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主人公とモブ  作者: 文月助椛
〜第六章〜夏だからって海に行くと思うだろ?けどそこをあえて外してみたら自分が苦しい思いをしていることを知ってしまった!とモブ
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コスプレ満喫とモブ

結局入場までに一時間を要した。その間炎天下に晒されて何人かが干物になりそうだった。


「ふぅ……やっと一息つけるな……」


一同が早くも疲労困憊の中、智と岩倉姉妹だけがワクワク感を隠しきれない様子だった。いや、美玖は完璧に隠しきれていたが……


「さぁ!みんな何してる!?すぐに着替えちゃうよ!時間は常に動いてるんだぞ!」


「そうよ!それに人波も動いてるからそんな所に座っていたら飲まれ……」


「きゃああぁぁぁ!」


「巫女ー!」


美樹の言葉が終わらないうちに巫女が人波に飲み込まれて流されていった。むさ苦しい汗まみれの男たちに飲み込まれるとは、想像しただけで寒気が走る。


「巫女ちゃん……あなたの犠牲は無駄にはしないわ……」


遠い目をしながら美樹が言った。


「死んでないわよ!探しに行かないと!」


「大丈夫、ループしてまた戻ってくるから…」


焦る千種に、美玖は慌てず騒がず答える。よくある光景らしい。なんだか流れるプールみたいだなと思っていると、本当に巫女が反対側から戻ってきた。


ちなみに、この日の為に全員自分のコスプレのキャラ作りとカメコ対策を徹底しておいたので、コスプレの基本は身についているはずだ。


着替えが終わり、……魅華は最初から終わっているが……みんな揃って更衣室から出てきた。


すると、入場前の智の仕込みが効いたのか、岩倉姉妹の見立て通り徹、忠臣、翔、魅華に女子達がわらわらと集まっていった。


他のみんなも中々の人気で、それぞれが撮影の対応に追われている中、礼那が離脱するようだ。


「さて、私は視察に行ってくるとしよう。取り敢えず昼食までには戻ってくる」


礼那は一人だと私服に白衣だけなのでそれほど注目される事はないのだが、いかんせん後ろにがっちり衣装を着込んだ智が控えている。確実にコスプレだとバレてしまうので、礼那は迷惑そうな顔をしている。


そしてお昼、礼那が視察から皆の所に戻ってきた頃には、大分撮影にも慣れてきたようで、ポージングもサマになっていた。


キャラ作りの時にちゃんと作品の研究も徹底したおかげで、カメコさんや他のレイヤーさん達とも交流が出来ているようだ。


「オー!レイナさんおかえりなさ〜い、スシ食べますか〜?」


……翔に至ってはキャラ作りしすぎて喋りまで変わっていた。黒人の寿司屋の職人さんというキャラなのだが、ハマり過ぎていて少しウザかった。


「みんな問題ないようだな。お昼にしようか」


「ふ〜!暑い!誰か昼から代わってくれ〜!」


ヘルメットを脱いだ魅華が今日何度目かの交代要求をした。


「何度も言いますけど代われる人間がいませんよ。スーツは体にピッタリなんですから男子じゃサマにならないし女子ではサイズで悲しい思いをする人間が増えるだけですから」


女子一同は、そんなことはないと突っ込みたかったが、試しに着させられる事を恐れて黙っている。


「なあなあ徹、実は朝こんなモノが撮れちゃったんだけど……いるか?」


自販機の前で忠臣が徹にケータイを見せた。画面には黒いライダースーツの魅華が胸元をはだけさせて写っている写真が映し出されていた。すると瞬時に顔を赤くしながら徹は否定してきた。


「いるかこんなもん!魔除けにしかならねぇ!」


「あっそ、じゃぁ翔にでもあげよっかな〜。送信!」


「なっ!待て!」


言うなりボタンを押した忠臣。徹は慌てて忠臣のケータイを奪う。


「うっそ〜送ってません〜ホントは欲しいんでしょ?意地張らなくてもいいじゃん?ん?」


完全にからかっている。徹は悔しそうに俯くと、後ろにあった自販機を持ち上げて……


「ふざけんな!いらねぇっつってんだろうが!」


ぶん投げた!だが周りの人たちは驚くどころか喜んで撮影していた。二人のコスプレの作品に、異常な力のバーテン服の男が自販機を投げてそれを躱す黒パーカーの男のシーンがあるらしいので、作り物の自販機でのパフォーマンスと思われたようだ。


後日談になるが、その動画はサイトで十万ヒットを超える人気動画になっていた。


「でもコスプレって結構面白いね!こんなに注目される事ってあんまりないからちょっとハマりそうかも!」


少し興奮気味の湊が美玖と話している。


「そうですね。私は注目されるのは少し恥ずかしいけど面白いです。あと違う自分になれるところが好きですね」


美玖は作り物の銃器を撫でながら応えた。感情表現が苦手な美玖にとってはコスプレは自分を表現できる数少ないモノのようだ。


「そういえばさっきうちの学校の生徒を何人か見かけたよ。岩倉さん達以外でもこういう趣味の人達って結構いるんだね」


大和の言葉に美樹が食いついた。


「えっ!?誰ですか!?教えてください!」


「ん〜……見かけた事があるってだけの人だったからなんとも……智君。データベースある?」


「あるよ。ほい顔写真付の一覧」


「えっと…ああこの子。一年生だね」


「美樹も美玖も学校で仲間集めとかしてないの?探せばもっといるんじゃない?」


湊が疑問を口にした。だが返ってきたのは悲しい声だった。


「うん……探そうとした事はあったんだよ……でも私も美玖ちゃんもこんな性格だから……中々……」


そうなのだ。美樹は今は楽しさが全面に出ているからわかりにくいが、本来感情を隠せないタイプなので友達も多いかと思うのだが、自分の趣味が世間的にあまり良く思われないものだと思っている。


その為、クラスメイトの前では[こんな趣味の自分を知られたら嫌われてしまうかも]という気持ちが表に出てしまい、ビクビクオドオドしてしまうらしい。


美玖も同じように趣味に引け目を感じている事と、感情表現が苦手な事とで仲間を作れずにいたのだ。智のように堂々と公言するなど二人には到底できる事ではなかった。


「なるほどな……しかしうちに依頼に来たという事は隠しておきたいわけではないんだよな」


「うん……だけど一般人に変な目で見られたくないっていう……要はわがままなんだよね……」


美樹は自嘲気味に笑った。わがままとわかってはいてもやっぱり仲間は欲しいジレンマに耐えかねての依頼だったのだろう。


午後からも一同は撮影されるので手一杯だった。しかし同人誌には興味があまりない面々なので、一日中コスプレを目一杯楽しんだ。

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