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理不尽な日常

 『生徒会S59(せいとかいえすごーきゅう)――あのゆるふわな僕の日常――』の主人公、津島友樹くんの中学生時代のお話です。

「パリーン」


 今日も廊下の蛍光灯が割られる音がする。


 僕、津島友樹つしま ともきの通う、市立第四中学校……通称「四中」では、校内暴力の嵐が吹き荒れていた。

 不良生徒の暴走に先生も見て見ぬ振りで、学校の秩序は完全に崩壊していた。

 そして、校内暴力に誘発されるように、いじめも数多く発生していた。


 校内暴力……ここ何年かで全国の中学校や高校で起きているのだが、特に、ちょっと前にテレビで放送された「ヨンパチ先生」なるドラマで不良生徒を擁護する場面が多く出てきた影響が大きい。

 そして、そのドラマを見た不良生徒たちに「権利意識」みたいなものが沸いて、校内暴力はより一層激しいものとなった。


 四中の制服は、男子は黒い学生服、女子は紺のセーラー服という昔ながらの制服だが、周囲の他の中学校が男女ともブレザーの制服ということもあるため、街中に出ると一目で「四中」とわかってしまう。

カバンも八十年代では珍しくなった布製の肩掛けのもので、他の中学校が一般的な革製の学生カバンなのに対して、これも街中では目立ってしまう。制服は仕方ないとしても、この布カバンだけは納得できなくて、僕は他の学校で使われている、一般的な革の学生カバンを使っている。


「こんな学校……通いたくないなぁ……」

 僕は日々そう思っていた。

 公立の中学校は住んでいる地域の学区で、勝手に通う学校を割り振られてしまう。そして、隣の学区まで道を挟んであと一〇〇メートルたらずのところで、僕は「四中」に割り振られてしまった。


 今日も僕は不本意だけど、「四中」の制服を着て学校へ向かう。そして本来校則違反だけど、僕は他の多くの生徒がしているように、学生服の詰め襟と第一ボタンを外して着ている。真面目にきちんと着ていると、いじめのターゲットになりやすいからと思ってだ。僕としては理不尽だけど、どうせ先生も誰も注意しないし、自分を守るためにはこうするしかない。


「おはよー」

 僕は教室に入る。いつもの二年三組……相も変わらずすさんでいる。昭和20年代後半に建てられたらしい老朽化した木造校舎ということもあって、より一層空気を重くしている。


「よっ! 津島っ」

「あっ、内山、おはよう」

 僕の後ろに座る内山は、僕の数少ない、そしてクラスでただ一人の友達だ。


「津島ー……早くこんな酷い学校卒業したいよなぁ……」

「そうだね……内山……」

「津島ー、俺は高校行ったらバンドやりたいよな-……お前もやるだろ?」

「そうだねー……僕も内山と一緒にバンドやりたいなー……」

「俺はギターで津島はベースなっ!」

「そうだねー……でも僕と内山だけじゃバンドにならないかー……」

 いつものように、たわいのない話をする。


「津島ー、前から気になってたんだけどさー、その自分のこと『僕』って言うのやめた方がいいんじゃね?」

「なんでだよ-、内山、いきなりそんなこと言い出して」

「だーって、『僕』とか言ってたらいじめのターゲットにされかねんぞ。お前も自分のこと『俺』って言った方がいいぞ」

「でも、いきなりそんなこと言われても……僕……」

「ほら、また『僕』って言った!」

「いや……まあ癖だからねぇ……こればかりは」


「キーンコーンカーンコーン」


 一時限目の数学の授業が始まる。先生もまるでやる気がない。教室には三分の二程度の生徒しかいない。どうやら不良どもは授業をサボっているのだろう。まあ、いつもの光景だ。


 僕は勉強は基本的に塾で先に進んでいるので、学校の授業は復習程度としか考えてなく、他の「普通の」生徒の中にもそういう人は多そうだ。むしろ授業を受けるよりは、図書室で自分のペースでのんびりと自習した方が効率がいい。


 しかしまあ、いくら授業の内容が理解できない生徒が多いからって、同じところを何度もやるというのは困ったもんだ。四中の成績のレベルが低いと言っても、こう授業が先に進まないのには呆れ果てる。他の学校ではもっと先に進んでいるのに……ここでは、二年生の秋だと言うのに、まだ一年生の終わりの頃の授業内容だ。


「津島ー、ここ教えてくれよ」

 後ろから内山が話し掛けてくる。僕は後ろを振り向く。それでも先生は注意すらしない。先生は生徒に注意したら酷い仕打ちに遭うと思い込んでいるので、注意すらできないのだろう。これでは学校の秩序なんか保てるわけがない。


「なんだよ、内山……あっ、これ? これは……この数式当てはめてと……ほらっ」

「すげえなー津島、先生なんかよりぜんぜんわかりやすいぞ!」


 すると、他の生徒が一斉に僕の机に向かって集まる。

「津島ー、これ教えてくれ-」

「津島くん、わたしにも教えて」


「おい! 津島、授業妨害するんじゃないっ! 優等生のお前が何やってんだ?」

 それまで誰にも注意してなかった先生が、いきなり僕を注意する。


「お前みたいな真面目で成績いい奴までもが不良の仲間入りかー?」

「いやっ……先生、僕はただ友達に勉強をちょっと教えてただけで……」


 普段不良な生徒は何やっても怒られないのに、逆に普段は真面目な「優等生」っだけで、授業中ちょっと何かあっただけで怒られる……僕は何とも言えない理不尽さを感じていた。

 まあ、「先生よりわかりやすい」という内山の言葉に、先生のプライドが許さなかったこともあるのだろうが……


「先生、僕の話聞いてくださいよ……」

 そう言っても取り合わない。

 どうやらこの先生は不良どもには何も言えないくせに、僕のような「普段は真面目」な生徒には、鬼の首でも取ったかのように注意するようだ。


 昭和五十六年十月……虚しさが止まらない……

 読んでくださり、ありがとうございました。

 おそらくお気づきかと思いますが、主人公のモデルは僕自身で、この物語も僕自身の体験がもとになっています。正直、自分でも書くのがつらいときもありますが、何年経ってもなくならない「いじめ」を少しでも減らしたい……そしてこの世から「いじめ」をなくしたいという願いを込めて、みなさんにお送りします。

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