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変化
「はい・・チャイコフスキーの交響曲第1番ト単調「冬の日の幻想」をお願いします」
「・・分かりました」
松尾は少し間が空いて了解したが、満足している顔では無かった。それは美里が尤も得意とする曲の1つだからだ。美里自身が目立とうと思って選んだ訳では勿論無い。招待する松尾の恥になるような演目を選べなかったからだ。
「じゃあ・・午後の部は私が花川さんにリクエストしても良いかしら?」
「え・・は・はい」
思わぬ言葉に少し美里はどきりとした。
「前島さんは、ショパンに凄く精通された方だから、貴女に午後からお願いしたいと思っていたのよ。ポロネーズはどうかしら?」
「ショパンのポロネーズですか・・」
美里の表情が曇った。何故なら、3年前ショパンのポロネーズの6番を弾き、松尾に酷評された経験があるからだ。そして、ショパンを美里は唯一と言って良いほど苦手としている。それは、松尾自身も知っている筈。なのに、何故?困惑していた。