通学路とモブ
通学の途中、路地裏から喧嘩らしき物音が聞こえてきた。
「てめぇ!邪魔すんじゃねぇよ!」
「……お前らこそ朝からつまんないまねしてんなよ」
殴り合う音が数回響く。
「くそっ!行くぞ!」
どうやらかなり一方的な展開だったようで、負けた男達はかなり恥ずかしそうにその場を後にした。
その場には金髪の男一人と顔にアザを作ったひ弱そうな中学生が残った。
金髪の男は学校の有名人だ。
名前は安城徹。留年してなければ武流と同じ二年生だ。有名な一番の理由は喧嘩の話が絶えないことで、入学したその日に学校の不良グループを相棒とたった二人で潰した話は今でも語り草になっている。
ただ一般人に手出しした話を聞かないのは彼の矜恃なのか口を封じているのかは定かではない。
「あの……ありがとうございました!」
中学生はお礼だけ言うとすぐさま走り去ってしまった。
実際はカツアゲされていた中学生を不良から助けたのだが、いかんせん遠目では金髪の不良が中学生をいじめているようにしか見えなかった。
「お前便利だな……」と武流
まあね。これが役目だし
「ふん……」
徹はそれを気にするそぶりもなく学校に向かって歩き出そうとしていた。その時……
「朝からお疲れ〜」
まるで事が終わるのを待っていたかのようにそこに現れたのは、見た目は普通の高校生だった。だが彼は徹を恐れる様子もなく軽い会話を交わしていた。
彼は岡崎忠臣。徹の相棒だ。徹と違いとても強そうには見えないが、話に聞いた限りでは彼もまたそれだけの強さは秘めているのだろう。
「朝から人助けも感心だけどさ、ケンカばっかりしてると不良と思われちゃうよ?」
「ふん……言いたい奴には言わせておけばいい。別に、人からの印象なんて気にしてない」
「だろうね」
「武ちゃん!早くしないと遅刻しちゃうよ!」
二人のやり取りに聞き入っている武流を千種が促す
「おう!待ってくれ!」
「お兄ちゃんなんて置いて行けばいいよぉ!」
「だから待ってくれって!」
そんなこんなで四人が通う学校が見えてきた。
県立名北高校ー
高い進学率を誇るわけでもなく、スポーツに力を入れているわけでもなく、かといって不良の巣窟というわけでもない普通科の高校だ。
長い伝統も格式もない、ともすれば存在意義すら疑問になるほどに普通なまさしく普通高と言える学校だが、唯一の売りは学費と食堂の食費が格安であることくらいだ。
武流にはこれ以上ないくらいピッタリの学校である。
「まぁ実際通ってるから反論の余地も無いが……」
つい突っ込んでしまった武流を他の三人が訝しんでいる。
「なんか今日の武流って独り言多くない?」
「今日って言うか昨日の夜も一人で喋ってたよ」
言ってから巫女がハッとする
「巫女!やっぱり昨日お前!……」
またも巫女に言葉を遮られる武流。
「ほらほら!学校に着いたよお兄ちゃん!」
校門に向かう最後の角を曲がると、なにやら生徒達が騒いでいる。
騒ぎの中心に目をやるとこの学校には不釣り合いな程の高級車が一台止まっていた。
「あぁ……あいつか……」
武流の言う[あいつ]とは春日井遥香。彼女も今日から高校二年生で、とある有名企業の会長の一人娘らしい。
性格はよくいるワガママお嬢様でも深窓の令嬢風でもなく、至って真面目な女子だった。
しかし中学までは金持ち学校に通っていたため時々見せる世間離れぶりのせいで周りがしばしば困惑する場面も多い。例えば……
「え?皆さん制服って一〜二着しか持ってないんですか?それだと汚れて捨ててしまったらどうするんですか?」
だとか牛丼屋に行ったときは
「え?カードが使えないんですか?現金?すいません……私現金って持ったことがないんですが……」
などなど……さすがに一年も普通の高校生活をしてきたからあまりにぶっ飛んだ言行は控えているものの、どこか世間離れした感は残っている。
車で登校も含めて……
「うわぁ!なにあの人!なんでこんな学校にあんな凄いお金持ちの人がいるの!?」
武流達二〜三年生にはもはや見慣れた光景だったがやはり一年生には物珍しいようだ。
よく見ると騒いでいるのは一年生ばかりだった。
実際何故こんな学校に来たのかと言うと、親の方針で一般的な感性を身につけてこいとのことらしい。
確かに入学した頃の彼女を知っている人にとっては納得の理由である。
そんな騒ぎが落ち着いた頃に武流達も到着した
校門の手前で武流、大和、千種が並んでクルッ半回転。後ろを歩いている巫女に振り返ると……
「せーの」「「名北高校へようこそ!」」
三人が笑顔で言うと、
「うん!これからお世話になります先輩!」
巫女はとびきりの笑顔でそう応えた。
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