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序章:対峙する2人

傭兵の国盗り物語を御愛読して下さる皆さま、ドラキュラです。


今回の物語はハイズ・フォン・ブルアに続いて一定のキャラを主人公とした物語です。


そして今回は狗奴が主人公で、時間系列で言えば小角の領土より旅立った所です。


ハイズと違い狗奴の方は居合が主で、今回も居合のウンチクが多い感じとなっております。


ただ本編の付け足しという感じでもありますが、オリジナルの作品としても読めると思いますので宜しければどうぞ。

夜も更けた頃・・・・2人の男が月明かりも隠れる森林において対峙していた。


2人とも剣の柄を臍辺りに持って行き、そしてジッと微動だに動かない。


ただ、そこだけの場所が・・・・まるで停止しているかのような形だった。


しかし、傍から様子を見ている数名の男女は張り詰めた空気に顔を険しくさせている。


それもそうだろう。


何せ2人を包み込む空気は、まさに剣の如く鋭利で冷たい。


少しでも近づけば・・・・斬られるだろうと知らせているのだからな。


それにしても微動だに動かない2人だと・・・・何も知らぬ者は言うだろうが、真剣勝負とは得てして余り動かないものだ。


というのも剣術は「後の先」か「先の先」を取る事で相手を倒す技だから下手に動いては返り討ちに遭う。


特に・・・・鞘に納めた状態から一刀の下に相手を斬り伏せる「居合」は顕著に出ると言って良い。


この居合とは鞘に納めた状態から敵を倒す技で、剣術とは一線を画しているが理念は同じだ。


そして極めれば極める程に奥深く・・・・また安易に手出しなんて出来ないが、先ずは居合が如何なる物か軽く触れるとしようではないか。


居合または抜刀術と称される術は立ったまま鞘から抜き相手を倒すだけが全てではない。


居と合・・・・つまり居合わせた状態---即ち座った状態から抜刀する技も組み込まれており、これを「居合」と称し、立ったままの状態を「立合」と称する事もある。


しかし、根本的に言うなら身体の一部を制限し、そして日常生活から素早く斬り合いの場に赴けるように考えられた末に精華したのが、居合であると言えよう。


この術を昇華させたのが中興の祖と謳われる「林崎甚助」なる人物だ。


彼の者は父を同僚に殺され、その仇討ちに赴いたが末に神の使いから「柄を伸ばせ」と助言され、そして居合を物とし見事に仇討ちを成し遂げたのである。


その後の消息は不明なれども現在においても影響は脈々と受け継がれているほどに存在は計り知れない。


そうは言っても・・・・これが通じるのは、居合の技術と「歴史」も受け継がれた世界での話だ。


では五大陸の1国であるサルバーナ王国においては如何にして伝わったのか触れよう。


五大陸の1国にして周囲を山や谷に囲まれた天然要塞国家のサルバーナ王国を築いたのはフォン・ベルトなる男だった。


名前以外は家族も崩御した年齢も殆ど分からず、謎が深い人物であり生存を疑われているが地方を歩けば・・・・彼の男または家族が伝えた技術や伝統は数多くある。


その中でも彼が広め、今も脈々と受け継がれている技術が・・・・剣術と居合である。


サルバーナ王国の王都ヴァエリエでは両刃で無反りの長剣が好まれているのか、大抵の者は剣を得物にしていた。


ところが地方では違う。


地方では剣を得物にしている者は余り居らず、得物としているのは片刃にして反りがある剣---刀と呼ばれる物だった。


この刀と称される刃物は剣に比べると鍛錬する時間や方法が極端なまでに手間暇がかかる事で知られているが、その見た目は美しく実用性も極めて高い。


理由として反りがある事が挙げられる。


反りがあれば無い刃物より遠心力が働き、それにより切断する力も増すのだ。


砂漠の国と言われるアガリスタ共和国と草原の国と言われるクリーズ皇国では反りがある剣が使われているが、それが何よりも証明している。


ただし反りがあるだけが実用性ではない。


刀は剣に比べて折れ難く曲がり難い。


これは硬鉄と軟鉄を合わせた事で得られるが、硬さを取る者や柔らかさを取る者も居り千差万別でもある。


つまり使い手の目利きが剣同様に求められているのが共通している点だが・・・・この刀を使い、戦う術---即ち剣術は違う。


そして鞘に納めた状態から相手を倒す居合もだ。


対峙する2人は臍辺りに柄を持ってきているが・・・・これは実に極めていると言える。


臍辺りに差すのと腰に差すのとでは抜く速さが違う。


腰辺りに差したまま抜こうとすれば自然と時間を要するも臍辺りに差し、そして身体を半身にすれば・・・・速い。


半身になる事で相手の撃剣を避け、その上で左手を鞘にやり後ろに引けば右手は僅かな動きしかしない。


実際にやると解るが、右手は僅かに曲げる程度で済む。


しかし、これだけでは相手より速く剣を抜く術に過ぎず真に極めたとは言い難い。


居合・抜刀術の類は「心法」も強く求められる。


この心法とは気を静め平常心を越えて・・・・無心になる事で相手に付け入る隙を与えない術だが、同時に相手の動作を読む術でもある。


相手の動作---つまり剣を振り上げる時などに見える「起こり」や僅かな隙を読むのだ。


剣術にも通じる術を互いに持ち合わせた2人を静かに見つめる数人の男女。


ただし片方に男女は偏っており・・・・それを見て対峙した男が僅かに顔を微笑ませた・・・・ように見えたのは気のせいではないだろう。


ここで対峙していた片方の男が声を上げた。


壮年くらいだが覇気に満ちた声は常人を威嚇するには十分であるが・・・・対峙する男は動じない。


壮年の男と対峙する男は酷く小柄だった。


年齢は恐らく20代後半くらいと見受けられ、衣服は旅衣装で眼を引くのは・・・・大小の刀と耳だろう。


男の容姿は凡庸で顔立ちは幼く割と愛嬌は良さそうだが両の耳は犬みたいに垂れ下がっている。


身長も150cm半ば位だが、それとは対照的に手を掛けた大刀の長さは1mを優に越えており男では抜けそうに見えない。


ところが男は容易く抜き・・・・何人もの人間を手に掛け、2人の主人を幾つもの災厄から護り切った実績がある。


そして今も・・・・傍らで様子を見ている人形みたいな少女の為に男を斬ろうとしていた。


だが、不可解な事がある。


相手が己の身分を名乗り、その上で自分を名指しで指名したのだ。


「・・・・一つ尋ねたい事があるのですが、良いでしょうか?」


犬耳を持つ小男は対峙する男に声を掛けた。


「何でしょうか?」


男は先程の覇気に満ちた声から一変して穏やかな声色になったが、それに小男は警戒心を抱きつつ尋ねた。


「何故に・・・・己の身分---即ち中央からの刺客と名乗り、この俺を指名したのですか?」


そればかりか・・・・・・・・


「ここ数日間に渡り、私を始めとした者達に抜刀術の手解きを教えた。主人であるエリナ様に至っては鞘まで拵えてもらい感謝しているというのに」


小男の問い掛けに壮年の男は静かに頷いた。


「確かに当然の問いですね。ですが、それを知りたいのであれば・・・・この私を倒して下さい。さすれば御答えしましょう」


「・・・・では、そうさせてもらいます」


小男はズイッと身体を前に突き出し、男も応じるように距離を縮めた。


それは間もなく起こる一瞬の戦いが開始される瞬間であるが・・・・小男の名を告げておこう。


名は狗奴くなと言い、出身はサルバーナ王国の地方であり主人は先祖を悪党に持ちながらも時の5代目国王であらせられたレイウィス・バリサグ女王陛下より・・・・直々に貴族に取り立てられたヴァルディシュ辺境子爵の家臣である。


主な仕事は使い走りだが、それは表の役割で真の役割は・・・・身辺警護と暗殺であった。


というのも現辺境子爵のブロウベ・ヴァルディッシュの先祖---つまり初代ヴァルディシュ辺境子爵は悪党だった。


周りも悪党ばかりで血で血を洗う烈しい闘争が何年も続いたという土地柄である。


おまけにレイウィス女王が賭け事を許可し、蚕の養殖も奨励したので男は手持ち沙汰となり自然と賭け事に精を出すようになった。


極め付けは共和国との間で行う密貿易で「小遣い稼ぎ」をしているから怨み等は買う。


そして土地柄もあってか、刃傷沙汰は絶えない事もあり狗奴は「汚れ仕事」も起こっているのだ。


彼を知る者は以下のように評している。


『狗奴って奴は、外見じゃ小男で貧相に見えるが足は本当の犬みたいに速いし、耳と鼻も犬みたいに利くから厄介だが・・・・あの長剣から放たれる一撃は、疾風だ。本当に風みたいに速くて何時、剣を抜いたのか分からねぇ』


あれに狙われたら御仕舞だと総評されている狗奴と、中央から放たれた刺客の関係は今から・・・・少し前に遡る。


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