23/361
オモト
「今日は厳しいよ、花ちゃん。早くても夕方5時前だろうと予想している。タラップ等を閉めるのはぎりぎりまで待った方が良いね、帰舎は夕方になるだろうから。翌日までは記録範囲だから開函は明日だからね」
美里は窓外を眺めた。小雨が横殴りに降っている。紅竜号は自分でペースを作れる頭の良い鳩。日下部ペットショップにも何度も訪れて、色々指導も仰いだ。記録は凡庸に過ぎないが、鳩競翔をする事になって1つだけ自分に分かった事がある。
鳩には同じ同胞であっても、一羽一羽に個性があると言う事だ。人それぞれに性格や体格が違うように、鳩とて同じ事。何度も読み返した、川上真二著「手記」香月一男著「競翔について」共通するのは、「良く鳩を観察する事」「愛情を持って接する事」にある。
美里は思った。競翔って自分にとって何だろうか・・と。
そもそも競翔を行う事自体、鳩自身が望む事では無く、人間の身勝手なものでは無いか。嘗て香月博士が紫竜号を使翔させ、偉大な記録後1年で、没した事に対して、虐待だ、無謀な挑戦と責められた事を思い出す。しかし実際それが競翔と言うものの本質では無いのか?と。




