帰り道とモブ
「済まなかった!俺のせいで迷惑をかけてしまって……」
徹が遥香に頭を下げていた。本当に悪いと思っているのだろう。遥香の腰よりさらに下まで頭を下げている。
「安城さんのせいではないですよ。悪いのはあの不良の方たちなんですから」
そして巫女が泣きながら遥香に言う
「遥香お姉ちゃん!本当にごめんなさい!私だけ逃げちゃって……怖くて……」
「仕方ないわ巫女ちゃん。誰だって攫われそうになったら逃げるものよ」
本当に怖かったのだろう。まだ遥香の手は、僅かに震えたまま大和の手を掴んでいた。だがそれを顔に出すことなく優しく徹と巫女に微笑みかける。
「そうだよ徹。大体あいつらさっき思い出したけど、徹にナンパを邪魔されてた奴だったし、逆恨みだよ」
「とりあえず帰ろうか。ここにいたらそのうち警察が来るかもしれないからな」
智が撤収を促す
「しっかしなんだかんだ言っても徹は強いな!」
倉庫を後にした帰り道、武流を背負いながら翔が突然言い出した。
「俺、人があんな風に回るの初めて見たぜ。なんてーの?側転してるみたいな」
「あいつが弱すぎるんだ」
「それ俺に対するイヤミに聞こえるよ?照れ隠しなのはわかってるけどさ」
「照れてない!」「ハイハイ」
そんなお喋りをしながらみんなで歩いている時、武流が目覚めた。
「ハッ!ここは?」
「おー起きたか。おはよ〜」
翔が肩越しに声をかけてくる。
「翔!?え!?ケンカは!?春日井さんは!?」
記憶が混濁しているらしい。状況が全く飲み込めていない武流に千種が説明する。
「全部終わったよ武ちゃん。遥香ちゃんはほらそこに……」
千種が指差す先にはまだ大和と手を繋いでいる遥香が、恐怖ではないドキドキに震えている。少し千種の頭に怒りマークが見えるのはきっと気のせいだ。
「終わった……良かった……けど俺……カッコ悪っ!」
「そんなことないよ〜一番に駆けつけてくれた時はカッコ良かったよ。すぐにやられるまでは」
忠臣がフォローしてくれるかと思いきや一言余計だった。
「アハハ!タケルカッコワル〜!」
フィオが追い打ちをかける。さすがにこれは相当効いたようだ。翔の背中で武流がうなだれる。
「あ〜嘘嘘!冗談ヨ!タケルもカッコヨカッタヨ!」
「……」
「仕方ないナァ…チュ!」
「なっ!」
フィオが武流のおでこにキスをした。これにはそこにいた全員がビックリしていた。
「ちょ!なんで武流だけ!ズルい!」
翔の全力の抗議の勢いで武流は背中から落ちてしまった。
「ん?みんなもして欲しいの?いいよ!みんな頑張ったもんネ」
男子校生には刺激が強すぎるが、もちろんフィオにとってはホッペにキスくらいただの挨拶程度だ。そこにいる男子全員に……智は拒否したが……キスをして周った。大和には口にしようとしたが千種と遥香と巫女が全力で阻止した。
皆が騒いでいる少し後ろ……礼那と魅華が二人で話していた。
「ありがとうございます岡崎先生」
「ん?何がだ津島姉」
「とぼけるのであればこれは私の独り言です。本来なら不良たちにはもっと増援が来ていたはずです。ここらの不良のOBにまで話が及んでいた事はわかっています。ですが先生のおかげでOBたちは来なかったんですよね。元伝説のレディースグループ[サキュバス]の初代ヘッド、岡崎魅華の計らいで」
「よく調べたな。OBの件は知らないけどあたしの事をな。あたしに惚れちゃった?」
「それだけは絶対にあり得ませんが感謝はしています」
「つれないねぇ。ま、あたしとしてはこんなつまらない事件で大事な生徒たちが大怪我しなくて良かったってなもんだな」
いい感じにまとまった所で武流が疑問に思う。
「ところでさ、何人かは逃がしちゃったんだろ?また報復とかはないのかな?」
確かに武流の心配は尤もだ。不良というのは簡単に逆恨みする生き物だから。
「それはないだろ。なにしろ徹はいまや二百人の手下を持つ大番長だからな」
事実はともかく明日にはその話もそこら中を飛び交っているのだろう。徹の雷神伝説はますます広がる一方だ。
「それに……」
少しモジモジしながら遥香が付け足す。
「多分犯人の人たち……かなりの人数が社会的に消されるんじゃないかと……今日の件は恐らく父の耳にも入ると思うので……」
可愛い顔して可愛い仕草でそんな恐ろしい事を言ってのけた。
(金持ちって怖ぇ……)
そこにいた全員が思った。




