雷神の槌とモブ
「智、男子生徒全員に連絡。人海戦術だ。河川敷に集めるだけでいい。私たちも行くぞ」
「わかったよ姉さん。けど女子は危なくない所にいてよ」
徹と翔が倉庫に着いた。言葉を発することなく二人が頷いて、倉庫の大きな扉を開く。中には忠臣の他に十人程が立っていた。
「おっ、遅かったね。二人は三番と四番だよ。」
「えっ?二番は?」
忠臣が倉庫の端っこの床を指差す。見ると武流がうつ伏せで倒れていた。
「モブ男……」
「つくづく主役になれない男だな……」
「登場したとこまではカッコ良かったんだけどね〜」
前回の引きのテンションで、考えなしに飛び込む武流。だが、所詮ケンカをしたこともない一般人の武流は、近くにいた不良Aくらいのザコに一撃で早々にK.Oされていた。カッコ悪〜。
「さて、そこのリーダーさん。本命の雷神さんが登場したわけだけど……まだやる?」
「お前まで雷神ゆーな……」
雷神ではなく相方の風神に半分もやられてしまって勝ち目は全くないはずだった。だがしかし……
突然、倉庫の入り口が再び開くと、そこには不良たちの援軍ざっと五十人。
「どうだ!これだけの人数相手に勝てると思ってるのか!?」
「…えっと…残りは合わせて六十人くらいか?だから一人当たり……えっと……」
翔が深刻な頭の悪さを発揮した。
「そんなに難しい計算でもないだろ…二十人だ…」
徹が引きながらも答える。
「そうか。じゃぁ誰が先に二十人いけるか勝負するか?」
「乗った。負けたらA券一枚な」
「ちょ!俺もう十人相手にしてるから不利なんだけど!?」
三人は軽く言っているがそれほど簡単なことではない。お互いわかった上での挑発であった。
「くそ!舐めやがって!お前らやっちまえ!」
まんまと挑発に乗ったリーダーの、ありがちな言葉でケンカが再び始まった。
三人ともそこらの不良に簡単に負けるようなことはないのだが、残りが二十人程になる頃には段々ペースが落ちてきた。
「あいつらだいぶ疲れてるぞ!チャンスだ!」
不良の誰かが叫んだ時、三たび倉庫の入り口が開いた。
(くっ!また増援か!?俺はともかくこいつらにはキツイぞ!)
徹が二人の事を案じるが、そこに立っていたのは見たことのある顔、同じ学校の運動部の連中だった。他にも倉庫の大きな扉から見渡しても入り切らない程の人数が集まっていた。
「待たせたな徹!加勢にきたぜ!こっちは二百人だ!」
智が声を張り上げる。実際は百五十人程だったが、外はすっかり暗くなっていて数えることはできない。さらに後ろの方は人数合わせの普通の高校生であったが、そんな所まで見る者もいない。
半数以上がたった三人にやられている状況で、不良たちにとっては残りの十倍の数を相手にすることになる。勝ち目がないと悟った不良たちは一目散に裏口から逃げ出した。
裏口を抑えなかったのは、あくまでも目的は人質の救出であって殲滅ではないこと。そして集まった殆どが普通の高校生であるため、ケンカに巻き込むわけにはいかない為である。
礼那の作戦の要は、いかにして相手のやる気を削ぐかにかかっていたが、徹たちがかなり人数を減らしてくれたので見事に成功であった。
「お前ら!逃げるな!くそっ!こっちには人質がいるんだぞ!わかってんのか!?」
リーダーが遥香を監禁している部屋に入ろうとした時、中から扉が開いた。
「返してもらったよ」
中から現れたのは遥香の手を引く大和だった。混乱に乗じて遥香を助けたのだった。
「くっそー!こうなったらせめて雷神だけでも!……」
腰から警棒を取り出すリーダー。間にいた忠臣を一撃で沈めた。今日一番疲れているとはいえ、忠臣を一撃である。
(こいつ、強い!)
そのままの勢いで徹に襲いかかる!
しかし、またも一瞬で勝負は決まった。リーダーの警棒は空振りして、代わりに徹の拳がリーダーの顔に突き刺さり、体が真横に一回転して床に落ちた。
「お前…強すぎる」
リーダーはそのまま気絶してしまった。




