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主人公とモブ  作者: 文月助椛
〜第七章〜秋と言えばやっぱり文化祭だよね!?そんな事無いと言われても始めてしまったんで諦めて欲しい!とモブ
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小さな悩みとモブ

武流のクラスの演し物は喫茶店なのだが、かなりのクオリティになりそうだ。


調度品やコーヒー、紅茶などは遥香が取り仕切って揃えるようで、この時点で喫茶店としてはかなりのレベルになる。


衣装はデザインを岩倉美樹に依頼、縫製はみんなでやる事になった。メイド喫茶風ではなくリアルメイドで統一するとの事だ。男子の衣装もあまり派手にならない執事服になるらしい。


ちなみに桃花は最後まで戦国喫茶にこだわったが、そうなると衣装が着物と甲冑になるので全員から「動きにくいから無理」と言われて泣く泣く引き下がった。きっと美樹に頼めばどんな仮装も喜んで作ってくれるかもしれないが…


仮装といえば話し合いの時にこんな一幕があった。


「はーい!男装、女装喫茶とかどーよ?」


「誰が喜ぶんだよ……女子はリスク少ないじゃねぇか」


「リスクもそうだけど身内受けはやめた方がいいだろ。飛島とか安城とか絶対笑えないって」


その時武流はふと思った事を口にする。なんて事ないただの会話の一つのつもりで。


「忠臣なんて実は似合いそうじゃないか?何気に女顔だし先生と顔付き似てるし……」


「……モブ男……今なんつった?……」


忠臣がゆっくり立ち上がって武流の方に歩き出す。忠臣のただならぬ雰囲気に武流が呆気にとられていると、忠臣が突然怒りを露わにする。


「なんつったって聞いてんだよ!」


この言葉と同時に武流に向かって猛然と迫る忠臣。何がなんだかわからないままに咄嗟にガードし目をつぶる武流。


だが何も起こらなかった。恐る恐る目を開けると、顔から数センチの所で忠臣の拳が止まっていた。見ると忠臣の首と腕にそれぞれ徹と魅華が腕を絡ませて忠臣を止めたようだ。


「……忠臣、やめとけ……」


止められた事と徹の言葉に忠臣は我を取り戻したのか、いつも通りの表情に戻っていた。


「ゴメンね〜モブ男、あんま気にしないでね」


そうは言っても武流は怖かったのと驚いたのとで呆然としてしまっていた。


「あ、ああ……」


徹と忠臣が自分の席に戻って行くと魅華が武流に手を合わせた。


「すまんな茂野、あいつ昔から顔の事言われるの嫌いでな。突然キレて見境なく襲い掛かっちまうんだ。まぁそれ以外はただの不良だから安心していい」


[ただの不良]は安心材料としては不十分なはずだが、武流は徹と忠臣が校外にまで名を轟かしている有名な不良だと言う事を忘れていた。なので尚更驚きが強かったのだが、今まで築いてきた忠臣との仲のおかげで武流の中ではその時だけの笑い話で済んだ。


だがこの件で一番衝撃を受けたのは湊だった。徹と忠臣が近隣でも有名な不良だと噂では聞いていたが、春先からこっち二人の喧嘩の話も聞かなくなっていたので、湊からすれば遠い世界の話くらいに思っていた。だが忠臣の急な豹変で、見方が変わってしまった。


そして元の時間軸、やることも決まってみんなで設営をしていた。テーブルセットと衣装の縫製は待ちになるが、レイアウトや飾り付けはすぐに始められる。


「那古野さ〜ん、そこのハンマー取ってくれない?」


忠臣が天井近くの飾り付けをしている時に湊に声をかけた。


「……あ、はい……」


「センキュ〜」


忠臣は気付かなかったが、湊は接し方に困っていた。別に不良とは仲良く出来ないとか武流に危害を加えそうだったとかで嫌っているわけではないのだが、どうにも距離感がわからなくなっている。


(……どうしよう……なんか気まずい……)


(湊か……)


その日の帰り道、武流と湊がいつも通り並んで歩いている。近頃元気が無かったのはそのせいだとわかった武流は、解決出来ないかと湊に話しかけた。


「湊……なんか最近元気無い……というか忠臣の事避けてる?」


「そんな事ないけど?……って……武流君に嘘ついても仕方ないか。ずっと私ばっかり見てるからバレちゃうのかな?」


湊はいつものからかい口調だが、やはり少し元気がない。


「確かに見てるけども!いや確信があった訳じゃないけどな……俺との件が関係してるんだろ?話してくれよ」


普段なら照れる場面ではあるが、私から聞いたからという後ろめたさがあって武流は少し胸が痛んだ。


「うん……それがあったからなんだけど……でもダメよね!友達をこんな事で避けてるなんて!」


湊は急に吹っ切れた顔になった。武流は不思議そうな顔をしていたが、湊の中では[本当に悩んだら聞いてくれる人がいる]と改めて知った事で心にゆとりが出来たのだ。そしてその相手を小さな事で困らせたりは出来ないと思った。


「武流君、好きよ。心配性な所も含めてね!」


「…………俺もだ……」


湊の突然の不意打ちに、武流はこれだけ返すのが精一杯だった。この二人は隙あらば……いや、隙がなくてもこうしていちゃついている。全く見ていられない。

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