強気なお願いとモブ
名北高校の文化祭は、二日間の日程だ。一昨年までは、公立校にありがちな[過度な演し物は控えて文化的に]という質素な物だった。
しかし現生徒会長尾張朝日が就任した去年からは、[生徒の自主性を重んじた楽しい文化祭]を実行、華やかで熱気溢れるフェスティバルになった。これにより、朝日の人気は学内で不動の地位を得たと言って良かった。
しかし、今年の演し物の申請を見て、去年余りにも盛り上がりすぎた事に朝日は気付いた。
タイトルではなんなのか想像もつかない奇抜で派手な演し物が乱立し、シンプルな屋台などは激減。どの団体も目立つことに躍起になっていた。
そこへ朝日の目に飛び込んで来たのは礼那達のクラスの喫茶店だ。イベントブース併設の文言が気にはなったが、朝日に一つの光明が差したようだった。
ここは生徒会長室、朝日の部屋だ。朝日は来客を待ってソワソワしていると、扉をノックする音が聞こえてくる。
「どうぞ」
朝日は極力平静を装い礼那を出迎えた。副会長の案内で会長室へと通された礼那と対面し、極めて冷静な素振りで副会長を退室させた。
扉が閉まり、礼那と二人きりになった途端、朝日は礼那に抱きついた。
「礼ちゃん!いらっしゃい!待ってたわよ!スリスリさせて〜!」
「やめろ!鬱陶しい!私は話をしに来ただけだ!下がれ!」
「そうだったわね……チッ……話を聞きましょう」
「……舌打ちは心の中に留めておけ……いやな、困っているんじゃないかと思ってな。相談を受けに来たんだ。見たところ大分行き過ぎた演し物が増えているようじゃないか」
礼那は朝日の机をチラリと見た。そこには演し物の申請書が置かれている。内容まではわからなかったが、大方の予想はついた。そしてその動きだけで朝日は礼那の言いたい事に気がついた。
「自由にし過ぎたと思ってるんだろ?これでは文化祭ではなくリオのカーニバルだとかなんとか」
「ふぅ……礼ちゃんに隠してもしょうがないわね…その通りよ。何かしらの抑止力が無い物かと考えあぐねていたの……礼ちゃんの部活は何もしないの?」
「その件も含めての策だ。まず演し物の数を減らす為に団体単位を合同で出展出来るようにする。大掛かりな物はこれで少しは減るだろう。合作にしてより良い物をと考える者もいるだろうからな」
「そうね、それに始めて見たけど間に合わなそうな演し物も多いものね」
「そして次に一昨年以前のシンプルな物を奨励する特別賞を作る。なるべく地味な物が取れるようなのがいいな」
「……喫茶店とかかしら?」
礼那のクラスにしろと言っているものと朝日は邪推した。だが返ってきたのは意外にも素っ気ないものだった。
「それはお前が決めればいい。お前が相応しいと思えばくれるならもらうだけだ」
「そうなの?じゃぁ検討してみるわね。ところで…そろそろうちのハーレムに加わる気になったかしら?」
「未来永劫加わる予定は無い!……だが……[例のあれ]がまだ一日残っていただろう。文化祭の二日目なんてどうだ?」
「いいの?てっきり今回のアドバイスでチャラにしろって言われるかと思ったわ」
「まぁうちのメリットも含んでいるからな、プラマイゼロで一回残っているだけだ。それともチャラにしてくれるのか?」
「とんでもない!礼ちゃんからの誘いを断るなんてできないわ!」
「決まりだな。では早急に今の内容を全校に打ち出すといい。期待している」
最後の[期待している]は、アドバイスの件のつもりで言ったのだが、朝日はデートの件だと勘違いした。
「任せて!最高の文化祭デートにしてあげるわ!」
「……いや……じゃなくて……まあいいか……またな」
礼那が部室に戻ると今度は智が抱きついてこようとしていた。
「姉さん!大丈夫だった!?ペロペロとかされてない!?僕が先にやるんだから死守したよね!?」
だが想定範囲内なのですぐさまカウンターのルーズリーフクラッシュをお見舞いした。
「先も後もあるか!お前は犬とでもペロペロしていろ!」
「グフ……良かった……いつもの姉さんだ……」
いつも通り礼那にしばかれて良かったも無いもんだが本人は満足気だった。しばらくそっとしておこう。
「それで部長。合同の件は?」
忠臣が聞いてきた。
「ああ、なんとか取り付けた。むしろ恩を売ることが出来たから大成功だな」
(ホントにな……よくもまぁあれだけ上から言えるもんだよ)
この言葉でS.T.A.F.Fは慌ただしくなる。ミスコンは事前アンケートを集計して文化祭で発表という形式にしたので短時間で設営、撤収出来るセットを作ることが一番の仕事になる。もちろん集計は智の仕事だ。発表の時に上位にゲスト出演してもらうので、その時の衣装を服飾部に依頼すれば後は集計結果を待つだけになる。
だが前にも礼那が言っていたが、上位はほとんどが武流のクラスの人間なので、宣伝効果の意味合いが強いイベントだった。




