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主人公とモブ  作者: 文月助椛
〜第七章〜秋と言えばやっぱり文化祭だよね!?そんな事無いと言われても始めてしまったんで諦めて欲しい!とモブ
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彼女の父とモブ

「二人ともコーヒーで良かったわよね?」


湊が着替えもせずに、いそいそと楽し気にエプロンを着けながら聞いてくる。


「ああ」


「俺もそれで……」


コーヒーができるまでの間、湊的には[彼氏が初めてうちに来た記念日]でウキウキだったが、武流からしたら地獄のような時間だった。


武流はソファに小さくなって座っているのだが、対面にいる湊の父親は腕組みをして少し俯いている。怒りのオーラは益々膨れ上がっている様にも見える。


そんな二人の様子を知らぬ顔で、湊と母親はコーヒーを運んできた。


「はいおまたせ、武流君はミルクと砂糖いるよね」


武流も父親も無言でコーヒーを一口。カップを置いた所で武流は口を開いた。


「お父さん」


その言葉に父親の眉がピクリと動いた。ただそれだけだったのだが、武流にとっては逆鱗に触れてしまったかの様に思えて言葉に詰まった。


「……続けたまえ……」


「湊さんのお父さん、遅くなりましたがはじめまして。俺……僕は茂野武流と言います。湊さんとは夏前くらいからお付き合いさせていただいています。えと……さっきのはその……」


「君と湊が付き合っているのは知っている。私が聞きたいのは[さっきどこまでするつもりだったのか]という事だ」


「は?あ、すいません!キスしようとしてました!」


武流は正直に話した。母親にも目撃されているし、何より二人の関係に嘘をつきたくなかったからだ。


だが父親の聞きたかった事は武流の思っていたよりも上を行っていた。


「キスだけで終わるはずがないだろう!盛り上がってそのまま外で……なんてお父さん許さんぞ!」


「そうねぇ、そろそろ肌寒くなってくるし、うちの目の前だしねぇ……」


父親の戯言に母親が乗っかった。


「いや母さん、寒いのは始まったら関係ないだろ?それより雰囲気作りとかを考えてだね……」


なんだかとんでもない方向に話が膨らみそうになったので、武流が根本の間違いを訂正した。


「そんな!俺たちまだそんな関係じゃ……」


「なんだと!?付き合って四ヶ月でまだだと!?ふざけるな!君の中のオスはどこにいるんだ!」


「湊!おあずけも程々にしないと逃げられちゃうわよ!」


またも論点が激しくずれているが、武流は少し安心した。


「武流君、まぁ……こんな親でごめん……」


「うん……ビックリした……けど怒られるよりいいけどな……」


両親の誤解も解けた所で武流はそろそろ帰ろうかと立ち上がるのだが、母親が武流を引き止める。


「武流君、晩ご飯食べていかない?おばさん四人分作っちゃってるんだけど」


既に作っているらしい。断るのは悪いと思った武流は、家に連絡を入れる事にした。


『え!?あんた彼女いたの!?』


事情を電話で説明すると武流の母親は大前提の所で驚いていた。


「いたよ!巫女からも聞いてるだろ!?」


『聞いてたけど……脳内彼女?だと思ってたから……』


「……あんた息子をなんだと思ってるんだ……」


取り敢えずの了承は得られたので、湊達のいるリビングダイニングへ戻って来ると、既に大量の料理が並んでいた。


「武流君、そこに座りなさい。湊の横だ」


「はい、失礼します」


促されるままに席に着くと、そこは父親の正面だった。見るとそこには何故かビールと空いたグラスが二つ置いてあった。


「武流君は飲める方か?」


「……未成年ですが……」


「法は抜きで飲めるのかって聞いてるんだよ」


「飲めますけど……」


男同士の話には酒は付き物だと言って、父親はビールを注ぐ。武流はグラス一杯だけ付き合う事にした。


「で?湊のどこに惚れたんだ?」


「いきなりそれですか……まぁ……ベタですけど全部です……」


「いい答えじゃないか。だけど料理はダメだろ?春先までは産業廃棄物作ってたからな」


いつの間にか、父親の口調は威厳を称えた物から友達の様な喋りに変化していた。


「そのセリフはこれを食べてから言ってくれないかしら?お父さん」


湊が口を挟みながら料理を運んできた。武流の好物、パエリアだった。


「おお!うまそう!俺パエリア好きなんだよ!」


実は湊はこれだけは一生懸命練習していたのだ。これ以外は父親の言う産業廃棄物しか作れなかったが……


(え?つまり俺のために?)


まぁそういう事だな。男冥利に尽きると言う物だ。


「じゃぁ食べようか。いただきます!」


父親の音頭で夕食の始まりだ。四人とも料理を食べながらの歓談を楽しんだ。


「ところで湊、いつするんだ?」


「なにを?」


「おいおい……親の口から言わせるなよ……」


「親が言えない事を子供に聞かないでよ……というか、そんな事答える訳ないでしょ?私だけのことじゃないんだから」


言いながら湊は武流をチラリと見た。


武流は、湊の言葉の意味もこちらを見た意味もわかったが、普通の……どちらかと言えばこの手の事に奥手な高校生の武流には応える術が無かった。


「それもそうか。だけどデートの度に勝負下着なのにまだ見せてないのも寂しい限りだな」


「な……なんで知ってるのよ!」


父親の言葉に席を立ち上がって抗議する湊。だがその答えは母親の口から飛び出した。


「誰が洗濯してると思ってるの?バレバレよ」


湊はこれ以上言っても無駄だと悟った。取り敢えず今できることは……


「……ホントごめんなさい……武流君……」


「いや……こちらこそ……」


その後は、流石に悪いと思ったのか、両親も普通の会話を楽しんだ。


そしていつしか、武流と湊にとっては針のムシロの様な食事会が終了した。


武流は、時間も遅いのですぐに帰ろうとした。


「私そこまで送っていくね」


湊も靴を履いて玄関先まで見送ってくれる様だ。


玄関が閉まって、ようやく二人きりになれた湊は改めて武流に謝る。


「ホント今日はごめんなさい。普段はちゃんとした両親なんだけど……」


「大丈夫、最初はビックリしたけどな。でも湊が愛されてるんだなってのは伝わったよ」


若干顔を引きつらせながらも、武流は本当にそう感じていた。


「……お人好しね武流君。でもありがと」


「湊も両親が大好きなのも伝わったよ。それに……ああいう両親だから俺は湊に会えたんだなって感謝してるしね」


それは湊が転校したきっかけの事を示唆していた。武流は既に知っていたが、湊からも直接転校の経緯は聞いていたのだ。


「……二人には絶っっっ対言わないけど……大好きよ。今はまだ武流君よりもね」


[自分よりも]という所よりも、[今はまだ]という所を武流は受け取った。それがどんなメッセージか、武流はちゃんとわかって返した。


「敵は強大だな。けど負けられないな」


二人はクスクスと笑った。


「両親以外では武流君が一番よ」


言いながら湊は武流の首に両手を回し、武流もそれに応えて湊の腰に手を当てる。


「……見られちゃうかな?」


「見せつけてやりましょうよ」


二人はユックリ……しかし長く長くキスを交わした。

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