問題提起と解決策とモブ
翌放課後、智が部室に集まった面々に昨日の報告を行った。
「ハッキリ言って問題が山積みだね。人数、設備、指導体制その他諸々必要な物が最低限を大きく下回っている。」
散々な結果だったらしい。だが礼那、智、翔の三人は、昨日よりもアメフト部を勝たせたいという気持ちが強くなっているようだ。
「人材はいいんだけどな。部員たちはかなりポテンシャル高いな。自分のポジションに必要な能力は俺より上の時もあるし。同じくらいのメンバーが揃ったらかなり強いんじゃないか?」
翔よりも、というのはこの学校においてはとても意味が重いのだ。
「人数は他の部活のレギュラークラスを用意したいな。当日までの間に試合がある部活はあるか?」
「ちょっと待ってね……サッカー部、ラグビー部くらいだね。あとは大体終わってるか予定無しばっかりだ」
ではそれ以外の人材を集めてテストしよう。1番の問題は設備だな……」
確かに人が揃えば試合は出来る。だが環境もそれに匹敵するくらい大事な事だ。
「こうなったら……私の私財を投入しようか……」
「礼那さん、本気ですか?」
それまで黙っていた遥香が聞いた。
「ああ、確かに今のアメフト部は最悪だ。だがあいつらの熱意は本物だ。本物には本気で応えるのが私の流儀だ」
最初はマンガの影響で言い出した事だが昨日の見学で思う所があったようだ。というのもあの後……
「俺たちから聞いたって事は九尾には黙っていて欲しいんだが、今度のダービーで負けたらうちは廃部になってしまうんだ……」
智の情報は間違っていなかったらしい。さらに言うとすでに数年前から部費は無いに等しいほどで、今回の依頼料も部費では賄えず九尾が食費を削って捻出したものらしい。そして部員も食費を削ろうとしたら、九尾に止められたそうだ。たくさん食べてたくさん練習して欲しいと言ってくれたと部員たちは話してくれた。
「だから俺たちはあいつの気持ちに応えたい!部を存続させる為なら何だってする!あいつにもっとアメフトを続けさせてやりたいんだ!」
最後は涙ぐみながら礼那たちに語っていた。
「わかりました。資金に関しては私に任せてください」
「なにを言う。今回は私の個人的な感情による物だ。誰であれ金銭的負担をかけるわけにはいかん」
「礼那さんがそこまで言う方たちなのでしょう?でしたら投資させてください。いわばスポンサーですよ。それなら私にも利益がありますから」
利益などあるわけがない。わかってはいるが遥香の気持ちに応えないわけにはいかない。
「わかった。ではお願いするとしよう」
短くそう言うと二人で笑顔を交わした。
「さてこれで資金の問題は解決だ。後は指導者の問題だがこれはすぐにどうこうできる事ではないので作戦及び指揮は私と智でやる」
そこからの津島姉弟は素早かった。あっという間に人員のリストアップと協力要請、備品の手配等諸々の作業がわずか十分足らずで済んでしまった。
「ではこれから私と智は九尾先輩と打ち合わせに行ってくる。男子共はアメフト部の練習に参加しろ。女子は通常業務を終わらせたらこのメモの場所に行ってくれ。先方には話はつけてあるから行けばわかる」
礼那はそう言ってすぐに部室を後にした。普段は部室で小説を読んでいるところしか見た事がない徹、忠臣、巫女が唖然としている。
「礼那お姉ちゃんがあんなに働いてるとこ初めて見たよ。本読んでるか智先輩を殴ってるくらいしか印象なかったのに」
「俺もだ。どっちかって言うと座って頭と人を使うだけってイメージだな」
「あぁそうだね。今年から見た人にはそうかも。去年の……特に設立当初はあんな感じだったよ。何しろ前例のない部活だからね。人集めから苦情処理まで殆ど一人でこなしてたよ」
「なんか……独立、起業、急成長して軌道にのった会社の社長みたいだね。かっこいいなぁ」
みたいというかそのままである。収支が現金か食券かの違いだけで、やっている事は最初の名前の通り人材派遣会社なのだから。
アメフト部部室前に人だかりが出来ていた。礼那が集めた助っ人たちである。そこへ礼那と九尾が現れた。
「みんなよく集まってくれた。感謝する。早速だが、メールにも書いた通りテストをさせてもらう。今回の仕事はただ参加するだけでなく勝つ事が目的だ。ちょっと小遣い稼ぎに来ただけの者は容赦なく振り落とすから覚悟しておけ」
と、なぜか礼那が仕切っていた。
「……津島さん?部長は僕なんだけど……」
礼那は構わず続ける。
「だがテストに参加するだけでも報酬は払うので安心してくれ。ちなみに今度のダービーに勝利した暁にはボーナスも払うので頑張ってくれたまえ」
かくしてテストは始まった。
「九尾先輩。今回はあくまで試合に勝つ事が目的ではあるが、有望そうな一年にも声はかけておいた。入るかどうかは本人次第だが勧誘くらいはしてみてもいいかもな」
「ああ、ありがとう津島さん」




