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天井のリング

作者: 長井門政

私の名前は佐藤義明。32歳独身。職業はカメラマン。苦悩と後悔に苛まれつつ、私は決意を固めた。


しかしその前に、最後に二週間前に起きたある件について、責任としてこれを書き残しておかねばなるまい。



***



都内に五階建てのビルにオフィスを構える無名の会社。クリエイティブ事業を主とするその会社で、私はカメラマンとして働いている。風景や人など、依頼があればそこへ行き、写真を撮り、それで飯を食っている。決して裕福ではないが、好きなことを職業にできて幸福だと思っている。


地元との繋がりが深いためか、ここで働く人間は地元の者が多い。私もその一人であるが、同じ社員で小学校からの付き合いのある二人を紹介する。


妹尾明子。カメラマンではないが、編集などを担当している。小学校の同級生だ。小学校からの知り合いと言っても、中高は別で大学で再会したが、彼女は二年目で大学を辞めてしまったので実際の付き合いはそれほど長くはない。


しかも昔から普段あまり喋ることがなく、ほとんど会話を交わさないため本当に「知り合っている」だけの状態だ。


真間秋穂。彼女は私と同じカメラマンだ。小学校からの付き合いと言っても、彼女の場合は私が六年生の時の「一年生のペアの子」だから、歳は六つ下だしその一年間しか接点がない。ペアの子になると、学校の行事で何度か一緒になってなにかすることになり、そのためたった一年間の付き合いであっても記憶に残っている。もっとも彼女自身は、当時のことをよく覚えていなかったらしいが、それも仕方ない。それなのになぜか妹尾のことは覚えていたらしい。本人曰く「目立っていたから」だそうだが、なぜほとんどしゃべらなかった彼女のことを秋穂が覚えていたのか……。


昔から明るくていい子だったが、ひと月前に仕事中橋から落ちて亡くなった。正直写真の腕はそこそこだったが、人一倍熱意があった。


小さな職場ゆえ最初の三週間は皆ひどく落ち込んだ様子であったが、さすがに一ヶ月ともなると元気を取り戻しつつある。

後輩を失い、私も一時はずっとぼんやりしていたが、今では普段通りの業務に戻っている。


彼女を失うと同時に、新たな知り合いもできた。後藤海人。秋穂が大学時代に所属していた写真部の同期だそうで、彼女の葬儀の際に彼から声をかけられた。なんでも秋穂が職場の話題でよく私の名前を挙げていたそうだ。

彼は我々とはまったく違い、内航フェリーの航海士をやっている。名前の通りの職業に就いたと感心している。



前述の通り、この時秋穂が亡くなって一ヶ月。もしも一度だけ時間を戻せるなら、私は迷うことなくこの時に戻りたいと思う。



職場の雰囲気は以前と同じに戻りつつあるが、一方妹尾はこの頃落ち着きがない。というより苛ついてるように見えた。


「なにかあった?」と気軽に聞くような仲でもないので、特別気にかけることはなかった。そんなある日のことである。



「佐藤さん、お客さんですよ」



同僚がオフィスのドアを開けて私を呼んだ。



「あぁ、わかった」



パソコンの画面を切り、席を立ってロビーに向かう。そこには海人がいた。



「あれ、誰かと思ったら君か」



「こんにちは。突然すみません」



海人はまっすぐこちらを見ている。



「いや、構わないよ。それにしてもどうした?わざわざここに来るなんて」



「……ちょっと話があるんですけど……いま抜けられますか?」



「抜けるのはさすがにちょっとなぁ」



「……ですよね。すみません」



海人の視線が逸れた。



「話だけなら、いまここで聞くけど……メールでもできるし」



「いや、ここはちょっと……あと話が複雑なので……」



「そうか……じゃあまた今度は?明日とか」



「……明日はないんですよ」



「あ、そうか、仕事だよな」



海人は俯き気味だ。知り合ってから一ヶ月とはいえ、それまでの印象からは静かながらも明るい人柄だと思っていたので戸惑った。何か悩みを抱えているのだろうと思った。



「まあ、明日は無理でも、三週間後くらいには戻るんだろ?その時でよければ話聞くよ。新宿にいい店知ってるんだよ」



「……そうですね、じゃあその時お願いします……そうだ、このスマホ一緒に写真撮ってもらえますか明日からいないんで」



「あぁ、いいよ。相葉さん、ちょっといい?」



突然何を言い出すかと思ったが、断る理由もないので受付嬢に撮影を頼んだ。



「お忙しい中すみませんでした。それじゃあ、僕はここで失礼します」



「気にすることないよ。それじゃあ、帰ってきたら連絡ちょうだい」



「わかりました。では」



海人は頭を下げると、すぐにロビーを出て行った。私がオフィスの席に戻る頃、彼から先ほど撮った写真が送られてきた。


それを確認すると、私は仕事に戻った。



翌日、後藤海人は亡くなった。橋の下で銃で撃たれて死んでいたそうだ。

彼と最後に撮った写真の隅に、アプリで書いたであろう「せのお」という文字に気がづいたのは、それから何日も経ったあとだった。



***



この写真のことは、まだ誰にも話していない。むしろ、これに気づいてから一歩も外に出ていない。


外の世界で今何が起きているのか、私にはまったくわからない。海人の死と写真のメッセージの関連も、想像はできても実際のところはなにもわからない。


ただ、時間を戻せるなら、あの日あの時、「仕事を抜け出せない」と言ったことをなしにしたい。あの時の海人の言葉から察するに、彼は自分が死ぬことを予期していたと思う。その上で、一体私に何を語ろうとしていたのか。今となっては、ただ後悔することしかできない。


誰が彼を手にかけたのか、証拠は無いに等しい。もしかしたら、外の世界ではもう全て解決しているのかもしれない。仮にそうだとしても、メッセージに気づけなかった、彼のサインに気づけなかったことに変わりはない。もしかしたら、私の行動が一つ違っただけで、結果が変わったかもしれない。


考えれば考えるほど、泥沼にはまっていくようだ。


これ以上考えるのは、もう疲れた。


ごめんなさい。もう疲れました。

思い付きで書きました。ストーリーもへったくれもありません。

この物語は、事件をきっかけに心を病んでしまった主人公が自殺するまえに遺したメッセージという設定です。我ながら悪趣味な設定です。

事件の真相とかは特に何も考えてないです。「死にたくなるほどの後悔を描きたかった」というそれだけです。中身がペラペラなので、あまり伝わらなさそうですが。

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