初デートとモブ
デート当日。梅雨の合間で奇跡的な快晴だった。晴れの場合はプランAだ。事前に三パターン準備していたので天気も問題はないのだが、やはり晴れていた方がいいに決まっている。
武流は巫女も敵だと踏んでいるのでウキウキを極限まで抑えて準備をする。この日の為のフェイクもバッチリだ。新しい服を二着用意して、先週一人で買い物に行く時に一着着ていって[デートじゃなくても新しい服を着る]というイメージを付けるという戦略だ。
メールでの情報操作と妹への牽制に加えて、さらに強力な一手として私の情報を当てにしていた。それに加えて奥の手まで用意する徹底ぶりだった。
「ふ…甘いわねお兄ちゃん。私の役目は[何時にうちを出たか]。それだけなのよ」
そう、巫女も怪しまれるなんて事は智にとってお見通しだったのだ。巫女は智にメールをする。
しかしそれも武流はわかっていた。情報操作の目的は、絶対にばれない事ではなく敵を減らすことだったのだ。偽情報が多ければ多い程そちらにも人数を割かなければいけない事は明白だ。日時、場所に至るまで偽情報をばらまき、その中に本命も混ぜるというリスキーな手まで用意していた。
うちを出た武流は待ち合わせ場所である駅前の噴水前に向かった。ちゃんと時間の十分前に到着、湊を待とうと思ったら噴水の反対側にすでに湊が到着していた。
「湊!お待たせ!」
「大丈夫よ。ちゃんと時間前だから」
振り向いた湊はいつにも増して笑顔が眩しかった。その格好は白のタンクトップに青のシャツ、下はデニムのショートパンツと初夏の装いだ。武流にはその露わになった足が眩し過ぎるらしい。なるべく下を見ないようにしている。
「いつから待ってたんだ?」
「……三十分前……」
湊は照れ臭そうに言った。普段は涼しい顔をして余裕のある立ち居振る舞いの湊も今日は楽しみで待ちきれなかったのだ。
「……その……ゴメン遅れて……」
湊の照れた顔を見て武流までもが赤くなった。
「ううん!私が勝手に早くきただけだから!じゃぁ行こう!」
「おう!」
これまで武流はあらゆる手段で智達を撹乱していたが、湊には連絡方法以外はなにもさせていなかった。今日の事についても待ち合わせ日時とメインの目的地しか伝えていない。湊にはデートに集中して欲しかったからだ。そして武流もこの後はデートに集中する為に、先述の[奥の手]に工作を全て任せる。
「こちら忠臣。二人が合流した。駅前の噴水だ。」
「了解。電車の可能性を考えてホームに人をやるが、フェイクだった場合に備えて待機していてくれ」
智を中心に作戦が展開している。あと何人いるかは定かではないが……
「了解」
二人が電車に乗ると、見計らったかのように電車に乗り込もうとする人影が……智の刺客だ。しかし突然集団が押し寄せて刺客をホームの隅に追いやった。
「どうした!?モブ男の妨害工作か!?」
智の叫びに返事が帰ってくる事はなかった。
武流達の目的地は水族館だ。デートスポットとしては定番だが、だからこそ安心して楽しめるというものだ。
「わ〜!水族館って久しぶり〜!ねぇ!イルカのショーやってるよ!」
湊も気に入ってくれているようだ。大はしゃぎでゲートをくぐる。武流もそんな湊を見ていたら楽しくなってきた。
「あんまりはしゃぐと転ぶぞ!」
「今度はスカートじゃないから平気だもん!」
「パンツの心配じゃねぇよ……」
呆れたように言ってはいるが顔は初めて会った時の事を思い出して真っ赤になっていた。
「なぁに?あの時のパンツじゃないわよ?」
どんな時でもからかうのを忘れない。
「ピンクなんて思い出してねぇよ!」
本気の墓穴だった。湊はニヤニヤして武流の顔を覗き込む。
「いいから行くぞ!ショーが始まっちまう!」
「あん!待ってよ!デート相手を置いて行く気?」
「よし、二人が水族館に入ったぞ!俺たちも行くぞ!」
だがまたしても突然集団が押し寄せて刺客を薙ぎ倒す。
それから二人は水族館デートを楽しんだ。イルカのショーでは武流だけが水しぶきを浴びたりマグロの水槽前で武流のお腹が鳴ったりと一通りのお約束も忘れない。そしてお土産コーナーでは……
「わ〜イルカのぬいぐるみ可愛い〜!」
湊が巨大なぬいぐるみにモフモフしている。
「買ってやるよ。……こっちの小さいのを……」
値札に負けた男が一人……
(高校生には手が出ません……)
武流が、レジに並んで買い物を済ませると湊がいない。すると何故か後ろから湊が現れた。
「ごめんなさい、待たせちゃった?」
どこにいたのか聞くのはヤボというものだろう。
「いや大丈夫。それよりお昼にしようぜ。さっきマグロを見てから腹が減って…」
「クス…いやしいなぁ武流君」




