同じく鼻は利く。今日は兎の肉シチューが食えるから機嫌を直せよ?」


「ふんっ。別に俺は兎が好物じゃない。好物なのは猪だ」


「おっ?無口・不愛想なハイズが好みを言うとは・・・・」


「これは・・・・雪が降るかな?」


「いや、雷雨やもしれんぞ」


「・・・・あんた等、ハイズの神経を逆撫でするなよ」


3人の老人は普段のハイズを茶化すが、フィルが直ぐ釘を刺す。


これも日常的な会話だったから・・・・誠に家族みたいな感じに見えて微笑ましい。


「では狗奴。申し訳ありませんが、狩りの手伝いを頼みます」


「御任せを。エリナ様」


狗奴と言われた小男は屈託のない愛嬌ある笑みを浮かべて腰に差していた長剣を背中に担いだ。


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