男の戦いとモブ
「諸君!これがこの家の見取り図だ!わかっているとは思うがこれは男の戦いだ!女には口外無用だ!」
男子部屋に戻った智が熱い演説を始めた。要するにお風呂イベントの導入だ。
(イベントとか……まぁそれは置いといて……)
「まずいって!絶対親父さん気づいてるって!バレたら消されるんじゃないか!?社会的に!」
武流は帝が気づいていることもあるが、なにより湊の裸を他の男に晒させるわけにはいかないので必死だった。
「まぁまぁこういうのはノリだって。モブ男だって湊ちゃんの裸見たいだろ?俺たちは湊ちゃんは見ないようにするからさ、それでいいだろ?」
「いやまぁ湊の事はそうだけど……じゃなくて!バレたら消されるって言ってんだよ!」
「そん時はそん時だって!智!作戦会議だ!」
「ああ、まず見取り図からも分かる通りかなりの大きさで、内風呂と露天風呂がある。内風呂に窓がないから目標は露天風呂になる。だから……」
智曰く、ポイントは崖の上からしかないとの事なので一同は夜の闇に紛れて崖の上を目指す。因みに大和と徹は不参加だ。
到着するとまだ誰も露天風呂には入っていなかったが、確かに露天風呂を一望できる絶好のポイントだった。
皆が期待に胸を膨らませてお風呂に意識を集中していると後ろから声をかけられた。
「君達……こんなところで何をしている……」
帝の声だった。「死んだ!」全員が思って振り返ると、そこには迷彩服を着た帝とロリコンが立っていた。
「しっ!君達ダメだろ。このポイントを見つけたのは大したものだが、ここでは向こうからも丸見えだ。こっちへ来たまえ」
思いの外ノリノリの帝に呆気に取られながら案内されたのは、崖を降りて道から少し外れた洞窟だった。
「ここは?」
「私の秘密基地だ。弥富、みんなに暗視ゴーグルを配れ。ゴーグルを持った者から私に着いて来てくれ」
帝について洞窟の奥に進むと、行き止まりに部屋が出来ていた。壁の一面に沿って机と椅子が並んでいるのが少し異様だったが、それ以外は立派なリビングルームの装いだった。
全員がゴーグルを持って部屋に入ると、ロリコンが何かのスイッチを押した。すると部屋の明かりが消えて壁の一面が透けて露天風呂が丸見えになった。
「ちょっ!なんだこれ!壁が消えた!?」
「いや……これは……マジックミラーか?」
「どうだ!凄いだろ!金持ちならではの覗き部屋だ!」
帝は悪びれるどころか自慢してきた。確かに金持ちならではだがかなりのアホさ加減だ。
「つーか……あんた娘が覗かれるのは平気なのか?」
「む?そこはそれ合宿によくあるノリってものがあるだろう。今日の為に作ったんだからな。ノリの悪いことはできんだろ?」
この為だけに露天風呂と覗き部屋を作ったらしい。どんどん帝の威厳が地に落ちていくのを感じたが、本人は気にしていないのでそっとしておく事にした。全員が配置についたところでお風呂から声が聞こえてきた。
「みんな〜!外に行こうヨ〜!」
「フィオちゃん!タオル巻いて〜!」
この声はフィオと千種だ。フィオが全裸で出てくると思い智とロリコン以外全員が身を乗り出して登場を待った。だが、露天風呂の扉が開かれて現れたのはタオルを巻いた小牧と水着着用の礼那だった。不思議に思っていると、小牧がおもむろに子供の頭程の石を手に持っている。礼那が見えないはずのこちらを指差して小牧に指示した途端、小牧がその石を投げつけてきた!
「まずい!逃げろ!」
帝が叫ぶがもう遅い!
ガラスの割れる高い音が辺りに響く!それと同時に小牧が部屋に侵入してくる!
「皆様……抵抗しないでくださいませ」
小牧はタオルだけの姿で帝を後ろから押さえ込んだ!他のみんなは混乱しながらも出口へ向かって一直線だ!だが出口には二つの人影、こちらはちゃんと服を着たフィオと千種だ。
「みんな!男らしく観念するヨ!」
フィオの怒った声にみんな観念するしかなかった。
一時間後……廊下には腕を後ろ手に縛られ、目隠しとさるぐつわをかまされた覗き犯達が正座で座らされていた。
するとお風呂を上がった女子達が現れて裁判の始まりだ。
「さて……まず犯人はここにいる全員で間違いないな。首謀者は……智……お前だな?」
智は必死に首を横に振る。だが智は初犯ではないし、確信している礼那にとってそれは無意味なやり取りだった。
「あの部屋は帝様が用意したものでしょう。この二人で間違いないのではないかと」
小牧の補足に帝も首を横に振るがこちらはもっと無意味な抵抗だった。あれだけの施設を智一人でどうにかできるはずはないのだから。一応の質疑応答の為にさるぐつわを外された犯人達だったが、言い訳の余地など何もなく、ただ責められるだけであった。
「お父様!私の友達になんてことをしてるんですか!恥ずかしい!」
「遥香様、帝様については私からじっくり言って聞かせますのでお任せ下さい。全く……言ってくだされば私がいつでもお見せしますのに……」
「いや!違うんだ!それは遥香の性徴……いや成長をだな……!」
こうして大人の発言と帝の無駄な言い訳を残して小牧は帝の首根っこを掴んで引きずって行ってしまった。




