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主人公とモブ  作者: 文月助椛
〜第五章〜まさか学校を卒業してからテストに関わる事になるとは夢にも思わなかったからどんな教科が普通かもわからないがその辺はフィクションて事で勘弁してくださいとモブ
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インポッシブルとモブ

「諸君、新しい案件だ。我が部始まって以来の大口で、前人未到の難易度だ」


いつものメンツが揃うなり、礼那が口を開いた。前人未到の難易度と言うくらいだがピンとこない。人を派遣するだけではないようだが……


「我が校の男子の団体競技全てから、全く同じ依頼が来た。上手くすれば全てから報酬をもらえる。だから大口だ」


「それは助っ人のブッキングってことですか?前からあることじゃないですか」


遥香の言うことは尤もだった。むしろその為のS.T.A.F.Fであるのだから通常業務と言える。


「ブッキングとは違うんだ。一つの依頼を完遂すれば他の依頼もこなしたことになる。だがその依頼がな……とても難しい……」


礼那にここまで言わせるとは相当に難しいようだ。現実主義の礼那は不可能と判断したらどれだけ報酬が良くてもきっぱり断ってきたはずなのだがどうにも歯切れが良くない。


「部長、結局依頼内容はなんなんですか?一人で悩んでないで話してくださいよ」


「そうだな。その為に集まってもらったことだしな。依頼内容はこれだ。複数枚あるが依頼内容は全て同じだ」


一枚の依頼書に書かれていたのはこうだ。[所属:サッカー部 人数:応相談 :依頼内容:飛島翔の期末テストの赤点回避]


あれは去年の夏。夏といえば運動部はどこも大会に参加するのだ。そして当然のように翔の助っ人が依頼されるのだが、なんと翔は全教科赤点で夏休み中補習に明け暮れて運動部に多大な被害をもたらしたのだ。


「つまり今回の依頼はこの致命的なバカに勉強を教えなければならんのだ!」


「「無理だ!」」


全員が叫んだ。……当事者の翔までもが……


「やはりそう思うか……私も今回ばかりは自信がないので成功報酬という形をとってしまった。失敗する可能性が高い以上信用の為にな」


礼那にとっては苦渋の決断だ。しかしさすがとも言える。いくら礼那が不遜で完全無欠の経営者でも信用を無くしては元も子もない。その辺りをよくわかっている。


「さて問題なのはこのバカだ。授業はちゃんと受けているし、宿題もちゃんとこなしている。なのに点数が取れないとなると、やる気が無くて点数が悪い奴よりもタチが悪い」


(本当にバカなんだな……)


「そこで私は放課後に有志による特別授業を採用してみようと思うのだ。幸いうちのクラスに優秀なのが揃っているからな。みんなはどう思う?」


これも珍しい。方法を決めてもまだ意見を募るなど自信のなさがありありと伺える。


「……翔……ちなみにお前この前のテストは何点だった?」


武流は難易度の確認の為に聞いてみた。


「それは僕が答えよう。四十ニ点だ」


「それならそんなに難しくないんじゃない?平均四十ニ点ならもうちょっとじゃない」


忠臣の言うとおり平均ならば問題ないだろう


「違う。合計四十ニ点だ。七教科の合計点が四十ニ点。平均六点だ」


「「無理だ!」」


またも全員が叫んだ。


結局他の案は[智がハッキングでデータを改ざん]くらいしか出てこなかったので、[有志による特別授業]をやってみることにした。


一応の体制が見えた時に、突然遥香がひらめいた。


「合宿しましょう!」


いつもの遥香からは想像もつかない大声だ。


「合宿で特訓!みなさんどうですか!?」


遥香はなにやら興奮気味で続けた。なるほど確かに週末に翔が自主的に勉強するとは考えにくいが、合宿であれば、夜中までどころかなんなら寝ずに勉強させることも可能だ。


「だけど合宿する場所はどうする?この学校宿泊できるところなんてあったか?」


「それならうちにきませんか?この人数ですと少し手狭にはなりますけどお泊まりくらいはできますよ?」


そう、出番が少なくて忘れがちではあるが、遥香は国内有数の大企業のお嬢様なのだ。今までその設定を活かす話が無かったのでただの空気になっていたがここは活用させてもらおう。


(設定とか言うな!そして便利な道具扱いするな!)


「ではお願いしようかな。講師の選定は各科目の優秀な者に依頼するとしよう。」


こうして、平日は部室で科目毎に勉強、土日は遥香のうちで集中特訓という運びになった。そんなに毎週泊まりに行っていいのかと誰かが言ったが、遥香は大丈夫の一点張りだったので構わないのだろう。


「では今日はもう遅いので明日から始めていこう」


学校からの帰り道、武流と湊が一緒に歩いている。湊の家は武流とは反対方向なのだが、武流は毎日湊を家まで送ってから帰るのだ。


「湊はちなみに前回何位だったんだ?」


「私は二十五位よ。武流君は?」


「……二百二十五位……全教科赤点ラインの一点上だった……湊は受けたらダメだ!差が縮まらない!」


「……えっと……ほら赤点じゃないならいいじゃない!……私と下二桁は一緒で嬉しいでしょ?……ん……後は……え〜っと…私は成績悪くても気にしないよ!……それから……」


湊は必死で慰めの言葉を考えた。


「いいよ無理して慰めてくれなくても!どーせ俺はアホですよ……」


「あん、拗ねないでよぉ……キスしてあげたら機嫌直る?」


「ばっ!……そういうこと簡単に言うな!」


「もう付き合ってるのになに照れてるの?」


「そんな簡単に変われるかよ……」


武流は赤い顔のまま顔を逸らした。今だに直視できない時があるようだ。


「ふふ……そんな武流君も好きだよ!」


言いながら湊は武流のホッペにキスをした。


バカップル全開の二人であった。

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