服飾部発足とモブ
「……なんかいい感じの空気になってる所で悪いんだけど…[例のあれ]について聞いてもいいかな……一回とか二回とかってなんなの?」
忠臣もこの空気を壊す事になるのがわかっているが、どうしても気になったので聞いてしまった。すると真っ赤に染まっていた礼那の耳が、今度は青を通り越して白く血色を失っていった。例によって説明役をすると思われた智までが青ざめてしまっている。
「……口にするのもおぞましい……誰か説明してやってくれ……」
「まぁ簡単に言うと朝日とのデートが報酬って事だ。回数はエロい事の回数じゃなくてデートそのものの回数だな」
魅華の説明に実はちょっとエロい事の回数だと思っていた湊と忠臣は少し安心したと同時に想像力の逞しい自分が恥ずかしくなってしまった。
「ただ……ね……ルートが必ずホテル経由だったり行き先が二人きりになれる場所だったり一緒にいる間ずっと口説かれたりでめちゃくちゃ大変らしい」
武流の言う通りかなりの鬼畜ぶりだ。男でもそこまで露骨な事は出来るものではない。しかも契約であるから礼那としても逃げるわけにいかない事を見越してのことだから始末に負えない。
「もうそれ以上言うな!想像しただけで頭が痛くなる!……」
「……岩倉姉妹の件ってのは大体わかったが……あいつらはアニメが好きでついでにコスプレしてるんじゃないのか?」
徹の言い分は少し外れていた。彼女たちは確かにアニメも好きだが、津島姉弟はそれはコスプレありきであると踏んでいた。根拠としてはイベント当日、アニメ好きならば同人誌を買い漁りに行くものだが、それには目もくれずにコスプレをしていたからだ。なので一言で言うと[着たい衣装を着る為に作りたい]が本質なのだと考えたのだ。
「まあどっちにしてもやるやらないも仲間を作る作らないも、さっき部長が言ってた通り本人達次第だけどね」
忠臣の言葉は冷たいかもしれないがその通りだ。それにこれ以上の干渉はお互いの為にもならないだろう。
「それで金山、お前には前から話していた件だから今更説明はいらないと思うのだが、改めて暫定の部長をお願い出来ないだろうか。もちろん強制はしないが、やってくれると助かる」
千種には夏休み中から誘いはかけていたのだが、あれだけ根を詰めていたのを思うと少し悪い気になって強くは言えなかった。そして千種は少しでも大和のそばにいたいので迷っていたのだが……
「……うん、やってみるよ。でもお金の事とかわからないからそれは誰か他の人にお願いしたいんだけど……それでもいいかな?」
「ああ、それは構わない。そうだな……中村。一緒に行ってくれるか?軌道に乗れば二人とも帰って来て欲しいんだが……」
「僕はいいよ。これでも一応智君には仕込まれてるから大丈夫だと思う。けどちーちゃんは僕でいいの?」
「も……もちろん!じゃぁ早速行きましょう!」
思わぬ役得に千種のやる気ゲージは一気に振り切れた。だがまだ申請すらしていないので一旦落ち着こう。
「……千種、一旦落ち着こう……まだ申請もしてないんだから……」
武流は珍しく私の代弁をした。本当に珍しい。
「でも実際人は集まりそうなの?作ってみたけど人がいないんじゃ本末転倒でしょ?」
湊の意見は尤もだった。千種と大和と岩倉姉妹しかいなければ全ては無駄と言えるだろう。
「それについてはアテがないわけじゃないよ。全校生徒のプロフィールに目を通してみたら、意外と部活してなくてコスプレと裁縫に興味がある人がいたからね。全員は無理としても部活の体裁が整う程度の人数は集まると思うよ」
「まぁここで話していても仕方ないだろう。
まずは部員募集のメールを出してくれ、コスプレの画像もアップしてな」
翌日、部室の扉が激しく叩かれた。
「開いてるよ〜だから扉壊さないでね」
たまたま扉の近くにいた忠臣がゲーム機片手に軽く応える。そして音が止んで扉が開かれた。
「入れてください!」
美樹が入るなりそんな言葉を出した。翔がいたら確実にセクハラ紛いのセリフで返していたところだろう。だが返したのは徹だったので一安心だ。
「……もう入ってるな……部室に……」
「ではなくて!ここ!ここに入れてください!」
「姉さん、落ち着いてください。少々エッチなニュアンスが見え隠れしてます」
美玖はみんなが言わないようにしていた事を言ってしまった。美玖も慌てているのかもしれない。
「つまりですね、昨日送られてきたメールの件でお邪魔させていただいてるのですが、服飾部に入れて欲しいと言いにきたのです」
「いいのか?二人の言う一般人もいるかもしれないんだぞ?」
武流は内心ではガッツポーズをしたい所だが、あえてマイナス面も提示する。それが公平な事だと思っての言葉だった。
「構いません!私達、あれから考えたんです!……やっぱりコスプレとかの衣装を作るのが、着るのが好きなんだって……だから一般人になんて思われたっていいんだって!仲間が欲しいんだって!」
武流は今度は内心ではなくガッツポーズをした。




