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主人公とモブ  作者: 文月助椛
〜第三章〜ようやく出ました真ヒロイン、彼女の無双ぶりは作者の熱が落ち着くまでは続くのでついて来てください!とモブ
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逡巡とモブ

武流は湊と別れた後、ずっと物語を聞いていた。1人の女の子の辛い過去の物語だ。


聞いている間、特別いつもと変わらない態度で家族と話し食事をし、風呂に入って自室に戻る頃にようやく話は終わった。


終わった頃には武流の中に今までにない怒りと、悔しさと、もう一つ……武流は感じた事がない小さな感情が一度に胸の中に湧きあがった。


(あいつ……いつも笑っていたな……学校にいる時は誰と話してても……それって本当に自分の感情なのか?……)


考えてもみて欲しい。[誰にでも分け隔てなく接する]という事は[周りの誰しもが等しく同じでしかない]という事だ。そんなことはあり得ないのにだ。


だがそれは無理もないことだ。学生にとって学校という空間は生活の、ひいては人生の大部分を占めていると言っても過言ではないだろう。その中で……例え誰かの仕業だったとしても……完全に孤立してしまっては他人に対して壁を作ってしまっても誰が責めることが出来ようか。むしろあそこまで心の傷を隠していられる彼女の強さは賞賛に値する。


(俺はあいつになにかしてやれないかな……)


してやるとは傲慢だな。


(う……確かに……)


お前の周りで起こったことだけがお前の全てだ、そうだな?


(ああ……それだけだ……)


だったらお前が出来るのはいつも通りに振舞うことだけだろ。


(……)




月曜日ー武流が教室に入ってすぐに湊と目が合った。


「あ、おはよう茂野君。昨日はお疲れ様〜」


「ん?湊、昨日茂野君と会ったの?」



それまで湊と話していた桃花が聞いてきた。


「そうなのよ〜駅前ですっぽかされて寂しそ〜にしてたから声をかけたら、なんと人目に付かない所に連れてかれたの!」


「うっわ……モブ男サイテー……」


なぜか話に参加してない女子にまで言われた。


「はしょり過ぎだろ!仕事を手伝ってもらったんだ!」


ちなみにすっぽかされた原因の二人には朝からシカトを決め込んでいる。暗い奴だ。


「なんだ〜まぁ茂野君に湊をどうこうする度胸なんかないか」


「否定しても肯定しても救いがないこと言うのやめてくれないか!?」


そんな会話の間も湊はずっと笑顔だ。今はそれでもいいと武流は思った。


放課後、武流は昨日の成果を智に見せる為に、撮影機材を持ってアメフト部部室に行こうと席を立った時に湊が声をかけてきた。


「茂野君、昨日のビデオを持って行くのよね?解説がいるなら私も行こうか?」


確かに来てくれたら助かる。だが湊にとっては見たくもないはずなので声をかけられなかったのだ。


「いや、こなくても大丈夫じゃないか?」


「……もしかして私が行くと迷惑?」


湊の上目遣いで困り顔。武流にとっては核にも匹敵する破壊力の攻撃に抗う術はなかった。


「いや全然!助かるよ!お願いします!」


「ん〜?なにを赤くなってるのかな〜?」


「わかっててやってるだろ……」


小悪魔ぶりもいつも通りだ。


アメフト部部室では武流、湊、津島姉弟、九尾、菊花がビデオを見ている。


「やっぱりこの攻撃力は驚異だね」


九尾は改めて相手の強さに感嘆の声をあげた。


「そうですね。ただランは相変わらずバリエーションの一つの域を出ていませんし、実際の試合ではスクランブルも多いんです。それだけ紅の走力が高いのかもしれませんが、裏を返せばラインが弱いと取れると思います」


湊の解説はビデオだけでは読み取りにくい部分を補足してくるので、周りはそれにビックリしていた。


「那古野さん……だったよね。紅南のマネージャーだと聞いていたが流石だね。どうだい?うちのマネージャーに……」


九尾が最後まで言い切る前に、武流が口を挟んだ。


「まあまあ取り敢えず今は研究しましょう先輩!ほら!このレシーバーなんかかなり凄くないですか!?」


この武流の行為をなんらかの意味で捉えたのか、九尾はそれ以上言わずにビデオに目を移した。


「そうだな。しかしこれはやはりQBの上手さだろうな。レシーバーがCB(コーナーバック)を振り切れていないからキャッチは出来てもすぐにダウンしてしまっている」


CBとはWRをマークするポジションだ。アメフトではボールを保持していない選手に故意にタックルしてはいけないので、WRの走行ルートを邪魔したりキャッチした後にタックルするのが仕事だ。


こうして、武流だけがなんとなく薄氷を踏むような気持ちの研究が終わった。


部室に礼那と智だけが残った時、礼那が言った。


「智、少し調べて欲しいことがある」


「わかってるよ、姉さん」


(なんのことだ?これ)


ビデオを見ている間、湊はかなり神経をすり減らしていた。武流は気にしてはいたが、部活に参加しなくてはいけないので明日話そうとした。


だが武流が帰る前に教室に戻ると、湊がまだ教室に残っていた。武流はなるべく部室での湊の態度を気にしない風で話しかけた。


「どうしたんだ?うちに帰らないのか?」


「うん、なんとなくね。でもソロソロ帰るわ。一緒に腕を組んで帰ってあげましょうか?」


「ばっ!……そんなこと出来るかよ!」


武流は努めていつも通りに振舞った。しかしやっぱり耐え切れなくなり、少しの沈黙の後に真面目な顔でこう言った。


「俺は……那古野の事をよく知らないから、那古野が何を悩んでいるかはわからないし、誰でも言いたくないことはあると思う……だからもう無理に聞き出すことはしないけど、もし俺が那古野にとって信頼できる相手だってわかったら相談して欲しい。俺は那古野の事を大事な友達だって思ってるから」


武流の突然の言葉に焦ったが、湊はいつもの調子で返した。


「どうしたの?急に……私なんにも悩んでないよ?カッコつけちゃって生意気だなぁ」


「そっか。悩んでないならいいんだ。じゃぁ帰ろうか。腕組みは無しで!」


「折角カッコつけてるのにそこはちゃんと茂野君なんだね」


本当に嬉しそうに笑った。

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