春日井家の人々とモブ其の二
「改めてようこそ諸君。私が遥香の父の春日井帝だ。遠いところへよく来たね。歓迎するよ」
威厳と覇気を全身から漂わせてソファーに座るこの男こそが、春日井グループ会長の息子にして現社長の春日井帝である。
現会長が立ち上げて日本有数の会社に成長したグループを、社長就任以来数年で世界有数の大企業にまで押し上げた辣腕経営者だ。とてもさっきメイドにダメ出し食らって泣きそうになってた男とは思えないほどの眼光を放っていた。
「さて……君がトップだね。遥香をよろしく頼む」
帝は迷う事なく礼那に挨拶をした。この辺りはさすがと言える。殆どの人間は、礼那の外見から礼那が部長である事などわからないのだが、一目で礼那の実力を見抜いてしまったようだ。
「どうも……S.T.A.F.F部長の津島礼那です。……よく私が部長とお分かりですね」
「はっはっは!それ位の見る目がなければ世界とは渡り合えんよ!さて今夜はみんな泊まっていくんだろ?最高のもてなしを用意させるから寛いでいってくれたまえ」
「いえ、私たちは試験勉強に来ただけなのでお構いなく」
「なんでだよ!いいじゃんか!もてなされよグハッ!」
翔が口を挟んできた。しかし礼那に脇腹を肘打ちされて悶絶してしまった。
「お前は礼儀作法と社交辞令も勉強していろ!」
(社交辞令って言っちゃったよ……)
「元気があっていいじゃないか!では私は書斎に戻るから好きにするといい。私も夕食にお呼ばれしても構わないかな?」
「是非、春日井グループ社長の経営哲学というものをお聞かせ願いたいので」
「では遠慮なくそうさせてもらうよ。なにか不都合があれば小牧君に言ってくれたまえ」
そう言って帝は部屋を出て行った。それを見送ってから小牧が口を開いた。
「それでは皆様お部屋へ案内いたします。合宿っぽくというお嬢様の希望で男女で一部屋づつ用意しましたのでそちらへ荷物を置いてください。勉強部屋も教室風に仕上げてありますから、用意が出来ましたらそちらへ移動してください」
小牧の言葉に全員が動く。男子はロリコンが、女子は小牧がそれぞれ案内して部屋に着いた。
「それでは私は外で待っていますから準備が出来たらお知らせ下さい。勉強部屋までご案内致します」
ロリコンが一礼して部屋から出ていく。扉が閉まるのを確認してから翔が言った。
「なんなんだこのうちは!」
「……ああ……確かに凄いな……建物も人も……」
「僕も驚いてるよ。住所もうちがでかいのも知ってはいたけど変人の巣窟じゃないか。逆に春日井さんがなんであんなに普通なのか不思議だよ」
「あのロリコンなんて智と気が合うんじゃない?部長狙われてるっぽいしさ」
「失礼な!僕はロリコンじゃない!シスコンだ!小さい子が好きなんじゃない!好きな姉さんが小さいだけだ!」
どっちが失礼かはわかり兼ねるがカテゴリは違うらしい。
「じゃあ小牧さんは?メイドさん好きじゃないの?」
「三次元のメイドに興味はない。僕が好きなのは二次元と姉さんだ」
どちらにせよ一般的な結婚はできない事がわかった。
「そーいや遥香ちゃんこの間[みんなで泊まると手狭になる]って言ってたけど……どこがだ?この部屋だって二十人は布団敷けるだろ絶対。俺たち五人だけなのに」
「あれじゃない?遥香ちゃん的にはこれくらいで十分狭いってことだろ?」
忠臣はいいところを突いたが、遥香の感性はその上をいっていた。遥香的には一人一部屋が普通だと思っていたので、一部屋に二人以上は全て狭いのだ。
「まぁ俺たちにとっては全然広いしいいんじゃないか?とっとと準備して行こうぜ」
一方こちらは女子チーム、小牧の案内で部屋に入った途端どっと疲れが押し寄せてきた。
「なんなんだあの変態……春日井はあんな変態とよく一緒にいられるな」
「私も中学に入るまではあんな感じの目を向けられてましたよ。流石にお父様の手前実害はなかったんですが……」
「本当に本物なのね……逆に私たちは安全だけど礼那と巫女ちゃんは大変ね……」
湊の言葉に礼那と巫女の顔が引きつった。見兼ねた桃花が話を変えた。
「それにしても凄い家ね。洋館なんて私初めて入ったわよ」
「ワタシもこんなに大きなウチは初めてヨ!でもこんなに大きいのに小牧さん一人で掃除してるノ?」
「はい、小牧さんが来てからは一人で家事を賄ってくれていて助かってます。とっても優秀なんですよ小牧さんは」
「優秀だけど……ねぇ……遥香は平気なの?お父さんを取られるってことだよねぇ?」
「はい!二人が納得していれば構いませんよ。時々よくわからない事を言う時がありますけど私も小牧さん好きですから」
よくわからない事というのは恐らく大人の話のことだろう。小牧はそっち方面は奔放なのだ。
「さてそろそろ勉強を始めましょう。そのために来たんだから」
桃花の言葉に全員が準備を済ませて移動する。




