ミス名北発表とモブ其の一
「ただいま〜どんな調子?」
湊と武流が教室に戻ると、教室をおかしな空気が支配していた。十四時からの担当は礼那だったのだが、シフト表を公開しているので弥富を筆頭に学校中のMとロリコンが集まって妙なオーラを発していた。
他の女子達のファンと違い積極的に声をかける者はいないのだが、盗撮と罵られる口実を考えるのとお互いの牽制とが入り混じり一般客は早々に逃げ出していた。
単純に売り上げはかなりの額になるのだが、アンケートの評価は真っ二つに分かれることは間違いないだろう。
「……部長……お疲れ様です……」
「全くだ!あんな連中をうちの女子達に任せるなんて出来ないし弥富は気持ち悪いし!何台カメラを壊したかわからないくらいだ!」
礼那は酷い剣幕だった。礼那のいう通り壊れたカメラが幾つも散乱している事が、礼那と客との壮絶な攻防が容易に想像できた。
十五時になり、礼那は言っていた通り教室から出て行き湊が店に出ると、怪しいオーラの連中はすぐに退室、代わりに湊ファンがクラスに押し寄せてきた。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?……では席にご案内致します!」
湊がとびきりの営業スマイルを浮かべると、ファンでない人達までもが鼻の下を伸ばして席に座る。
大人気の湊とは対象的に、武流には無言の圧力がかけられていた。テーブルの横を通れば足を引っ掛けられそうになり、人とすれ違えば舌打ちされたりと、無言だがあからさまな迫害を受ける。
だが当の武流はと言うと、湊と付き合いだしてから数ヶ月間毎日のように嫉妬と殺意を日光よりも多く浴びせかけられていたために、常人離れした耐性が身についていた。
「あん、武流君!タイが曲がってるわよ!」
「ああ、ありがと」
言いながら湊が武流のタイを直す。
「はい、これで良し!カッコいいわよ」
ポンっと武流の胸に手を当てて直し終わる。二人のやり取りはクラスメイトは慣れたものだが周りはそうは思っていないらしい。嫉妬と殺意が倍加したようだ。
「……茂野君……接客はいいからキッチンにいってくれるかしら……」
桃花は嫉妬と殺意に満ちた空気に耐えかねて武流を接客から外した。
「いいのか?俺は平気だけど?」
「一般客に迷惑!」
そんな殺伐とした空気の中、文化祭初日の営業時間は終了し、一般客が帰った後本日のメインイベントのミスコン投票結果発表の時間になった。他の団体が後片付けをしている中、中継が始まった。
発表会会場はS.T.A.F.Fとの合同を強調する為に教室に簡単なブースを設置しているが、アメフトのグラウンドの大型モニターを始め学校中にモニターを配置、中継しているので全校規模での発表になる。
『さあ!始まりました!名北高校美少女ランキング[ミス名北]の発表です!司会は私、津島智がお送りします!』
「ノリノリね」「そうだな」
湊と武流が呟く。
『では早速第十位!一年C組、服飾部所属!岩倉美玖!』
智の言葉に合わせてモニターに美玖の映像が表示される。静止画の連続表示で美玖の制服姿やコスプレが映し出された。
『投票コメントでは、[あの無表情を笑わせてあげたい]や、[コスプレの時のヘソがいい!]といったコメントが多数寄せられました!続いて第九位は!……』
その時服飾部では、部員が集まって美玖のランク入りに盛り上がっていた。
「やったね美玖ちゃん!お姉ちゃん鼻が高いな〜!」
「おめでとう岩倉さん。これで服飾部の知名度もアップね」
まだできたばかりの服飾部としても朗報と言えた。だが美玖は無表情のまま顔を赤くしながらも懸念を口にした。
「はい、ありがとうございます。けど……ヘソ?チャームポイントがヘソって言うのはありなんですか?あとコスプレ部とか言われませんか?」
「……まぁいいじゃない!これからちゃんとコスプレだけじゃないって実績を作ればいいんだから!」
あえてヘソの件は闇に葬った。
その間に発表は続いていた。
『はいでは第八位は!なんと生徒だけのエントリーのはずが先生がランクインです!英語教師!岡崎魅華!コメントは、[大人の魅力]。他には[生徒の目線で話してくれる]と言った本性をわかってないものが多数でした!』
「……なんかあたしだけディスられてないか?」
モニターには普段の格好から水着、チア衣装などセクシー路線の画像が映し出される。それを徹と忠臣がモニターで見ていた。
「……なにやってんだあいつは……」
「いいんじゃない?得した気分だろ?」
『そして第七位は、今回唯一の彼氏持ち!二年E組、S.T.A.F.F所属!那古野湊![小悪魔ぶりが可愛い][女子力は随一!]などの他に、[茂野殺す][彼氏が空気]という彼氏を蔑むコメントが多かったです。同感です。』
「一言余分じゃないか!?」
「いいじゃない。武流君は彼女が可愛くて嬉しくない?」
「いや嬉しいけど……自分で可愛いって言うなよ……いや可愛いけどさ……というかおめでとう!」
「ありがと!でも私は武流君が可愛いって言ってくれるだけで十分よ」
全くこの二人は……本当に所構わずだな……
(うるさい!あっちいってろ!)
無茶言うな。
『……はい第六位の方でした〜!それではここからは注目のベストファイブです!』




