特殊な依頼とモブ
つまりこういう事だ。翔、徹、忠臣にコスプレの依頼をしに来たついでに衣装係を探しに来たのだ。
「もちろん報酬は払います!むしろ当人に現金で頼みたいくらいです!だけど面識が無かったからS.T.A.F.Fへの依頼という形をとったんですけどいいですよね!やってくれますよね!三人は絶対似合うと思んですよ!池袋最強です!ハマりますよ!特に安城君は長身で金髪だからいじる必要なし!文句もなしよ!」
美樹の剣幕に……いや、もはや言葉の弾幕に三人は引いていた。美樹はよく見れば可愛い方なのだが今は興奮と錯乱で台無しになっていた。
もちろん直接交渉だろうがS.T.A.F.Fを通そうが、やるやらないは当人の自由だ。しかしこの調子ではまず引き受けたりはしない事は目に見えているくらい、美樹の興奮ぶりは尋常ではなかった。
「こんなキャラだったのか……知らなかった……」
「ビックリだね。てっきり僕らと同じくらい普通の子だと思ってたけど」
武流の言葉に大和も同意したのだが、大和の言葉のチョイスに少々自虐の色が混じっていた。
「……ちなみに報酬はどれ位で考えているんだ?」
美樹の並々ならない情熱にピンときた礼那が美玖に聞いてみた。
「それはですね……」
美玖が礼那に耳打ちした。
「ふむふむ……ほう……なるほどな……飛島!安城!岡崎!やれ!」
「「えー!!??」」
即断即決、相当に旨味のある報酬だったようだ。
「岩倉姉妹、日程と衣装のデザインがあるならよこせ。……これか……金山、いつまでにできる?」
「これなら一人でも二日あれば出来るよ。特殊な素材もいらないみたいだし」
「そうか、ならまだ余裕はあるな。智、ここにいる全員分に相応しい作品とキャラを洗い出せ。岩倉姉妹の希望を優先でな。必要な小物もだぞ、無いものは作る方針で。金山、その衣装が出来るまでにデザインを起こしておく、足りない分の現金は私がポケットマネーで負担にする。十五着をこの期日までとなると人手も必要になるだろう。人選はお前に一任する。できるな?」
「待ってくれ!全員ってなんで!?依頼は三人だろ!?」
今回はターゲットから外れていたので安心していた武流は慌てて抗議した。だが礼那はおろか千種にまで無視された。
「もちろん!普段作れない服だから喜んでやるよ!」
「よし、岩倉姉妹、こんな感じでどうだ?」
「うん!チョットお願いに来たらとんでもなく話が大きくなったけど、願ったり叶ったりだから結果オーライ!あ、衣装は私達も作りますよ」
礼那は恐ろしい程の手際で段取りを組む。この時点で誰にも拒否権が与えられていないことを皆が感じていた。
(まぁ……いつものことか……)
話もついて皆が帰った後、部室には礼那と智が残っていた。仕事もひと段落した時に智が礼那に聞いた。
「姉さん、今回はなんで急に?報酬は確かに多めだけど姉さんがそこまで肩入れする程じゃないだろ。僕は楽しいからいいけどさ」
「いや、今回は思わせぶりな魂胆はないぞ。お前がいつも言ってるだろう、アニメ産業の優位性がどーのと。私はその手の趣味はないからな。一度視察のついでに参加してみようという程度のものだ。どうせならみんなで楽しみたいだろ」
「それだけの為にみんなを巻き込んだんだ。悪い人だねぇ」
翌朝、智と美樹が千種の元にデザインを描いたファイルが手渡された。
キャラの全身の画像と色や素材の指定が事細かに書かれているそれを手にした千種は、驚くどころか目をキラキラさせていた。
「うわぁ!こんなにいっぱい!これ全部作っていいんだよね!?今日中に型紙と必要な素材をピックアップしておくから!帰りに買って行きましょう!」
普段は落ち着いた感じの千種とは思えない熱の入りように智が若干怯んだ。美樹はと言うと千種の様子に感動したのか手を握っている。
「嬉しい!こんなに喜んでくれるなんて!金山さんも私と同じ趣味なのね!?」
これは美樹の勘違いなのだが今回は放っておいていいだろう。利害の一致というやつだからだ。
それから一日二日と経つにつれ、千種は変わらず顔はニコニコ、目はキラキラしていたが、段々やつれていった。本人はとても楽しそうなのだが……
こんなシーンは漫画でたまに見かける。悪霊に取り憑かれて最後は海に引きずり込まれるタイプのホラー漫画だ。
そして、一学期の最終日。終業式の日なのだが、教室の椅子の上で千種が死んでいた。直立の態勢から頭を机に付けた状態からピクリとも動かない。
「大丈夫!?千種!」
教室に入るなり湊は慌てて千種に駆け寄った。
「だ……大丈夫……三日くらい寝てないだけだから……」
「それ大丈夫じゃないから!保健室行くよ!」
「いいよ……あと少しだし……休んでる時間がもったいない……」
なんとあろうことか千種は十人分以上の衣装を一人で作っていた。裁縫好きもここまでくると病気だ。
岩倉姉妹も作ってはいるが、技術と早さが段違いな上、千種は寝る間も惜しんでドンドン作ってしまうのでどうしても千種が作った分が多くなってしまったのだ。
「湊……好きにさせてやってくれ……こうなると大和でも止められないんだ……」
そうらしい。大和でもというのは相当だ、湊は渋々納得して席に着く。
ちなみに、この時点で殆どの衣装が出来ているのだが、[試着は全員で]というクライアントの意向でまだ何を着るのかすら誰も知らされていなかったのだ。
「なぁ湊、俺嫌な予感しかしないんだけど……露出度の高い衣装だったら断れよ?」
「武流君は独占欲強い人?」
「そうじゃなくて!……まぁ……湊の肌を他の奴に見せたくないってのが独占欲ならそうかな……」
「クス……素直でよろしい!チュ!」
もしも殺意というものが物理的な攻撃力を持っているならば、武流はきっと今頃原子レベルにまで分解されていることだろう。




