ミッション開始とモブ
今日から特別授業の開幕。最初の授業は現国だ。生徒であるメンバーが部室で待っていると、講師の遥香が恥ずかしそうに顔だけ見せていた。
「遥香ちゃん、どうしたの?入ってきたら?」
不思議に思った千種が、遥香の様子を見に扉を開けると……
「遥香ちゃん!?その格好は!?」
遥香はスーツをビシッと着こなし、伊達眼鏡と指示棒という女教師スタイルに身を包んでいた。
「これは……智さんが[形から入った方が飛島さんが集中できる]と言ってらしたので……どういうわけかサイズがピッタリの物を用意して下さいました……似合いませんか?」
「智!グッジョブ!この際なんでサイズを知ってるのかはどうでもいい!なあ武流!」
「ああ……いいな……イテッ!」
武流がついうっかり見とれていたのを湊が腕をつねって制した。
「ごめんなさい……」
「もう知らない!」
湊が拗ねてしまった。武流は申し訳ないと思うのと同時にヤキモチを妬いてくれるのが嬉しくもあった。
「遥香ちゃん!授業始めてくれ!」
なぜか翔は泣きながら訴えた。そしてようやく授業が始まったのだが……
「……はい正解です。ここは言葉の意味を理解して解いてください、[大和さん]」
遥香の熱心な授業は大和に向けられていた。
「俺の為の授業だよなぁ!?」
次の授業は日本史だ。講師は桃花。授業は真面目に進んでいくのだが……
「……という訳で西軍大将となった幸村様が……」
「……幸村様?」
「……桃花実は歴女だから……」
湊が少し呆れたように言った。
次は世界史だ。講師はフィオなんだが、何故か格好は第二次世界大戦中のイタリア軍将校の格好だった。
「諸君!敵は連合のビッチ共だ!我ら枢軸の敵ではない!ものども!砂漠でパスタを茹でろ!」
「お前真っ先に降伏してるイタリアのくせになんで仕切ってんだ!あとビッチって英語だろ!砂漠でパスタは黒歴史だろ!?」
「飛島君やけに詳しいね……」
「面白いとこだけな」
キャラがぶれぶれなのは置いておこう。
「ちなみに語学は日独伊なら完璧ヨ!」
今日は英語、徹の出番だ。普段口数が少ないだけあって淡々と授業が進む。
「しっかし意外だよな〜、徹が英語得意なんてよ」
翔がそこそこ失礼なことを言ってのける。
「……まあお袋が英語教師だからな。小さい頃から英語だけは仕込まれてきたんだ。」
「マジで!?それでよく金髪とか許してもらえるな!」
「……これは地毛だ……俺はイギリスとアメリカとフランスと日本のクオーターだ」
なんという大きな設定を今更入れてくるんだ。
(設定って言うな)
「なんか……フィオとは絶対仲良くできなさそうね……」
最後は数学と科学物理、津島姉弟の出番だ。人間味に欠ける二人の授業は徹底した詰め込み教育だ。
「取り敢えず二桁の掛け算を暗記しろ。これだけでテスト中の無駄な時間がかなり削減できる」「これが今度の試験の予測問題だよ。これを全部丸暗記してくれ」
終始こんな感じで徹底的にテストの対策のみを集約された授業が展開されていった。二人の授業の後は生徒は真っ白に燃え尽きていた。
「これが学年一位の授業……恐ろしいにも程があるな」
そして初めての週末、校門前にS.T.A.F.Fの面々が集まっていた。みんなは各々で遥香の家に集まろうとしていたのだが、少し遠いので一度に行きましょうと遥香が言うので学校に集まったのだ。確かに遥香はいつも車で登校してるので納得だ。
「ところで巫女……なぜお前がいる……」
「ふっ……いつまでも私が[お兄ちゃんの妹]枠で満足する女だと思わないことね!私は私なりに立ち位置を試行錯誤してるのよ!」
「お前の立ち位置なんか興味ねぇよ!二年の試験勉強になんで着いてきてんのかって聞いてんだ!」
「なんでって……こんな楽しそうなイベントに来ない手はないでしょ?」
そんな兄妹のやり取りはさて置いて、校門前に到着したのはいつもの二倍はあろうかという長さのリムジンが現れた。
「……春日井……いったいお前のうちには何台リムジンがあるんだ?」
「そうですね……みんな同じに見えるので良くわからないんですが、長さが違うのは三種類あるみたいです」
最低でも四台以上あるのは間違いないようだ。
しかし驚くのはこれだけではなかった。リムジンで遥香のうちまで行くのかと思っていたが、車はヘリポートに止まった。そして一同は大型のヘリに乗って山の方に向かって行った。
「……ヘリは何台持ってるんですか?」
武流は何故か敬語になっていた。
「ヘリコプターは二台だけですよ。家族で使うだけですからそんなに沢山はいらないですもんね」
まるで一般家庭の車感覚で言ってくる。リムジン四台以上は自転車くらいの感覚なんだろうか?
「てゆーか毎日ヘリで登校してるのか?いったいどこに住んでるんだよ!」
「どこと言われましても……あ、ほら見えてきましたわ。あの辺りが私のうちですよ」
ヘリポートを発って十五分ほどか、街中を離れて今は眼下には山しか見当たらなかった。
「……どれ?」
「ですからここから見える山は全部です」
「マジでか!?」
そこから見える山は四つほど、その全てが春日井家の敷地だという。もう桁が違い過ぎて翔ですらどこから突っ込んでいいのかわからなくなっていた。
ヘリは、一番手前の山の中腹に建つ洋館の庭に着陸した。降りたところで遥香はクルッと振り返り挨拶をした。
「春日井家へようこそみなさん」
それはまるで別世界の入り口のような空間だった。




