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主人公とモブ  作者: 文月助椛
〜第三章〜ようやく出ました真ヒロイン、彼女の無双ぶりは作者の熱が落ち着くまでは続くのでついて来てください!とモブ
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下衆とモブ

「なんだ?俺様を忘れられなくて会いにきたのか?」


後ろから声をかけてきたのはプロテクターに身を包んだ大男だった。アメフト部員なのは明らかだったがそれにしても身体も大きいが態度はもっと大きい。


湊は本当に嫌そうに声をあげる。


「……あなたにだけは会いたくなかったわよ……」


さっきの湊の態度の原因はこの男のようだ。どうでもいいが自分のことを俺様と言う人間に初めて会った。


「那古野、こいつは?」


「紅南の主将、(くれない)よ。ポジションはQB……だったかしら?」


「そいつもアメフト部なのか?お前確か名北に行ったと思ったが……スパイにでも来たのか?」


当然と言えば当然だがアッサリばれてしまった。どう言い訳しようか武流が悩んでいたが、紅は意外なほどあっさりした反応だった。


「いいだろう、好きに見て行くがいい。湊が色々知っているから解説してもらうといい。」


思ったよりはいい奴なのかと思ったが次の言葉でそれは打ち砕かれた。


「名北ごときがどれだけ研究しようがうちが負けるはずがないからな。次はせめて十点くらい取ってくれよ。うちの守備にも練習させてやってくれ」


高笑いを残して紅は練習に加わった。


「ビックリしたでしょ。あいつは確かに実力はあるんだけどね……性格が破綻してるのよ。傲慢でワガママ、その上理事長の血縁に当たるからやりたい放題で私は大っ嫌い!」


普段から笑顔を絶やさず誰とでも分け隔てなく接している湊からは想像もつかない程の嫌悪感を発していた。それはただ[嫌な奴]というだけでなく、個人的になにかあったと思わせるには十分なものだった。


「なあ、那古野……まさか……」


詳しく聞こうとしたが湊が話を逸らした。


「ほら、あれが紅南の得意戦術[ショットガン]よ!よく見ておいて!」


(後で聞こうか……)


ショットガンとは攻撃側のパス主体のフォーメーションで、ショットガンの弾のようにレシーバーがフィールドに散って行くものである。アメフトのパスは、サッカーなどのようにレシーバーが自由に動いてパスするのではなく、予め決められたルートを走ってそこにパスをするのだ。


「これは……凄いな……」


「ショットガン自体は珍しくないしラインはそれ程強くないんだけど、QBのパスが早いのとスクランブルがうまいから紅南にはうまくハマってるのよね」


スクランブルとはQBがそのままランすることである。


一通りの撮影を終えて偵察は終わった。湊のおかけで要点を掴んだ偵察になった。


「どう?私を連れて来て正解だったでしょ?」


帰り道、得意満面で湊が言って来た。


「ああ、俺1人だったらこんなに上手く偵察できなかっただろうな!ありがとう!けど……」


武流は我慢できずに紅とのことを聞いてみた。


「紅となにかあったのか?もしかして転校の理由に関係してるとか……」


一瞬、湊がビクッとしたがすぐにいつもの調子で


「あんまり女の子の過去を詮索するとモテないよ」


(話したくない……ってことか……)


「悪かったな!どーせ俺はモテないよ!じゃぁ帰ろうぜ!」


「まぁまぁその内いい子が現れるって」


それからはいつものやり取りをしながら二人は帰った。


今から一年前……紅南高校〜


(チョット待て!まさか那古野の過去話か!?だったらダメだろ本人が言いたくないのに!)


私には関係ない。必要な事を話すだけで[お前は聞いていない前提]だ。


(事情を知ってはいても知らないフリをしとけってことだな……どーぞ……)


「今日からマネージャーやります!那古野湊です!よろしくお願いします!」


湊は元々アメフトに興味があったことから、入学してすぐにマネージャーになった。彼女の人当たりの良さと働きぶりから、すぐに部内で彼女を知らないものはいなくなった。それはもちろん、この頃既にエースであった紅の耳にも入ることとなった。


「お前が湊か?今日から俺様の物になれ」


この当時から紅は傲慢で身勝手な男であった。


「紅先輩……冗談はやめてください。初対面の女の子にそんなこと言うものじゃないですよ。よく相手を知ってから言う事ですよ」


「一度見れば十分だ。そんなセリフは人を見る目の無い馬鹿共の言い訳だ」


湊は不快な気分を表に出さずに、極力丁寧に断る事にした。


「馬鹿かどうかは分かりませんが私は慎重に選ぶ事にしているので今回は遠慮しておきます」


この時湊は、紅の事をよく知らなかったので、軽く躱すだけで終わる事だと思っていた。だがここから紅の陰湿な部分が顔を出し始めた。


この日から三日と立たず部内に二人が付き合っているという噂が広がり、部員達は紅の彼女に仕事をさせられないと腫れ物扱い。他のマネージャーたちにやっかみを受けるようになり、それはすぐさま学校中に伝播した。その頃には付き合うどころか非常にマニアックな性的行為にまで話が膨らんでいたのだった。


「紅先輩!こんな酷い噂を広めたのはあなたですか!?」


「なんのことかわからんが、この際俺様の物になったらどうだ?事の後先が変わるだけだろう?」


「嫌です!こんなことをする相手と付き合えるわけがない!」


その間も様々な悪い噂は広がり続け、仲のいい友達も一人残らず離れていったのだが、それでも湊が挫ける事なく学校に通い続けられたのは、偏にあまり裕福ではない両親からの協力に依るものだった。


決して安くはない学費をかなり無理をして捻出してくれて、それ意外にもあらゆる協力を惜しまなかった両親の為にも必ず卒業しようと決めていたからだ。


だが、そんな湊の決心は、二年生になってしばらくした頃、その両親に噂を聞かれた時に崩壊した。泣きながら両親に事情を話す湊を、両親は「湊が本当に辛いならそんな学校に行く必要はない。学費を無駄にすることなんかよりお前が辛い事の方が辛い」と優しく諭してくれた。


その言葉で湊は転校を決意した。

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