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序章
ある町に、「紅竜号」と言う気性の荒いRCのメス鳩を使翔する女流競翔家が居る。彼女の名は花川美里、長身で髪が長く、男勝りの性格の女性だ。競翔は、今春も始まろうとしていた、この日。
「花ちゃん!君の鳩、別の放鳩車のブロックに入れてくれよ」
連合会の合同訓練の持ち寄り日の事、大柄な青年が少し大きな声で言った。
見ると、放鳩車の中で、一羽の鳩が激しくもう一羽の鳩から嘴で突つかれていた。
「何言ってんの!しょうが無いじゃないの。放鳩車の中は平等に他の鳩舎の鳩も入ってるんだから。どうせ、ヤマさん(山川静雄)の所の鳩、うちの紅子(紅竜号)に色目でも使ったんじゃないの?駄目ねえ・・そんな元気を今から出してるようじゃ、今年も又散々だわね」
「それは・・言い過ぎだろうって・・」
大柄の山川と言う青年は、小さい声でぼそぼそとそう言いながら閉口してしまった。
見かねて初老の人物がそこへ割って入る。